ガーシーとは何者か(4)ガーシーの当選と立花孝志の戦略
(1)You Tubeの意味
選挙という議会制民主主義が最大の効力を発揮したのは、まだメディアが未成熟で、日本の中にさまざまな「地域」があり、「業界団体」「組合」「宗教」「イデオロギー」などの濃密なムラ的なコミュニティが点在していたからである。それぞれのコミュニティの代表を立候補させ、それぞれのコミュニティの権利を代弁させることで、国全体が機能していた。議員は、なにごとかの代理人である。
しかし、近代のそうした閉鎖的コミュニティの時代の中で、通信技術が急速に発達し、閉鎖的なコミュティが世界に開かれるようになり、個人と個人が直接つながりあうような社会が生まれつつある。それがWeb3.0の世界であり、私達はそれを参加型社会と呼んでいる。まだ新しい時代の萌芽であり、可能性だけのビジョンであるが、世界は、すこしずつそちらの方向に進んでいる。
NHK党の立花孝志とガーシーの当選が見せたドラマは、組織の代理人としての議員から、個人がそのままで議員になる時代の幕開けのような気がする。
旧来の政党であれば、政党の組織力によって、看板になる議員は誰でもよい。テレビを中心とした旧来メディアで人気のあったタレントやスポーツマンを組織の看板にする。しかし、今や、テレビの魅力は激減している。私は先日、手術のため5日間入院したが、ベッドに備え付けてある有料テレビはついに一回も見なかった。退院後も、「ダーウィンが行く」をビデオに録画して見る以外にまったく見ていない。かつてテレビ少年であり、テレビに育てられたと思っていた自分が、これだけ今のテレビに興味を失っているのは、不思議な感じだ。暇な時に見ているのは、SNSと、You Tubeである。
You Tubeは、放送局による一方通行メディアではなく、選択的に視聴できる、ユーザー主体型の放送局である。
立花孝志さんがぶっ壊す前に、既存のテレビ構造は自滅するのではないだろうか。テレビ局は、早急に、You Tubeに習い、オンデマンド型の番組編成にした方がよいと思う。
(2)立花孝志の戦略
立花孝志さんは、いかにも危ない親父を演じているので、拒否反応を持つ人も多いと思うが、とんでもない戦略家であり戦術家である。さすが、NHKでエビジョンイル(海老沢勝二・元会長)の密使役をやっていた人だけある。
彼の戦略はこうだ。
1.ガーシーの当選で、テレビタレントのような知名度を持つYouTuberがいることを確認した。YouTuberは、ほぼ毎日、番組を放送しているので、テレビでよく見かけるタレント以上に、メディアで露出している。しかも、内容は、演出や裏方の力で作られたものではなく、自分のキャラクターと本音で勝負している。圧倒的にコアのファンとの関係を築いている。
2.ガーシーの次に狙っているのはヒカルであり、青汁王子である。更にインドネシアで大ブレイクしているレペゼン社長だろう。
3.ガーシーは、短期間で100万人フォロアーを獲得したが、YouTuberの中では全然少ない方である。すでに1000万人フォロアーがいるYouTuberがゴロゴロしている。あたかも、一人創価学会みたいな情報発信力である。YouTuberは日常的な選挙活動をしているみたいなものだ。
YouTuberランキング
3.立花孝志さん自身がYouTuberであるからこそ、You Tubeの威力と意味を理解しているのだと思うが、彼にとって、政党とは、権力ではない。道具である。YouTuberのように個人で表現したい人が、個人で立候補するのではなく、NHK党という政党を活用して立候補が出来る。例えば、神奈川で立候補した飯田さんは、林業の復活をテーマにしてNHK党から立候補した。
【参院選・第一声詳報】飯田富和子氏(NHK党)
つまり、「NHKをぶっ壊せ」というスローガンはあるが、党是や綱領に縛られた政党ではなく、まさにインターネットのような政党なのである。だから、とんでもない連中も集まっている(笑)。NHK党から立候補するYouTuberは、ガーシー党のようにそれぞれが立党して、その個人政党ネットワークとしてのNHK党をイメージしているのだろう。やがてNHK党という名前も変わるだろう。
4.ここまでなら、インターネット時代に、インターネットの構造を換骨奪胎した政党として見ることが出来るが、立花孝志さんの戦術をYou Tubeで聞いて、驚いた。この先があったのである。
5.現在、NHK党の参議院議員は浜田聡さんである。前回の参議院選挙で党首が当選したが、都知事選に立候補するために議員を辞職して、名簿2位だった浜田さんが繰り上げ当選して現在、議員をつとめている。
浜田聡さんは、東大の理1に入学し、大学院を卒業したあと、京都大学医学部に入学し、医師として活躍していた人である。おそらく地頭は良い人なのだろうが、彼が普通の政治家として立候補したとしても、当選することはないだろう。
6.立花孝志さんの構想はこうである。人気のあるYouTuberを立候補させる。その人が当選して、政治家として活躍できれば、そのままでよいが、政治家には向いていないようなら、辞退させて別の選挙に出させる。それで、浜田さんのように実務能力はあるが花のない人を、用意して、比例の2位にいれておく。この人材集めは、別にオーディションをやると言っている。
おそらく、この流れが広がれば、このオーディションには、地盤と金はないけど志とスキルだけはある官僚たちが応募してくるのではないか。
いやはや、なんだか凄い人材をインターネットは育ててしまった。選挙制度の表も裏も知り尽くした政党党首が、法律の隙間をぬって、暴れまわっている。
ガーシー論
ガーシーとは何者か(1)ガーシーchのこと。「ワルの正義」
ガーシーとは何者か(2)ガーシーというジャーナリズム
ガーシーとは何者か(3)YouTuberジャーナリズムの可能性。
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