チャップリンVSヒトラー

以前、こんな芝居がかった記事を書いてみたのだけど。

頭の中はともかく。
実際のところ現実では何が起きていたのかというと。
この本に出会っていたのでした〜。




なんかすごい表紙だよね。
半分チャップリンで、半分ヒトラーなのです。
当時はまだ出版されて間もなかった。

それまで、わたしはマイケル・ジャクソンの延長と比較対象として、チャップリンに興味を持っていて、有名どころの作品を見るにつれて、どんどん嵌まり込んでいく真っ最中だったんだけど。


この本に出会ってびっくり。

チャップリンと比べるべき相手は他にいた!!!!

それが独裁者のアドルフ・ヒトラー。

世界史大好き人間だったので、WW2のこととか、ナチスのことも勉強するのも好きだった。
映画を見るのも好きだった。

でもそれはまた全然違う思考回路の話で。
まさかそこが繋がるなんて思っていなかったんだよ。


だって喜劇王と独裁者だもん。
対極もいいところ。


繋がるどころか、お顔がぴったりくっついちゃってるわけなのですが。
一体これはどういう本なんだろうか…
いろいろ無理にこじつけてるだけ?




そういえばチャップリンは「独裁者」っていう映画を作っている。
真っ先に見た。
よく考えてみれば、

あれって、時系列的にはいつ頃の作品なんだろう…

あれこれ考え始めたら止まらなくなって、期待半分に読んでみました。

そしたら、これが凄まじい本だった。
学校で習う世界史より、めちゃめちゃ面白い。
思うに受験生諸君は文化史を蔑ろにしてはいけない。
なぜその作品が生まれるに至ったのか、背景にはやはり「歴史」と「リアル」が隠れている。

チャップリンとヒトラーの共通点

チョビ髭

まぁ、そうだよね。一目瞭然ですよね。
陽気なおじさんと、冷酷なおじさんは同じ髭を持っている。
これは誰が見たってそうでしょう。

ただおもしろいのは、

チャップリンは滑稽さのために。
ヒトラーは威厳を持たせるために。

という、両者とも全然違う理由でこのトレードマークを選んだところですね。不思議。


正直なところ、このチョビ髭以外にこの2人に共通点があるとは到底思えない…。

と、思っていたけど、そんなことはなかった。
なかった、どころではなかった。






なんとこの2人は、同じ1889年の生まれだったのです。
まさかの同級生。
しかも、驚くべきことに、誕生月まで同じ4月。
チャップリンは16日。
ヒトラーは20日。

たったの4日違い。
すごいところまで寄せてきた!

そしてさらに2人に共通するのは、メディアの力をうまく使った人物であるということ。
当時はラジオの域を超えて、映像媒体が大きく発展を遂げた時期でした。
チャップリンは、映画スターとして無声映画で世界的な人気を勝ち得、ヒトラーは世相を操るための演説を広めるプロパガンダとして、これを大いに活用しました。



この2人は全く同じ時代を、同じ得意分野で、同じトレードマークを背負って生きていたことになりますね。

生き方は全然違ったわけだけど。
他にもナポレオンに愛着があるなど、細かいところにも共通点があります。

生い立ち


出自に関しては、チャップリンは非常に貧しい家で育ったようで、小さな頃から芸を磨いて家計を助けていたようです。貧しい生活を知っているからこその、民衆を勇気づける放浪紳士チャーリーなのかもしれません。母親は精神疾患を持っていて、チャップリンもまた愛情に飢えていました。

ヒトラーの出自は謎めいていますが、父親はお役人。裕福ではないとはいえ、極端に貧しくはなかったと言われています。ただ、父親は暴力的な性格で、家族によく手をあげていたそう。ヒトラーはそんな父親の姿に反発しながらも、暴力による支配を崇拝するようになります。



ここでも、裏口から出たのか、表玄関から出たのか。

この違いを見ているような気分になる。
とくにこの2人はスケールが大きいな〜。

ナチスとチャップリン

ヒトラーは世界中で大人気だったチャップリンが気に入らなかった。自分と同じ髭を持っているだけでも、目障り。
ナチス党員はチャップリンの公演を妨害しにも行きますが、あまりの人気により、詰めかけた人だかりで、近づくことすらできなかったんだとか。


最終的にお得意の

「アイツはユダヤ人だ!!!」攻撃に出る。
事実、チャップリンはユダヤ人ではなかったのですが、ここで「違う!」と安易に言ったら、それはそれで差別的に見られて印象が悪くなる。

どうするチャップリン〜。

「私はユダヤ人はないが、もしそうであったなら、光栄だね。」


と、賢い切り返しで、ピンチを乗り切る。

頭いい。

お互いのことを全く知らない、関係ない、ということもなく。両者とも相手の存在が頭の片隅にあって、直接的ではなくとも、嫌厭し合うような関係であったようです。

映画『独裁者』

ここまできたらもうわかるかもしれません。
チャップリンの有名な映画『独裁者』は、ヒトラーを攻撃するために作られたということですね。
今でも反戦映画としてナチスを批判する作品はたくさんあるけれど。
超リアルタイムで批判しているところがすごい...。

その分、この映画の制作に当たっては相当な圧力を受けていたそうです。
それもナチスだけではなく、イギリスやアメリカからも。
制作が始まった当初は、ナチスはまだ侵攻も始めておらず、ユダヤ人の迫害についても公にはなっていませんでした。
イギリスとも協調姿勢。
だから、むやみやたらにヒトラーを刺激しようとするチャップリンの映画は、国際情勢的には支持されなかったんですね。

自分の作品すら流してもらえない事態に陥りました。
それまで無声だった映画にも声が入るようになり、喜劇王の他の2人の名声も衰え始め、チャップリン自身も岐路に立たされていたといえます。

