太陽族について話したチャットのあの子。
2000年代前半は、僕にとって忘れられない年代だ。インターネット上には、おもしろフラッシュや各種の掲示板があふれかえっていた。
小学生だった僕は、暇さえあればそれらを見て楽しんでいた。あまりに夢中になったもんだから、1日1時間っていう制限を親にされたっけな。
なかでも傾倒していたのはチャットだ。自宅にいながらにして、日本全国の人とリアルタイムで会話できることがとても革新的に見えたんだ。
他愛ない話をしては盛り上がったり、ときには喧嘩をしたり。ここに書くのが憚られるほど幼稚な悪口の応酬を重ねてたっけな。
毎日のようにチャットルームに入り浸っていたんだけれど、どんな人とどんな話をしたのかまでは全く覚えていない。ただ、唯一ひとつだけ記憶に残っている会話がある。それが、今回のタイトルにも記した内容だ。
いつものようにチャットルームに入った僕は、青森に住んでいる同い年の女の子と知り合った。
なんでも彼女は陸上部に所属しており、朝練・夕練といったハードな練習を毎日しているそうだ。家に帰ると毎日チャットを楽しんでいるらしい。「彼女もまた、僕と同様にチャット愛好家なんだな」と、当時の僕は思った。
とりとめのない話をするなかで、“好きな音楽”の話になった。彼女は「太陽族」というバンドが好きだと熱弁していた。
しかし、あの頃の僕は音楽にとても疎く、名前を聞いてもピンと来なかった。それに、「音楽を知らないのは恥」だという、今考えると全くもって謎の考えしていたので、彼女との会話が急に恥ずかしく感じはじめた。
そしてそのまま、別れの挨拶を交わすこともなく、僕はチャットルームをあとにした。音楽について話すまでは、すごく気があって面白いなーって思っていたのにだ。
こんな経験をしたからだろうか、中学生になった途端に音楽鑑賞の楽しさに目覚めてしまった。大人になった今では、自作の曲で弾き語りをするほどにまでなっちゃったよ。
僕が音楽を好きになったのも、彼女のおかげかな。今ならきっと、「太陽族」の話で1~2時間は語れるのになあ…。