文体トーナメント 参加者としての振り返り

一回戦 テーマ「港」

 ──まだ見ぬ港が、俺を待っている。

 そんなことをほざいて、彼は海の向こうに旅立ってしまった。昨日の口づけと精いっぱいした背伸びは、あなたを止める理由にはならなかったらしい。 

 恋敵は強大だ。なにせ水平線の彼方まで広がっている。あなたは私のことを何も知らないまま、果てなき海を股にかけている。

「だから私はあなたが嫌い」

 声に出してみたものの、海は言葉を返さないし、あなたを帰さない。無情さは時に波に似るが、そのものが無情なのは違う。
 ほら、私にあるのはこんな、人並み程度の我儘だけ。彼からすれば、若く、どこにでもいる、さぞかし退屈なひとだったのだろう。──あなたの手を切り落とし、二度と舵を取らせないほどの苛烈さがあったらよかったの? できもしないことを考えて、水平線の奥を見つめている。

 そんな私にも出来る唯一の抵抗は、毎日この港に足を運ぶこと。坂道をくだり、海の男どもをあしらって、波止場に座り海を見る。
 嵐の日だろうと、炎天下だろうと、大嫌いな海を見るために、私は朝一番に家を出ている。苦しいと思ったことはない。むしろ、あなたもどこかで浴びているだろう日差しを、嵐を、私も浴びているのだと思えば、最初は楽しさすらあった。……まあ、毎年通っているうちに、流石に慣れてしまったけれど。

 遠くからやってくる帆船を見る。私は立ち上がらない。この港で待ち続けた私は、その船がただの漁船だと覚えている。落胆と退屈に、私は一つ欠伸をして立ち上がる。朝食を作らなくては。あなたが帰って来る前に餓死なんて、冗談にもならない。明日も、来年も、数十年後でも、私はここに居なくちゃいけないのだから。

 ──見知った港で、私は待っている。

CブロックNo.5

ガチやらかした。ガチで。

いや、別にそこまで酷いものを書いたつもりはないんですが、そもそもAブロックの次くらいのデスブロックだったCブロックの中で戦える性能ではなかった。

僕、meshiochislashの700字文体には大きく分けて3パターンあります。一つはAメモ系統の私小説寄りな作品。心象にステータス極振りして共感と質感で殴るやつ。みなさんご存知僕のメインウェポンです。ただ、「港」というテーマで自分に絡めるのはありなんですけど、初戦だから温存したいという甘えからこれはなし。

もう一つは「飛」回のような二次創作。SCP-JPに投稿したやつだと「未聞外伝」や「最初の嘘」あたりですね。今回は港っぽい発想元が思いつかないのでなし。

そして最後が「黄昏」回の後追い、失恋系です。meshiochislashの中に眠る勝手にフラれ続ける少女を解放して、情緒と表現で殴るやつ。僕が「港」への回答として選んだのはこれでした。港といえば待ち人ですからね。

が! 無念の大コケ! よく考えたら俺の手持ちで一番こけやすい書き方だわこれ!

単純にストーリーで殴れないんですよね、この書き方。失恋ってよく見る場面なんで。そうなるとマジで表現頼りになって、安定性が死ぬほど落ちるのは当然のことでした。俺は表現の安定性が強い著者でもないですし、そもそも前者二つに比べて練度も足りてない気がするな。

いや〜〜〜でも割と工夫は感じられると思いませんか? どっちかというと周りのレベルが高くね? ノーシードで引いたのが全部現役tale書きなのが悪くね? てか面子に発想で戦えない弱点をモロに突かれた節もあるんだよな、俺の作品にインパクトは基本ないし。

そんなみみっちい言い訳だけして、結果4位です。最下位は免れたけどちょっと弱いな〜〜〜。

二回戦 テーマ「コンテスト」

 琵琶湖の空を、君が飛ぶらしい。数年ぶりにきた連絡、「ねえ、俺が明日飛ぶとこ見てて…///♡」なんてラインの返答に、実のところ困っている。

 人が飛ぶとは思えなかったし、君が飛ぶなんて余計に思えなかったから。

 だから、見なければいけない。ライブ配信をテレビに映すと、他人が水没したところだった。水没したのち表示された飛距離は、飛翔と呼ぶにはささやかだ。昼食のインスタント麺を啜りながら、幾つもの水没を流し見する。

 ──飛ぶための翼。何処へ行くでもない骨組み。そんな純粋なものを、君も背負うという。

 僕等は飛ばないはずで、くだらないひねくれもので、だからこそ友人になった。けれど、そう思っていたのは僕だけだったのかもしれない。明確に決めていた進路に、空を飛ぶほどの情熱。大きく変わってないのは微妙に面白くないノリと、連絡先と、容姿くらいのものらしい。画面に映る君の姿と、調子に乗ってインタビュアーに苦笑いされる姿を見守る。