でも、これはやる価値がある。



チャップリンは反対を押し切って、人生をかけて映画の製作を続行します。

あらすじ

「独裁者」はどんな内容か、簡単にご説明しましょう〜。


チャップリンはこの映画で一人二役をやっています。
一役目はそれまで得意としていた放浪紳士チャーリーに似ているユダヤ人の心優しい床屋の役。
もう一つが、ヒトラーにそっくりな独裁者、ヒンケルです。
トメイニアというナチスにそっくりの架空の独裁国家において、この2人の物語が同時進行していきます。

床屋さんのシーンはほぼこれまでの、放浪紳士チャーリーのキャラクターを踏襲。迫害されるシーンもあるけれど、笑えるパフォーマンスもたくさん。
お客さんの髭をブラームスの音楽にのせて切っていくシーンは面白いです。

一方、ヒンケルのシーンでは、間抜けな独裁者を演じることで、ヒトラーをとことんバカにしています。本人そっくりのデタラメドイツ語で中身のない演説をして笑いをとったり、隣国のムッソリーニを彷彿とさせる相手と子どもっぽく張り合って見せたり。おもしろおかしく、少し異常な面も見せながら独裁者を演じています。

ある時、床屋はゲシュタポの怒りをかい、捕まって収容所送りにされてしまいます。運良く、昔命を救ったよしみで懇意にしていた党員に助けられ、調達した党員服で仲間になりすまし、そこから逃げ出そうとするのですが...

見つかってしまった!!!

けれども、なぜか相手はびっくりしているんですね。
捕まえようとしてこない。


どうしてだろう?と戸惑っていると、そのままナチスの集会場まで連れていかれてしまいました。

実は、床屋さんと独裁者ヒンケルは、容姿が瓜二つだったのです。
だから、党員は総統だと勘違いして、本来であれば本物がするはずだった演説のステージに床屋さんをあげてしまうんです。

このまま本物ではないとバレてしまったら、命が危ない。
怯えながらも、成り行きでステージに上がった床屋さんは何を語るのか...。



平和を訴える内容。このスピーチは、この映画で最大の見せ場であり、後世に語り継がれる映画史にのこる名場面です。







ここには載ってないですが、この演説の後、友達のハンナに向かって勇気づけるように呼びかけます。
チャップリンのお母さんは、この役と同じ名前なんですよね。
多分、偶然ではないと思われる。
お母さんに向かって言っていると思うと、また別の意味ででじんときます。






映画の成功




製作時は反対の圧力にさらされていたチャップリンですが、公開する頃には情勢はかなり変わっていました。

映画の公開直前にナチスはフランスを征服。
第二次世界大戦が激化し、どこの国も戦火によって悲惨な状況。
多くの人が戦争により、希望を見出せず、大切な人を亡くし、疲れ切っていました。
そんな中で、この映画のメッセージは広く好意的に受け入れられて、人々を勇気づけ、大成功を収めました。

またもう一つの大きな功績は、ヒトラーを笑い物にしたことです。
デタラメドイツ語演説の笑いが世に広まった後では、ヒトラーは思うように演説ができなくなってしまいました。
映画を観た後では、もうそれは威厳のある演説ではなく、笑いを引き起こすパフォーマンスにしかうつらなくなっていたからです。
チャップリンはヒトラーを笑い飛ばすことによって、その悪魔的な演説の力を無力化し、封じ込めてしまったのでした。

次第にナチスの勢力も衰えていき、最終的には連合国が勝利を収めます。

スピーチもパフォーマンスももちろんですが、チャップリンのすごいところは、まだ公になっていなかったユダヤ人の収容所の存在を予見していたことですね。構想が練られていた当初は、まだ明らかにされていないことだったに、ヒトラーはそういう政策を取るようになるだろうということを早くから見抜いていたとも言われています。かっこいい。

戦後のチャップリンの苦しみと今も続く戦い

「独裁者」で大成功を収めたチャップリン。ヒトラーもこの世からいなくなりました。けれども、その後もチャップリンの戦いは続きます。
世の中にはチャップリン的なものと、ヒトラー的なものの戦いが、その後でも存在するからです。

チャップリンが掲げた反戦思想は、再び新しい戦争に走っていこうとするアメリカの思惑と合致しなかった。
いつまでもイギリス国籍のまま、アメリカ人になろうとしないチャップリン。愛国心はないのか!と叩かれることになります。
最終的にはハリウッドを追放。20年近くアメリカの土地を踏むことが出来なくなりました。

けれども、ベトナム戦争の激化により、再びアメリカの世相において反戦ムードが高まりを見せました。この時にやっとチャップリンは再評価を得て、戻ってくることができます。

そして、この最後の平和を訴えるスピーチは、いまだに多くの人にメッセージを届け続けています。

▲▽▲▽▲▽

本は開くと二段になっていて、本当に読み応えがあります。情報量もここには書き切れないくらいめちゃくちゃ多いです。
でも、とてもおもしろいので、興味がある人は読んでみてください〜。

一度読んだきりなので、もう結構忘れていることもおおくて、昔の読書記録とか、ネットで概要まとめを調べたりして、思い返していたんだけど。
やっぱりチャップリンすごいな〜と熱い気持ちになりました。
きっかけはMJだとしても、単独で好きになってしまいます。

私の頭の中ではチャップリンがヒトラーと戦って大勝利を収めています。

けれども、チャップリン的なものと、ヒトラー的なものの戦いは続く。

この言葉の通り、わたしはこの後、チャップリンに対抗するヒトラー的映画に出会ってしまいました...。
ヒトラーの後ろに誰かがいます。






そのお話はまた今度!かくかもしれない??

お読みいただきありがとうございました。

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