ひとりでもぷりきゅあ

自分だけが特別だと思っていたかった。人と違うと思いたかった。普通じゃないところを探していた。凡人に思われるのが怖くて、才能が無いことに気づかれるのが怖くて、奇天烈なことをすることで自分を守っていた。でもそれをやめにすることにした。私は私で、勝負してみることにした。

ひとりでもぷりきゅあ

自分だけが特別だと思っていたかった。人と違うと思いたかった。普通じゃないところを探していた。凡人に思われるのが怖くて、才能が無いことに気づかれるのが怖くて、奇天烈なことをすることで自分を守っていた。でもそれをやめにすることにした。私は私で、勝負してみることにした。

最近の記事

(28)金木犀

十月十日 午後四時前。  金木犀が秋風列車に乗って私の目の前を通過した。  なんだか懐かしくて、切なくて、胸がぎゅっとなる香り。毎年やってくるのに、毎年涙が出そうになる。これが、嬉しい感情なのか、悲しい感情なのかわからない。秋の後にくる冬がもうすぐそこに来ていることを知らせる香り。甘くて、おばあちゃんちみたいなあたたかさがあって、タータンチェックのスカートを履きたくなる香り。秋の香り。好きだ。  ランドセルを背負ったあの日の帰り道、鼻をくすぐった金木犀は、鼻を掠めるほ

    • (27)あきばれ

      十月九日  秋晴れ。秋晴れの響き、あっぱれに似てるな。口に出して「今日は秋晴れだね。」って言ってみて、そう思った。あっぱれは「天晴れ」だから、同じ「晴れ」にまつわる言葉。言われてみれば当たり前の話だけれど。天晴れは、「驚くほど立派なさま」秋晴れは「台風が過ぎ去った翌日などに見られる、清々しい天気のこと」。秋晴れあっぱれ。  外に出るだけで汗が噴き出るような夏が終わり、朝の自転車通勤も風が気持ちよく、「あー、こんな日に会社を休んで本でも読みたい」と思うような天気だった。

      • (26)夜明け③

         九月二十九日③ 靴屋を巡った。ちょっといい靴を買いたい。素敵な靴が素敵なところへ連れて行ってくれるのだから、靴選びは妥協するな的なことを読み人知らずの噂話で耳にしたことがある。 買いたい靴は、ローファーだ。私の中で制服といえばローファーなのだ。色んな靴屋さんを回って、いいなあ、と思うものはいくつかあった。 最後に私が選んだのは、ハルタ(HARUTA)のこげ茶色のローファーだ。艶感があってキラキラして見えた。若干色に濃淡があり、味わい深いところに魅力を感じた。店員さんに試

        • 秋のプレイリスト3 僕が僕のすべて/嵐

          受験勉強に燃えた中学時代。変わりたいと思った大学時代。変われない、もう無理だ、何もかもから逃げ出したいと思ったあの日々。どんな時にも、私に寄り添ってくれる歌が、「僕が僕のすべて」だ。 言わずもがな、この曲もスローテンポでゆったりとした曲調。1日の終わりに夕焼け空をみながら聴きたくなるような柔らかいメロディーだ。 僕は僕の人生も運命も抱きしめていこう ひとつひとつが輝くために 春夏秋冬を走って走って 走って 走って 確かなことは 僕が創った道 それだけは変わらない 綺麗な

          (25)夜明け②

           九月二十九日②  まず立ち寄ったのはアクセサリー屋さん。今までブランド物のアクセサリー屋さんでアクセサリーを買ったことはない。立ち寄って、ネックレスを探した。  店員さんが、人気の物やおすすめのもの、私の好みに合うものを一緒に探してくれた。もちろん値段と相談しながらではあるが、自分が気に入ったものを選びたい。  私が結局決めたのは、小さなお花をモチーフにした、十八金の約四万円のネックレス。キラキラと光る首元に、付けた瞬間ぱあっと自分の表情も光った。鏡で自分の嬉し

          (24)夜明け

          九月二十九日  今日は、新しい自分の一日目だ。  朝から何度も眠い目を擦り、目薬の無駄遣いをしながら、とにかく部屋を片付けた。忙しいからまた今度、と先延ばしにしていた家の掃除だが、やはり自分が変わるには環境を変えてしまうのが手っ取り早い。  下に散らばった荷物を元の位置に戻し、洗濯物を干して、食器を洗い、クイックルワイパーでフローリングを磨いた。  やはり、綺麗な部屋を見ると、自分の心も整理されたような気がするものだ。残暑の残る秋晴れ。コーヒーとプリンアラモードで眠気と

          (23)ルッキズム

          九月二十八日  街ゆく人が、みんな幸せそうに見える。鏡に映った自分だけが不幸な顔をしている気がする。どうせ着たところで似合わない自分に失望するだけだ、と分かっていながらも、やはり洋服屋さんを見て回り、そしてやっぱり自分には着れない、と諦めて店を出る。なんで諦めるんだろう。なんで休みの日なのに自ら苦しまなければならないのか。こんな気持ちになるのならやっぱり服なんて見るんじゃなかった。  「ひとは見た目じゃない」という言葉は今じゃもうほとんど死語と化した。ルッキズムが蔓延し、少

