見出し画像

映画『RRR』感想――超横長画面のメリット・デメリット

映画を観るときに画面アスペクト比など今まで細かく気にしたことがなかったが、『RRR』はシネスコ、つまり縦横比が1:2.35の超ワイド画面である。シネスコはここ数十年、大迫力スペクタクルを楽しむ系のハリウッド映画で多用されており、近年では新エヴァなど、日本の劇場アニメでも使用され始めているらしい。異様に横長の画面。そんな中、『RRR』は超ワイド画面の長所と短所がすべて網羅されているというか、「メジャーで勝負するなら超横長にしなきゃ」という所から逆算して製作されているような印象を受けた。監督インタビューを読んだわけではないので、私の勝手な予想だけど。

横長スクリーンに映えるのは、群衆または大自然である。本作はインド奥地の大自然と、街にうごめく群衆とがきっちり描写されており、さらにラストで野生動物が街に解き放たれた瞬間、私は思わず笑ってしまった。群衆と大自然を一画面にミックスしている!

またカーチェイスも横の動きなので、横長画面に向いている。本作でいえば、冒頭、森林シーンで虎と男の追いかけっこはワイド画面ならではという感じがする。

そして横長画面を語るときに避けて通れないのが、画面分割である。

1990年代、それまで正方形が当たり前だったブラウン管テレビが横方向に成長を開始、「左右で別番組を観れるので、家族でチャンネル争いしなくて済むよね」などとうたわれ、また現代では「PCモニターが大きいと、マルチ画面化できるので情報量が多くなるよね」などと言われる。同様に『RRR』では、おじさん2人が左右に並んで群衆に胴上げされたり、画面右側(建物内部にメインキャラ)と画面左側(路地に群衆わらわら)を並べて配置したり、左右分割っぽいシーンが多々見受けられる。左右がうまくかみ合えばいいのだけど、右側でyoutube見ながら左側でエクセル作業しても全く捗らないのと同様に、映画で左右で異なった動きを映すことに果たして何の効果があるのか私には不明である。が、ワイド画面を採用するとはそういうことだ。

そしてワイド画面の最大の欠点は、人物の顔をクローズアップするときに左右両端に余白が空きすぎてクソダサいという点。ところが本作では顔を斜めに、また下からあおる様に撮影することで、両端の余白をなくし、不自然さを回避している。また2人の人物が抱き合うシーンなども、普通は余白やら左右のバランスやらがおかしくなりがちだけど、本作では画面を制止させず、カメラを横に動かし続けることで不自然さを回避している。一時停止するとやはりダサいのだが、よく考えるとかっこいい静止画像を見たければ写真集で良いわけで、時間芸術としての映画、すなわち100枚の写真を連続で表示したときに、100枚の写真を合計した以上のプラスアルファ的な何かが生まれるのだとすれば、「ワイド画面も意外と悪くないな~」と感じた。もしかすると今どき当たり前の技術に私がやっと気づいたのかもしれないが。

このように『RRR』は超横長画面の利点と欠点が一通り詰まった便利な映画だと思った。

しかし、なぜ超ワイド画面が世の中の主流なのか、私には未だに分からない。

野球の投手でいえば、横変化のスライダーに縦変化のフォークを組み合わせるとピッチングに幅が出る。ところが超ワイド画面とは、変化の大きいスライダー・高速スライダー・大きく曲がるシュート・高速シュート…いわば横の動きだけで勝負するようなものだ。縦変化を禁止しつつ、きっちり面白い『RRR』は名人芸だと思うけど、そもそもなぜそんな縛りプレイに挑戦しているのだ。

とくに近年では劇場公開後にAmazonなどで配信するので、自宅のモニター画面(一般的な横縦比16:9)で観ると上下に黒帯が入って画面が小さくなる。やっぱり超ワイド画面は、ひし形や円形のような色物だよなあ。

この記事が参加している募集

あなたのグラスのてっぺんを、私のグラスの足元に。私のグラスのてっぺんを、あなたのグラスの足元に。ちりんと一回、ちりんと二回。天来の響きの妙なるかな! byディケンズ。Amazon.co.jpアソシエイト。