「The Sandbox」は「進化」し続ける 共同創業者兼COO・Sébastien Borget氏【Web3の顔】
「The Sandbox」は、香港のブロックチェーン企業Animoca Brands(アニモカブランズ)傘下の人気NFTゲームだ。米ニュース誌の2022年度版「世界で最も影響力のある100社」にランクインしたほか、IT 関連人材育成スクールのデジタルハリウッド(東京・千代田)と協業し、クリエイター養成講座の開催を発表するなど、日本市場でも注目を集めている。同社のCOO、Sébastien Borget氏に、その戦略や日本市場をどう見ているかについて聞いた。
■シーズン3はさらにオープン化したメタバースに
――The Sandboxが現在、力を注いでいる点を教えてください。
The Sandboxは8月24日、体験イベントであるアルファ版シーズン3を発表しました。10週間開催中で、アルファ版では最大規模です。コミュニティーやクリエーター、スタジオ、ブランドによって生み出された幅広いイベントを体験できます。22の有名ブランドなどによる98のイベントがあります。
【関連記事】
NFT.NYCでThe Sandboxが初イベント ボルジェCOO「創造性解き放つ」
The Sandboxが8月24日からアルファ版シーズン3を開催
22ブランドには、ラッパーで俳優のSnoop DoggやSueco、Ubisoftの人気キャラクターRabbids、人気NFTプロジェクトの「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」、The Walking Dead 、Warner Music Group、Steve Aokiが含まれます。Steveが実際にクラブでミックスした音楽を聴いたり、The Walking Dead のドラマ体験をしたりできます。
リーダーボードの新しいシステムを導入したので、ランキングに応じてゲームやクエストをこなすと、The Sandbox 内の通貨である暗号資産「SAND」を報酬として獲得することになります。
――発表の際、「コレクションの所有者のための新しい使用例を開発することにわくわくしています。最もクリエーティブで熱心なWeb3コミュニティーとともに、オープンなメタバース文化を定義し、私たちの社会的相互作用の未来を形作る機会を得た」とコメントされていました。
今回の最大の特徴は、The Sandboxをさらにオープンなメタバースとして位置付けているところです。例えば、The Sandboxで作られたものではないNFTを使えます。NFT アバターとして、親しみがあるSnoop Doggのワンちゃんなどもコレクションとしてあります。The Sandbox外にあっても、キーパーソンたちは暗号資産の権利を有していて、それがThe Sandbox内でよみがえり、3Dキャラクターとして自己表現するために、ダンスなど70種類のアニメーションが用意されています。
これは、私たちのThe Sandbox Game Makerを使って、Web3のコミュニティーがつながり、コンテンツをクリエートしていく体験として優れた例でもあります。
また、一般的なWeb3の情報について、つまりゲーミフィケーションやメカニズムについて、企業などを啓蒙していく興味深い仕組みもあります。
シーズン2は、1カ月で35万人のプレーヤーを獲得しましたが、シーズン3は、少なくとも50万人を達成したいと思います。
■よりプレーヤーのクリエイティビティを高めたい
――The Sandboxは、プレーヤーの体験をコアに据えています。業界での位置付けをどうお考えですか。
私は、メタバースというのは、個人がそこに見出すコアが基礎となって成功に導かれるのだと考えています。業界のいろんなセクターが、最終的にはメタバースでさまざまなもの、例えば、仕事や学習、異性とデートする、といった体験を提供していくのでしょう。でも、The Sandboxは「エンターテインメント」に重きを置いています。なぜなら、ユーザーがプレーヤーとなっていくには、楽しくてリピートするエンゲージメントがいるからだと思うのです。
The Sandboxを私が「コンセプト」として構築していた時は、バーチャルワールドの何百万もの住宅があって、そこにプレーヤーがアバターを使ってアクセスし、それが彼らのデジタルアイデンティティーであり、デジタル資産になるものと考えていました。彼らは、それを所有できるのです。そして、資産を他の人に売ったり、マーケットプレイスに譲渡したりできます。それは、個人が(Web2時代の)中央集権的な壁のある庭にいるというコンセプトとは反対のものです。
――Play Create and Earnという新しいコンセプトを打ち出しています。
まず、The Sandboxのplay to Earnというコンセプトには、多種多様なゲームプレイの仕方、稼ぎ方が内包されています。来年には、The Sandbox上で誰もがメタバース上の自分の土地「LAND」にコンテンツを設置できるようになると思いますし、誰でも自分のSeason(ゲームシナリオ)を作ることができます。このことによって、ユーザーにとってより多くの可能性と多様性を生み出すでしょう。プレーヤーは自分自身を教育し、稼ぐことができるかもしれませんし、もしかしたら、イベントを組織することができるかもしれません。新しいユーザーが研修を受けて学び、稼ぐのを助けることができるかもしれません。The Sandbox上のクリエイティビティをより高めていく(Play Create and Earn)こと、それが本当に目指しているところです。
――The Sandboxの将来の姿を教えてください。
現在のプロダクトの形になってから2年が経ち、今日までを振り返ると、「進化」の連続でした。コミュニティーからのフィードバックで進化し、ゲームメーカーが実現する新たなフィーチャーを使っては進化しています。同時に、私たちのエコシステムには、たくさんのクリエーターやビルダーがますます加わって、価値や多様性のある体験を生み出しています。世界中から参加者がいるので、The Sandboxをより国際的なものにもしています。
メタバースはまた、ローカルコミュニティーにも訴求力があります。ローカルなブランドが独特な文化を加えて、よりインクルーシブで多様性があって豊かなマルチカルチャーが得られます。
――日本の市場をどうご覧になっていますか。
日本でコアのコミュニティーを築き始めてからの2年、パートナー企業などとの協業で関心が高まっています。私も訪れたことがある東京のランドマークでもある「SHIBUYA109」を運営するSHIBUYA109エンタテイメントからは支援を得ていますし、サッカー漫画「キャプテン翼」との提携も始めています。日本からのThe Sandboxとメタバースに対する関心は強まっていて、多くの企業やIPがThe Sandbox 内の仮想の土地「LAND」を持つようになっています。The Sandboxがより楽しくて尽きない体験ができるように、開発チームが日々しのぎを削っています。日本は、非常に強力な漫画のIPがあるので、日本でベストなIPやブランドをThe Sandboxに取り込んでいくのは自明のことと思います。これから大きな発表も準備しています。
津山 恵子(つやま・けいこ)プロフィール
ニューヨーク在住ジャーナリスト。
東京外国語大学卒、1988年共同通信社入社。福岡支社、長崎支局、東京経済部、ニューヨーク経済担当特派員を経て2007年に独立。Facebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、Instagram 創業者ケビン・シストロム氏、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏、YouTube共同創業者スティーブ・チェン氏、作曲家の坂本龍一氏、ジョン・ボルトン元米大統領補佐官、ジャシュ・ジェームズ米DOMO創業者などの著名経営者を単独インタビューしてきた。著書に「モバイルシフト」(アスキーメディアワークス)、「よくわかる通信業界」(日本実業出版社)など。日本外国人特派員協会(FCCJ)正会員。