電車が紡ぐ、それぞれの人生なのだ。
とある夕暮れどき。僕は浮き立つ足取りで鈍行電車に乗りこんだ。青春18きっぷを使って、あてのない旅に出るところだ。
ゆらゆらゆら…ゆらゆらゆら…ゆらゆらゆら…。
レールの継ぎ目で電車が規則的に揺れる。ガタンゴトンという音も相まって、とても心地よい。ふと、周囲を見渡してみる。
車窓から差し込む西日に照らされた車内には、数人の乗客がいた。
ドア付近の手すりに寄りかかり、スマホの画面に釘付けになっている女子高生、足を投げ出し、我が物顔でシートに座り込む初老の男性、膝の上でノートパソコンを開き、気難しそうな顔でキーボードを叩くサラリーマン…。
いち、に、さん、し…。手持ち無沙汰を紛らわすため、試しに数えてみると、僕をあわせて8人が乗っていた。これまでに歩んできた人生や置かれている境遇、年齢、性別などがまったく違う人々が、同じ電車に乗り合わせている。
当たり前のようだけれど、これって実は奇跡なんじゃね?とか思っちゃったり。
言葉を交わすようなことは決してないけれど、今この瞬間だけは、僕たちの人生は奇跡的に交差しているんだな。そう考えると、寂しいような嬉しいような複雑な感情が、心の底からふつふつと湧き上がってくる。
そして、彼らは何事もなかったかのように各々の駅で降り、それぞれの人生に帰っていくんだ。多分きっと、僕らの人生は今後、交わることはないんだろうな。寂しいね。うん、寂しい。なんなんだろうねぇ、この気持ちは。
こうやって今日も、僕が知らないどこかの電車の中で、皆の人生が奇跡的に交差しているんだな。