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響け!ユーフォニアム Vol.1 ~入学式でウーマンボ

もうすぐ中学生になる春休み。
私はどの部活動に入るか悩んでいた。

そんなある日、仲良しの友達と、軟式ボールとグローブでキャッチボールをして遊んでいると、『一緒にソフトボール部に入ろうや』と言われた。
私は確かに運動神経はそんなに悪くはなかったが、どうしてもソフト部で大活躍しているイメージが描けなかった。
球技は好きだけど、う~ん。なんか違う気がする。

母に「お母さんは何部やったん?」と聞くと、『吹奏楽部よ』と言われた。吹奏楽部でクラリネットを吹いていたらしい。

吹奏楽部か……。でも音楽はピアノを少しかじったというか、もはや舐めた程度で、自信がなかった。
楽譜だって、そんなに読めなかったし。

でも何故だか、何となく、吹奏楽部ではなかなか活躍しているようなイメージはできた。ピアノにはあまり夢中にならなかったけれど、学校で吹くリコーダーは我ながら上手な気がしていた。
そして何より、私は音楽が大好きだった

楽器の種類もそんなに知らなかった私は、当時運営していたハムスターのホームページの掲示板で、常連さんに質問をした。
たまたま常連さんは、現役吹奏楽部や元吹奏楽部が多かった。

『初心者ばっかりだから大丈夫だよ』
『私も楽譜すら読めなかったけど大丈夫だよ』
と、みんな優しい言葉をかけてくれた。

「吹奏楽部、いいかもしれんなあ」
そして常連さんに質問をする。

「小学校の行事で、マーチの『双頭の鷲の旗の下に』を演奏したんだけど、私アルトアコーディオンをやったの。その時に、オブリガードが最高に気持ち良かったの。主旋律より、副旋律を担うことが多い楽器って何かな?」

常連さん達はみんな
『それなら、断然ユーフォニウムだね』
と言った。

それが私が初めてユーフォニウムという楽器を知った瞬間だった。

そうだ、吹奏楽部に入って、ユーフォニウムとやらを吹いてみよう。
ユーフォニウムなら経験者もいないだろうし、迷惑をかけることもないだろう。入部した時から差がつく事もないだろう。

そして、迎えた中学校の入学式。
入学式では、吹奏楽部が演奏をするようだ。
物凄く上手だったら、私が入部したら迷惑をかけるかもしれないから、入るのはやめたくなっちゃうかな……なんて思っていたが、大丈夫だった。

めちゃくちゃ下手くそだった

これなら大丈夫や。
でも、こんなに下手くそで、演奏していて面白いのかしら……。
と別の不安が出て来て、入部していいものか……と悩んでいたら、あっという間に入学式は終わってしまった。

そして、新入生退場。
吹奏楽部が楽器を構える。指揮者がタクトを構え、振り下ろす。

ブッバ!ブブブブバ!ブブブブバ~~!!

退場曲はまさかの『マンボNo.5』だった。
保護者席から、クスクスと笑い声が聞こえる。
緊張しているはずの新入生も、友達と顔を見合わせニヤニヤしていた。

この中学の吹奏楽部は、下手なだけじゃなくて、選曲センスもないのか。
入学式の退場曲なんて、もうマーチでいいやん。
それが嫌なら、せめてJ-POPでいいやん。

私はまだ吹奏楽部に入部もしていないのに、恥ずかしくてたまらなくなり、うつむいて赤面した。
下手くそなマンボNo.5を聞きながら、顔を真っ赤にして退場した。

恥ずかしかった。きつかった。

そして私は決めた。
これは吹奏楽部に入らないかんと。
変えなきゃいかんと。



吹奏楽部に入って、入学式で、ちゃんと相応しい曲を選曲するんや

私はそんな妙ちくりんな使命感を持って、吹奏楽部に入部した。

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