          秋のプレイリスト2 鯨の子/Tale

          私が秋に聴きたいのは、あたたかくて、ほっこりして、平和で、優しい音楽だ。それでいて、少しノスタルジーなのが好みだ。 "君のタフさに全てを委ねないで。 自由を愛することをやめないで。 人を疑い憎み諦める事こそ、 賢いだなんて決して言わないで。" 全ての禁止の中に、自分自身を強く肯定してくれる優しさが含まれている。 君のタフさに全てを委ねないで。 自分のたくましさ、丈夫さに過信してはダメ。頑張りすぎる人に寄り添ってくれる言葉だ。 人を疑い憎み諦めることこそ、賢いだな

          秋のプレイリスト2 鯨の子/Tale

          秋のプレイリスト1 Flashback/嵐

          "どしゃ降りの雨も降らずに    薄い水色の空あの日  駅前あの小さな店で   終わりにした  冷めていく紅茶の中に   浮かび上がる窓の景色は   思い出くらい 甘く苦くて   切ないほど燃えていた" ゆったりとしたテンポと、柔らかいメロディーからはじまるイントロが夏の終わりと秋の始まりを同時に感じさせる曲だ。 先に引用したのは2番のAメロ。 私はいつもこの歌詞を聴きながら泣きそうになってしまう。いっそのこと土砂降りの雨が降って仕舞えば不幸になりきれるのに。大体「こんな

          秋のプレイリスト1 Flashback/嵐

          (22)鏡よ鏡

           九月二十六日  鏡に映る自分が可愛くなかった。 こうありたい、と描く自分とはかけ離れていた。  もう、全部捨てて、秋の海に飛び込んで、   明日仕事を休みたい。

          (21)玉ねぎ

            九月二十四日  玉ねぎって、ぐつぐつじっくり煮ると、形がなくなって、甘くなって、柔らかくなって、尖っていた味が丸くなって、美味しい野菜の出汁が出る。主役にならないけれど、居ないとだめ。どんな食材とも、たいてい喧嘩せずに共存出来る。いいなあ。玉ねぎ。すごいなあ。  私を煮込んだらどうなるかな。私も甘くなれるかな。玉ねぎみたいに甘く。柔らかく。でも、主役になれないのは、やだな。形がなくなっちゃうのもやだな。なんか、大人になるって、玉ねぎを煮込むのと似てるのかなあって思った

          (20)気まぐれ店主のBAR

          九月二十三日③  数か月に一度足を運ぶBARで、終電の時間を気にしながら飲んでいた。時間を気にしながら飲むお酒は幾分美味しさが減ってしまう気がするが、それでもやはり、このBARで出るお酒は悪魔的な美味しさがある。  嫌な気持ちにならない心地よい失礼をぶつけてくるこの店の店主は今日も健在だ。店主一人で営む店。他のお客が入ってきたら、私は即座に本を取り出す。日陰で生きる私には初対面の第三者と仕事以外で接することは苦痛だからだ。このBARで本を読もうとすると、いつも「目が悪くな

          (20)気まぐれ店主のBAR

          (19)オロナイン

           九月二十三日②  痒くないところも、一度搔き始めるとだんだん痒くなってくる。    「痒いところに手が届く」、とは「すみずみの細かいところまで神経が行き届く」という誉め言葉でしばしば使用されるが、痒い所に手が届いてしまう人の中に、かきむしって跡になるまでを想像している人がどれくらいいるだろう。跡になって黒ずんで、しばらく消えなくなったそれを、裸になって見られる時の恥ずかしさまで、誰が想像してくれるんだろう。痒い所に手が届いても、掻きむしらずに軟膏を塗る。これがこの慣用句の

          (18)potage

            九月二十三日  最近おなかがすいている。美味しいと思えないコンビニのおにぎりとシュークリームとチキンを食べている。満腹なのに満たされない。きっとお腹を空かせているのは胃袋ではなく私の心だ。なにかが足りなくて、その何かを探すために、満たされない何かを埋めるために私は今こうして文字を綴っている。お腹が空いている時はたいていなんでも美味しく感じる。いつもならハンバーガーかラーメンかお酒を入れるところではあるが、なんだか今日は、体に優しいものを入れてあげたい。  空っぽの心に

          (17)先の話。

           九月二十二日  朝方の落雷で目が覚めた。  急いで身支度をして、電車に乗った。電車の中で読む小説は春を生きている。春の風を想像して、胸が高鳴る。  秋の風が吹くと、クリスマスはどう過ごそうかと考える。春の風が吹くと、夏は誰と海に行こうか。どんな水着を着ようかと考える。いつも数か月先の季節を思って、私は取るに足らないことで思い悩んでいる。  しかしながら実際にクリスマスになれば今と変わらぬ自分が去年と変わらぬ風に夜を過ごすだろう。  今年は今と違う自分で、去年より素敵な夜を

          (16)エピローグ(仮)

          九月十六日  もう全て終わった話だから、心の中で言わせてもらう。本当は、何も考えずに愛したかった。好きだから好きなんだと言いたかった。ためらいもなく、大好きなんだと伝えたかった。思う存分甘えたかった。強がらずに、帰りたくない、離れたくないってわがまま言いたかった。地元のイオンのゲーセンで、おっきなぬいぐるみを取ってもらったこと。綺麗じゃないけど気前のいいおじさんのいる温泉の家族風呂で、ふたりではしゃいだこと。真夜中に私を拉致してヤンキーがたむろする山奥の夜景を見に連れていっ

          (16)エピローグ(仮)