まほろば打ち
画家の中津川浩章さんが懐かしい書影をFacebookにアップしてくれた。
「ロック訳詩集」(岩谷宏著・ロッキングオン刊行・1975年・定価800円)である。サブタイトルは「世紀末解体新書」。これは、ロッキング・オンとして初めて出した単行本である。
当時、ロッキング・オンは創刊3年目で創刊期のガムシャラな模索期を終えて次のステップに移行する時期だった。初期のロッキング・オンの他誌にはないウリは、岩谷さんの「訳詩」と「架空インタビュー」だった。博学の岩谷さんの訳詩は、意訳のように見えて本質を表し、単なる言葉の移動ではない独自の表現だった。
それで渋谷陽一と相談して、資金稼ぎに単行本を出そうということになった。単行本なんか作ったことのない私が編集し、大類信がデザインをした。私が初めて作った本なんだったんだな。
当時、私は「有限会社たちばな写植」をやっていて、もちろん、この本の写植も私が全部打った。
表紙の「ロック訳詩集」という言葉、文字がすこしかすれているでしょう。写植屋当時、愛用のパボ8を使って、いろいろと実験をしていた。写植機とは、カメラの原理で、文字盤に下から露光して印画紙に文字を焼き付けるというものだ。文字の大きさに合わせたレンズを選び、文字盤を動かして露光すれば文章が組めるわけだ。
文字盤は新しい書体が続々と出る時代だったが、高価なので、レンズにフィルターかけられないか実験していたのだ。いろいろやって、開発したのが「まほろば打ち」と名付けた方法。セロテープにエンピツの削りカスを散らして、それを写植機のレンズにはりつける。シャッターを二度打ちすると、印画紙には輪郭がぼやけた印字になる。レンズにインレタをはったり、いろいろ試したのだが、この方式が使えそうだった。
記憶が定かではないが、このタイトル文字は、まほろば打ちではないかと思う。このまぼろし打ちで、自分の短歌集を私家版で作った記憶があるが、もうどこかに消えた。
一冊の単行本や雑誌は、作った当時の記憶が収容されたタイムカプセルだな。みんな、今を記憶する、雑誌やろうぜ!
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