メタバースゲームは「目的地でもあり、階層でもある」 Life Beyond開発CEOが語る【Web3の顔】



フランスのゲーム開発会社Darewise Entertainment(デアワイズエンターテインメント)は、新作のブロックチェーンゲーム「Life Beyond」でメタバースの世界に参入する。Benjamin Charbit最高経営責任者(CEO)は、米ニューヨークで6月に開かれていた世界最大規模のNFTイベント「NFT.NYC2022」で「Life Beyond」を「とんでもないゲームで、当社は第一線にある」と話していた。Darewiseは4月に、香港のブロックチェーン企業Animoca Brands(アニモカブランズ)が買収を発表した。「NFT.NYC2022」でのインタビューとともに、Animoca Brands傘下でのWeb3戦略を追加取材した。

■トリプルAゲーム開発経験者がメタバースゲームに参入

――Charbitさんは、「Assassin’s Creed(アサシン・クリード)」シリーズなど大人気のAAA(トリプルA)タイトルゲームを数多く手掛けてきたと聞きました。

私はかつて、「アサシン・クリード」のクリエーティブ・ディレクターの一人で、価値あるゲームを制作する100人の最高のチームを作り上げました。私たちは、AAAタイトルゲームを生み出すための豊富な経験があり、ゲームにおける最高の体験を提供してきました。今度リリースしたメタバースゲーム「Life Beyond」によって、私たちは、AAA―MMO(大規模複数プレーヤー同時参加型オンライン)ゲームハウスとして初めて、ブロックチェーンの世界に参入することになると思います。

――「Life Beyond 」はどんなゲームですか?

私たちは、安全で多様性を受け入れる(インクルーシブ)MMOを開発することに熱意を注いできました。それをメタバースで実現します。

「Life Beyond」はMMOです。あなたは、異星人が住む惑星Dolosに着いて、そこで新しいコミュニティーの礎を築いていきます。そこで何になりたいのかは、あなた次第です。荒野に出て行って未知の脅威と戦うヒーロータイプでもいいし、石工、エンジニア、建築家、農家にもなれます。あなたがそこで所有し、生み出すものが全てNFTになります。まずは土地が必要ですが、そこに建てる家やビル、集めたものや作品がポリゴンベースのNFTになるのです。

――コミュニティーの規模は現在どのくらいですか。

まず、7月6日にオープンアルファ版を始めて、100万のNFT、つまりアパートの鍵をタダで提供しました。アパートを所有するか、あるいは2次マーケットで他のプレーヤーが売りに出したアパートを買うことができます。その1週間後にオープン・アクセスにしました。

大切なのは、これは「Earn to Play(遊んで稼ぐ)」ではなくF2P、Free to Play(無料で遊べるゲーム)ということです。NFTを持ってもいいし、NFTがなくてもプレーできます。でも、あなたが惑星Dolosで築き上げるものはNFTになるのです。大変うれしいことに、7月末時点でDiscordで5万人、Twitterで1万8000人のフォロワーがいます。

――AAAタイトルで最高の体験を提供してきたということですが、それはどんな体験ですか。

ゲームというのは、人々が何か意味ある存在となれる目的地だと考えています。ある人にとっては人々と交わる場所で、また他の人には資産を形成して収入を得る場所にもなります。だから、人々がデジタルの世界でその存在を築き上げて、リアルな世界からある意味で逃避できるような場所になればいいと思っています。ゲームの中で新たな人生を始めるような感じです。農家になったとしても、リアルの農家とは違い面倒なことは少なく、もっと楽しい経験ができます。ERC 20トークンで独自のクリプトカレンシーも導入する予定です。つまり、ゲームであっても同時にリアルの世界とつながっているのです。

Animoca Brandとの関係は「インスピレーションで決めた」

ブロックチェーンゲーム「Life Beyond」のアルファ版トップページ


――Animoca Brandsのファミリーとなりました。その意図はどこにあるのですか。

私たちはインディーズ系で、ベンチャーキャピタルから投資を受けたことはありませんでした。Animoca Brandとの話は、金銭的な合理性があったというよりは、インスピレーションありきでした。特にエグゼクティブチェアマンであるYat Siu氏が書いたものを全て読み、実際に会って、ビジョンのスケールの大きさに「ぶっとんだ」んです。彼は同時に、とても謙虚でもありました。それで、彼と近い関係を持って仕事をしたいと思ったのです。

「Life Beyond」は確実にとんでもないゲームで、私たちは第一線にある会社です。オンラインゲームの開発や運営については、非常に多くの蓄積があります。ただ、Web3の世界は、私たちにとっていまだに新境地でもあります。だから、Animoca Brandsと提携することで、さらにとんでもない規模のツールを手にすることになるのです。すでにパートナーシップによる成果もあり、正しい決断でした。

――どんな成果があったのですか。

例えばtokenomics(トケノミクス)のデザインについて支援を仰ぎ、多くのことを学びました。この世界は、人々が密接につながりあっていて、コミュニティーファーストです。伝統的なオンラインゲームの人々ではなく、Web3のオーディエンスに向けたマーケティングやコミュニケーションの方法も、Animoca Brandsから学びました。自分たちの単独ではできないことについて、より強化できたのです。

――メタバースの世界のゲームをどうご覧になっていますか。

私は2017年から、メタバースでのアイデアについて話し始めました。オープンなメタバースというアイデアを信じていて、それはAnimoca Brandsの哲学とも一致していると思います。メタバースは、何か所有するものではなくて、コンセプトなのです。基本的にいろいろな目的地があって、ブロックチェーンでつながり合い、人々はいろんな階層を行き来できるというコンセプトです。ゲームはコンテンツの一つとして、目的地でもあり、階層でもある。そこを人々が自由に動けるのです。

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第2に、NFTというのは、創造物における価値で、それを再分配するという概念です。それが、ユーザーやパブリッシャーやゲームハウスだけでなく、クリエーターにも分配されます。ユーザーはそれが目的ではないとしても、何かを集めたりします。特にゲームでは、ゲーマーがいてくれなくては成立しません。でも、メタバースではゲーマーたちにNFTによって恩恵をもたらすことができるのです。

津山 恵子(つやま・けいこ)プロフィール
ニューヨーク在住ジャーナリスト。
東京外国語大学卒、1988年共同通信社入社。福岡支社、長崎支局、東京経済部、ニューヨーク経済担当特派員を経て2007年に独立。Facebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、Instagram 創業者ケビン・シストロム氏、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏、YouTube共同創業者スティーブ・チェン氏、作曲家の坂本龍一氏、ジョン・ボルトン元米大統領補佐官、ジャシュ・ジェームズ米DOMO創業者などの著名経営者を単独インタビューしてきた。著書に「モバイルシフト」(アスキーメディアワークス)、「よくわかる通信業界」(日本実業出版社)など。日本外国人特派員協会(FCCJ)正会員。