出会いは突然に
新宿三丁目の雑居ビルの地下に、白レバーのおいしいお店があった。
10年ほど足繁く通ったそのお店だが、数年前に閉店してしまった。
ここの白レバー、燻製なのでかなりクセがあった。でも、初めて口に入れたとき、気絶するかと思った。
それが口の名でとろけて、口腔内に染み込んでいく。
おいしい食べ物を口にすると、自分のからだに染み込んでいく感覚がするのだが、正にそれだった。
白レバーの燻製もとても愛していたが、それを料理する板前さんたちの手も好きだった。
ムダがない。
トマトを湯むきする手。
魚をさばく手。
お皿に盛り付ける手。
料理をする手は、妙に艶っぽかった。
艶っぽい手を持った板前さんたちは、いつも話を聞いてくれた。
やけ酒のときも、祝酒のときも。
いつも。
そして、日本酒や料理のおいしさを教えてくれた。
わたしが料理が苦手だと言うと、にんじんのドレッシングなら簡単だからと言ってレシピを教えてくれた。
いまでも時々作る。
このお店が移転ではなく閉店すると聞いたときは、失恋したときのような喪失感に襲われた。大切な人が、いきなり隣からいなくなったみたいだった。もうこの先、こんな出会いはないかもしれないと思っていた。
それから数年が経った。
わたしは出会ってしまったのだ。
別れも突然だったが、出会いも同じだった。
喧騒の先、奥渋のイタリアンのお店で。
そこの白子のフリットが鳥肌が立つくらい、おいしかった。
ああ、おいしい。何度も言葉にしていた。
普段、あまり白子は食べない。ちょっと見た目がよろしくない。
でも衣がついていたから関係なかった。
濃厚で、クリームみたいに柔らかい。
これ、白子じゃないんじゃないか、と疑うくらい別の食べ物みたいだった。
白子がこんな風に化けるなんて思わなかった。
天才的においしい。
感動して、シメのパスタの後にもう一度白子のフリットでシメた。
相当胃に負担をかけてしまったが、新しい出会いに感謝。
過去の出会いもいい思い出になった。