 いいさ。変わるものを受け入れないほど、もう僕も子供ではない。疎遠ついでにどこまでも飛んでいけ。見ててやるから。


 そう思っていたのに、お前はなぜか人力飛行機のケツを持っていた。満面の笑みで、筋肉質なパイロットに手を振っている。おい。

 綺麗な軌道で飛んでいく翼、滑走路で笑う顔。釈然としない俺。

 LINEを開いて、「お前が飛ぶんじゃねえのかよ」と打って、消す。奴の思惑通りな気がしたし──それに。飛んでいく翼は、パイロットだけを乗せているわけじゃないと悟ったから。

 代わりに、「インタビュークソ滑ってたな」とだけ送ってやって、目線をスマホからテレビに移す。

 画面越しでも、空は青い。

dブロックNo.2

あぶね〜〜〜〜〜! お題に助けられた二回戦でした。

正直引いた時は何このクソお題? とキレていましたが、正直お題がクソの方が僕の強みである「最低点が高い」は活きますね。チェーン店のごとく一定の味は出せる。私小説寄りのテンプレートに寄せてどうにかなりました。鳥人間コンテスト、被ると思ってたけど意外と誰も書いてなかったね。

書いたこととしては特別なことはしてません。孤独のスペシャリストは孤独じゃないことも同様に書けるんですわ。GG!

今回はやっぱりお題がかなり厳しく、全体として苦しんで平均点が落ちたり投稿できない人が出たりしたのはでかいっすね。一位っす。三回戦に駒を進めることがなんとかできました。対あり。

三回戦 テーマ「虹」

 例えば、にわか雨に振られた後に虹を見たら、僕はその綺麗さより一張羅に付いた泥に目をやるような男です。たまに美しいものを見ても、僕には不相応だと背を向けていました。

 君もそうだと言いたいわけではありません。僕の卑しさは置いておいて──君の話をしましょう。

 君は僕にとって、雨を気にしなくても良い虹でした。それは君が有り余るほどに綺麗だから、ではなく。その輝き方が不格好で、無自覚だったから。でも、だからこそ、僕のくだらない心にすら、受容体のある輝きでした。

 君のおかげで僕は今もここにいます。大袈裟だな、と自分でも思いますが、でも本当だから仕方がない。あなたから見える世界の描き方が、あなたの持つくだらなさが、どれだけ僕を照らすか君は知らないだろうな。

 そのままでいてくれると嬉しいです。

 星を追うことがどれだけ難しいことかは、星を追ったことのあるものしかわからない。虹の端を探すことをクリシェだと笑いますか? 君に誘われたら、二泊三日までなら考えますけど、僕は。

 10年後も世界の隅っこで笑っているのが僕の夢です。君がその時なるべく近くにいたら嬉しいけれど。でも、別にいなくたっていい。道は迷うためにあるし、三叉路は別れるためにある。ただ、コンパスだけは勝手に持って行きます。再会を祈ることは誰にも止められないから。

 もう少し無駄話を── 雨の日の室内練とか、三日で辞めたメンソールについての話を──していたいのですが、時間が来たのでここまでにしておきます。
 さようなら。星と同じくらいの数、また君を思い出すので、よしなに。

追伸: この文章を君が読まないことを願って。僕の祈りは、届かないから僕らしく光るのです。

はブロックNo.1

正直に言いましょう。第一パラグラフさえあれば、あとは流れで書いても勝てると思いました。ワンフレーズの強さには自信がある俺のいいところが出たと思います。

この書き出しで前向きな着地や文章にしたのは、この一文を活かすためという意味が大きいです。はい。他意はないです。勝ちに行きましたが何か? みたいな顔をし続けて、この作品の内容には特に触れないです。恥ずかしいので。

ちなみに「〜ことをクリシェと笑いますか」のところは別の私信の引用です。意図的で示唆的ですネ。

なんか今回のトナメ儚い恋みたいなのしか描いてなくない? 直近でフラれたっけ俺?

そんなわけで一位っす。正直コンテストと同様に若干周りが下振れ気味なのもありますが、望みを繋いだ。

準々決勝 テーマ「刀」

 男はいつの時代も武士である、という祖父の言葉を思い出す。旧時代的だと笑うには真面目で、幼い僕は比喩として汲み取って、刀に宿る勇気だけ、腰に差している。

 本当に?

