Play to Funへ回帰を 日本のWeb3投資「これから本番」【IVS Crypto 2022】
8日に開催されたセッション「ついにきた Web3のサービスレイヤー」 の様子
7月6日から8日にかけ、沖縄県那覇市で「IVS Crypto 2022 NAHA」が開催された(「IVS 2022」と同時開催)。会場となったHOTEL COLLECTIVEでは、Web3に関するおよそ30のセッションが開催され、満席による立ち見も多発。国内スタートアップ業界の関心の高さが見受けられた。
■Play to Earnからの脱却
特に人気だったのはブロックチェーンゲーム関連のセッションだ。過去2年ほど、ブロックチェーンゲーム業界では「Play to Earn(遊んで仮想通貨を稼ぐ)」形式のゲームが多くのユーザーを集めて急成長し、グローバルで巨額の投資を集めるケースが多かった。
しかし今回開催されたセッションでは、スピーカーが口々に「Play to Earnからの脱却」を口にしていたのが印象に残る。
例えば、ベトナムのSkyMavisによるモンスター対戦型のブロックチェーンゲーム「Axie Infinity」はユーザー数150万人超で、Play to Earnゲームの草分けともいえる存在。世界的な新型コロナウイルスのパンデミック下では、フィリピンなどのユーザーがこのゲームで仮想通貨を稼ぎ、生計を立てるいわば「Web3ドリーム」の象徴として報じられたこともある。
7日に開催されたセッション「日本GameFi産業におけるプレイヤーと現状」では、Axie Infinityの日本アンバサダーである、Albert Takagi氏が登壇。コロナ禍で報じられたPlay to Earnというコンセプトは人々に夢を与えたが、現在は状況が変化してきているとして「稼ぐこと(Play to Earn)が一番大切ではない」と発言。Axie Infinityとしては「ゲーム内のアセットやキャラクターを所有(Play to Own)できて、P2Pで取引できることを強みにしたい」と語った。
これまで同ゲームは、スタート時に3匹のAxieを仮想通貨で購入する必要があった。そのため、仮想通貨が高騰した2021年後半には、ゲームを始めるためだけに日本円換算で10万円前後が必要になる事態が発生。純粋にゲームを楽しみたいユーザーにとっては、非常に敷居が高くなりつつあった。
Takagi氏はこうした経緯に触れ、Play to Ownのコンセプトを後押しするものとして2022年春にテストリリースされた「Axie Infinity Origin」を紹介。このバージョンでは無料のスターターAxieが搭載されているため、高額な初期費用は必要ないとして「今年中にApp StoreとGooglePlayでのスマートフォンアプリをリリース予定。仮想通貨に詳しくない人にもプレイしてもらえるゲームにしていきたい」と意気込みを示した。
■いかに「FT」と「NFT」を扱うか
Takagi氏の発言にもあったように、ブロックチェーンゲームでは、ゲーム内通貨などに活用される「FT(Fungible Token)」とゲーム内アイテムなどの「NFT(Non Fungible Token)」の両方を取り入れることがサービスのマス化に貢献する。ところがAxie Infinityなどのグローバルサービスと異なるのは、日本の法規制上、上場企業が自社サービス内でFTを発行するのが難しい、という点だ。
そのため「NFTと同時に、どうブロックチェーンゲーム内でFTを『扱うか』が非常に重要」。8日朝に行われたセッション「ついにきた Web3のサービスレイヤー」でドリコム代表取締役社長の内藤裕紀氏は指摘した。「FTも扱うことで、BTCやETHを扱うクリプト投資家も自社サービスの対象となり、ターゲットを拡張できる」(同)。
しかし、FTを自社サービスで取り扱うことは、Web3のあらゆるサービスで重要なコミュニティ形成のインセンティブに「金銭」を取り入れることに直結する。クリプト投資家が欲しているのは、基本的には仮想通貨やトークンの売買益だからだ。
この点について、同セッションのスピーカーである通話コミュニティ「Yay!」運営元のナナメウエCEO・石濱嵩博氏は「お金に換金できるインセンティブをコミュニティに取り入れるということは1つの大きなトピック」と発言。Yay!が今年4月に16億円を調達し、NFT発行でトークンエコノミー構築に乗り出した経緯に触れながら「金銭的インセンティブに、コミュニティの熱気や、今いるユーザーを巻き込みながら導入していく形をとっている」と試行錯誤の過程を述べた。
■「ユーザーバリュー、本質的な定義を」
Web3が早期に立ち上がったグローバルでは、すでに仮想通貨の値下がりが各社のポートフォリオを直撃。投資の抑制や、従業員の解雇などが起こり始めている。6月下旬に米ニューヨークで開催された世界最大規模のNFTイベント「NFT.NYC」でも、某大手Web3サービスのCEOが「長い冬が来る。ここに来ているプロジェクトの大多数は、きっと失敗するだろう」と”予言”していたのが記憶に新しい。
しかし「日本のマーケットは相対的にまだ痛んでいない。やっと日本国内では、法定通貨で組んだWeb3ファンドが回り始めるのである意味チャンス」(内藤氏)。
来場していたVCや投資家も同音異口に語る。22年以上に渡り国内外のプライベートエクイティ業務に従事してきた、LUCAジャパン株式会社 共同創業者の北村元哉氏は「実際にWeb3サービスを運営している人たちと、自分との認識には相違がないことを再確認した。Web3の今後にはむしろ期待感を持った」という。
参加者の国内VCの投資担当者からは「これまで門前払いだったグローバルのWeb3ベンチャーが、海外VCの投資抑制で興味を示してくれるようになってきた」といった声も漏れ聞こえてきた。
7月5日、過去最大規模となる500億円超の7号ファンド設立を発表した独立系VCのグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)ジェネラルパートナーの高宮慎一氏も「Web3投資は国内もグローバルも、むしろこれからが本番」と意気込みを語る。その上で、どんなWeb3企業に投資したいか、という問いに対しては「例えばPlay to Earnではなく”Play to Fun ” などと、ユーザー向けのバリューを本質的に定義できている企業やサービス。それがコアなクリプトファンだけでなく、Web3のサービスを日本の一般ユーザーにも広げるカギだ」との認識を示した。