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学び直しの宿痾

割引あり

近頃、と言っても年単位でだが、「学び直し」という言葉をよく耳にする。学び直しを謳った書物が溢れ、学生でも理系でもない友人が空き時間に「とある」や「ヨビノリ」を観始めたのは、やはりコロナ以降のことだろう。かくいう私も、夏生さんと「学び直し中高数学」と銘打って配信を行っている。

なぜ人は、学び直したいと思うのだろう

あの頃の自分へ

思うに、「学び直し」の本質はコンプレックスの解消にあるのではないだろうか。「sin, cosなんて役に立たないよ」と合理化するとき、「学校の先生が嫌いだった」と転嫁するとき、「理系の才能なかったわ〜」と自虐するとき、私たちが守っているのはあの頃の自分なのだ。あの頃の自分にはできなかったけど、それは自分に才能がなかったということではないし、できないよりはできたほうが良いこともわかっている。それ自体、全く悪いことではないと思うし、実際そうなのだろう。けれど、ときどき自分より数式を上手く扱う人を見かけて、憧れ・嫉妬・尊敬・軽蔑といったごちゃ混ぜの感情たちが騒ぎ出すのだ。これも自然な感情だし、多かれ少なかれ誰にでもあるものだと思う。もちろん、僕にもある。アカデミックには僕より賢い人しかいない。
コロナ禍で仕事に制限が生まれ、そうでもしないと休みを取らない日本人たちを余暇が襲った。屋内でできる趣味があればよし、そうでなければYouTubeやSNSに時間を溶かし、感情たちは増長する。あるものは反ワクチンに、あるものは政治批判に傾倒する。自分の生産性に対する疑問が焦燥感となって背中を灼く。
こうした負の感情に向き合うポジティブな試みの一つが学び直しであると言えるだろう。いかに数学を避けてきたとはいえ、社会に生きるうえで、あの時よりは論理的思考も知識も身につけているし、いまは電子書籍もYouTubeもある。今こそあのときの自分を救い、更にスキルを身につけて仕事にも還元しよう。現職より将来性のある他の仕事に就くのも良い。筋トレと一緒に毎日の習慣にしよう。そんなふうに考えたのは僕だけではないはずだ。

ところがどっこい、そうは問屋が卸さない。上手く行っていたのなら、コロナ明けから年収は右肩上がりになっていたはず。一方お腹も一向に引き締まらないときたもんだ。狸の皮はとれずに終わる。
ひとえに、どちらも「時間がかかる」ということに尽きる。一日でできるようになることはわずかだし、つまらないところに引っかかって時間を無駄にすることもしばしばだ。覚えたと思ったことは忘れ、進展しているのか後退しているのかわからなくなってくる。たまにわかったと思っても、次の瞬間にはわからなくなっている。増えては減り、減っては増える筋肉や脂肪と全く同じことである。そもそも継続できるなら、ビール腹などに悩まないのだ。コロナがあろうがなかろうが、できる人らはやっている。

振り返ってみると、運動も勉強も、続いていたのは学生時代だけである。嫌々ながらも部活に通い、宿題をこなして試験を受けて、とにかく継続させられていた。実に10-16年もの習慣である。どうして失ってしまったのだろうか。

かくして、若き日の自分は救われずに終わる…。

「学び直し」を成功させる4つの方法

いやいやそれでは困る。あの頃の自分を救えるのは自分しかいないのだ。

そこでまずは、「学び直し」が失敗する原因を考えてみよう。大きく分けて、

  1. モチベーションの低下

  2. 時間の不足

などが挙げられるだろう。これによって継続できなくなったり、

2に関しては人によるので何とも言えないが、どうしても仕事以外の時間を確保できないのなら、そしてその状況に完全に満足しているのでなければ、仕事や人生そのものについて考え直す必要があると思う。フランスに来て、より強くそう思うようになった。朝から晩まで働いて、帰って寝るだけ、という友人がいるという話をしたとき、フランス人の同僚が悲しそうな顔で「sad lifeだね…」といったのが忘れられない。

多くの場合、問題となるのは1のモチベーションで、これがあれば時間も捻出できることが多い。そしてこれが非常に厄介だ。

感情というのは非常に流動的で、長期的なコントロールが非常に難しい。やる気になったときに勉強するのは簡単だが、筋肉がつくまでに必ずやる気の出ないときが訪れる。したがって、問題は「やる気の出ないときにどうやって継続するか」という点に絞られる。継続さえできればいずれやる気が出るときが来るし、効率が悪くとも必ず前進する。効率はやる気の出たときに上げればよいのだ。それに、いくら効率が良くても継続しなければ (量を確保しなければ) 成長はない。

東大生の勉強継続法

さて、モチベーションを如何に保つかという問題については、前の記事でも少し語ったが、自分なりにいろいろ試した中から、主に浪人時代試したことを具体的にいくつかを紹介したうえで、抽象化していきたい。
(毎度昔話をするのは気後れするが、長期的なモチベーション維持がわかりやすい成功につながった体験はそうそうないのでご容赦いただきたい)

N=1 の個人的な体験なため、以下有料とする。

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