 安っぽいバーの暗い照明の中、玩具みたいなグラスを傾けて、目の前で眠りこけているきみを見る。酒を飲んでもあまり笑わなかったのは、安酒が不味いからではなさそうで。

 君が死ぬつもりだと、僕はとうの昔に気づけている。最初は勘違いだと思っていたけど、日に日に全ての世俗を断っていき、遺書めいた言葉をいくつかSNSに残した君の姿は、それをただ確信に変えていくだけで。

 ──僕が辞めて欲しいと言ったら、君は止まってくれるのだろうか。そんなことを、今日一日考えていた。

 僕の誘いを受けて、一緒に飲みに来てくれたなら、可能性はあるはずだけど。でも、なんでもないように笑って、次の日から連絡が付かなくなったらどうしよう。言えないうちにお酒を飲んでしまったし、忘れてしまうかもしれない。勘違いかもしれない。今じゃなくて、またの機会にしたっていい。
 もし拒絶されたら、言い方を間違えたら君を失うのだ。そう考えると、どうしても、相応しい言葉が見つからない。

 それでも、言わなくちゃ。

「あの、さ」

「うん?」

 とろんとした──していた──目が、こちらを見る。その目が、あんまりにも冷めているものだから。

「……男は、いつの時代も武士なんだって、じいちゃんが言ってた」

「……何それ」

 少し笑って、君はまた眠る。僕は君を起こすわけにもいかなくて、それ以上何も言えずに、氷だけになったグラスを傾ける。

 腰に差した刀は錆びついていて、もう鞘から抜けそうにない。

βブロックNo.3

この火力をもうちょっと安定して出せたらなぁ!

お題としてはそんなに悪くないと思っていました。戦闘描写特化達はもうかなり脱落していましたし、1NAR1さんも2、3回戦1位で勝てたおかげで同ブロック回避していましたし。とはいえ殺陣をやって1NAR1さんに勝てる気はしないので、モチーフとして回収するに留める。

半分は結果論ですが、戦略としてはここまでかなり上手くいっていました。meshiochislashのメインウェポン、自死と孤独を使わないで準々決勝まで勝ち進んでいるので、過去の文体は置いておけば割と「飽き」による減点は減らせます。万全の状態で自死と孤独を使い、かつフレーズをうまく思いついた俺に勝てる奴はそういないでしょう。(一点差でしたけど……)

この作品は個人的に700字として評価される上でかなりロジック的にも硬い作品なので真似してみてね。再現性のある書き方できて満足! てなわけで一位通過! 最高や!

準決勝 テーマ「舞」

 軽自動車のヘッドライトが、舞う毛と肉の塊を照らす。僕はそれを、歩道橋の上から見ていた。

 運転手は野良猫の死骸を道路脇に寄せる。随分と優しいことだ。数分に一度しか通らない車に、ピンポイントで突っ込んだ馬鹿猫のために時間を使うなんて。冷笑主義は自分が無為に飲んでいるレモンサワーを棚に上げて、そんなことを思わせる。

 あの猫は死にたかったのだろうか。確かめる術はないし、確かめるべきでもない。死は生きられなかったという結果でしかなく、他人が感情を後付けするのは傲慢だ。

 歩道橋から下を見る。高度としては足りないと思った。僕が本懐を果たすのなら、数分に一度しか通らない車に、ピンポイントで突っ込まないといけないのだ。

 猫がそうしたように。

 息を吐く。僕はあの猫が撥ねられ、死ぬところを見た。一度止まった車は、歩道橋の下を不十分なスピードで通り過ぎた。あの軽自動車は、20m間で二つ以上の命は奪えないらしい。
 その程度には僕の命は丈夫で、猫の命は重い。結構なことだ。

 200円に満たないロング缶は、さっきからちっとも減っていない。安酒で酔い切るには上等な味覚を持っていることに、惨めな僕は救われている。

 ふらつきのない足で、歩道橋を降りることを選ぶ。猫のせいで、あるいはおかげで。高所恐怖症の僕は、嫌いな場所から離れられた。
 宙を舞えるほどの過熱はとうに消えていた。あるいは、最初からそんな熱はなかったのだろう。

 帰路の端、草むらに野良猫の死骸。少し考えて、安酒を草むらに流す。廃棄と変わらない自分勝手な弔いに、言葉を持たぬ其れは何も言えない。

 猫は起き上がらないし、俺は明日から安酒を飲まない。それが、この夜の結果だった。

No.2

ここまで来れて嬉しいし、悔しい。

特にいうことはありません。正直な話勝てるとは思っていませんでしたので、今一番書きたいことを書きました。自死と孤独と、それでも前に進むこと。「Xのコンテスト」での最大火力の再演を、鎮魂歌に乗せて。

「賽の河原に溺れて褪めて(http://scp-jp.wikidot.com/sainokawarade-oboretesamete)」をよろしくお願いします。僕のこれより面白いです。

総評

刀回で描写としては理想に近いものが出せたので後悔はないですが、悔しいは悔しいです。現在地としてはできすぎなくらいではあるんですけどね〜。

序盤で自死と孤独を温存できたのもでかいですね。OP相殺溜まってたら準々決勝で怪しかった気がします。上にいる人にこのステージではまだ届かないでしょう。今は、ね!(多分切腹を迫られるmeshiochislash)

それでは! 次の舞台でお会いしましょう。

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