声優の話:2
意見が分かれやすいネタだけど、ワタシは吹き替え派だ。
本当は、字幕も無く原語で視聴出来るのが一番イイんだけど、そんなコトは不可能だし。
字幕派のヒト達の意見も、充分解る。
そもそも吹き替えられてしまうと、俳優の演技力は仕草や目配せなどしか見る事が出来ないし、吹き替えキャストの声や演技が合わないと、違和感が生まれる。
キャストが変わると作品の雰囲気や、キャラの性格付けなんかも変わっちゃうし、キャストが亡くなったりしたら、突然ある時から別の声で喋りだすコトになる。
自分が好ましく思った俳優が、子供向けの吹き替えをやっていても、吹き替えの吹き替えをされてしまったら、見る意味も失われる。
などなど、デメリットは確かにある。
しかし、字幕だと俳優の仕草や目配せ以前に、字幕を追う方に殆どの意識を持っていかれてしまう。
ワタシのような遅読の人間は、下手すると字幕を読み終わらないうちに次の字幕になっていたりする。
それに、熟練した声優サンの仕事は、時に原語を上回る時がある。
スタートレック:ディープ・スペース・ナインというドラマがある。
スタートレックシリーズ第3作で、ディープ・スペース・ナイン(通称DS9)と言う宇宙ステーションを舞台にした、SF作品だ。
細かい内容はとりあえず棚上げにして。
その中で、フェレンギ人(商売熱心な異星人、金儲けのためならかなりえげつない事もする)のクワーク(DS9でバーを営業している)が、母星のフェレンギから来た商人を接待するエピソードがある。
最初はクワークの母がもてなす予定だったんだけど、諸事情により母はもてなしができなくなる。
そのため、クワークが代わりに接待役に任命されるのだけど、ニルヴァ(接待相手)は "女性" が接待してくれると思っているので、やむなくクワークは性転換しなければならなくなる(内容的にはかなりコメディタッチ)。
当初の予定以上にニルヴァは接待に満足し、自分をもてなしてくれたクワークにべた惚れになって、個室で二人きりなった途端にグイグイと迫ってくる。
このニルヴァとクワークのシーンで、クワークは寝室に逃げ込み、それをニルヴァが追っていって、画面から二人の姿が全く見えなくなるカットが入るのだが。
原語では、このカットに二人の台詞はナイ。
ただ、ドタバタと音が入っているだけだ。
しかし吹き替えだと、
ニルヴァ(青野武)「いいじゃないか、こっち向いて。ほれ。こっち向きなさいって言うに。そんなに…後ろ向かないで。いいからこっちへおいで、ほれ」
クワーク(稲葉実)「あっちへ行って! 来ないで! 来ないで!」
と言うアドリブが入る。
ほんのワンカットだけど、この台詞があるとナイとでは、このドタバタシーンの面白さが全く違うのだ。
正直、このアドリブが入っていなかったら、このエピをここまでちゃんと覚えていないとも思う。
こういう醍醐味は、失われて欲しくないな。