小悪魔的魅力・アカベンセ
20年ほど前のある日、知り合いの趣味家の方から「アカベンセが手に入ったから送ります」というメールをいただいた。ハマー氏による最初の報告から十数年しか経っていないこともあってかメサガーデンの種子カタログにも登場せず、コノグラフでしか見たことのないレア種のアカベンセ。数日後に到着したのは高さ6 mm程度の緑色した「ボーリングのピン」1本で、球体基部が丸く膨れて先端部分がちょっと透明になっていた。ホコリのような根が数本ついていたが、あまりの頼りなさに活着するかどうか育てられるかどうか大いに心配になった。また、同じ節に属するブルゲリと同じく滅多に分頭しないため、たった1本が失敗すればゼロになってしまう。ところが、本種の育て方は全く分からない頃だったので、なんとか枯らさないようにしようと綱渡りのような気持ちで維持していた。
その後、Smale氏から数本導入して交配できるようになり、8年ほど前からどうにかこうにか実生繁殖させられるようになった。しかし、1つの花は数日しか持たないため、親株の本数が少ないと交配のタイミングがなかなか合わないので毎年採種できるとは限らないのが今でも悩みだ。小型の本種はそもそも他種に比べて強い陽射しや極端な乾燥に弱いこともあり、数あるコノフィツム野生種の中にあって最も栽培者を悩ませる種ではあるが、その愛らしい姿を見つめれば日頃の気遣いなど見事に忘れさせられてしまう。
↑ 2020年9月19日
学名 Conophytum achabense S.A.Hammer
§ Cheshire-feles
種小名は、自生地である農場Achab farmの名前に由来する。
絶滅危惧II類 (VU) 絶滅の危険が増大している種
First published in Cact. Succ. J. (Los Angeles) 60: 217 (1988)
特徴
高さ10~15 mm、幅5 mm程度の徳利型で頂部には透明な窓がある。
自生地
Namiesberge, near Pofadder
栽培
有窓種のため特に日照を好むが、小型種だけに生育期の過乾燥には注意する。夏は50%程度の遮光下に置き、週に1度程度の軽い散水を続けると良い。本種の自生地はブルゲリの自生地に近い(Aggeneysから東に10 kmほどのところ)こともあるのか、生育期間も高温期にシフトしているように思われる。8月にも適度の水分を与えることで大きく生長させることができる。ブルゲリの実生小苗と同様に管理すれば上手く育てられるようだ。
↑ 球体下部の太った部分は培養土に埋もれていても良いが、観賞上面白みに欠けると思えば地上に出してしまっても構わない。但し、過剰な日照や乾燥で傷む場合もあるので注意する。2021年8月24日
↑ 球体頂部には透明な細胞からなる「窓」がある。内部を通った花茎が少し透けて見えるのが面白い。自生地では窓だけを地上に出しているそうだ。
増やし方
滅多に分頭しないので専ら実生により増殖する。採種する場合、自家不和合性のため2株以上の親株を用意する。カプセルは小さく、1個に30粒程度の種子が入っている。種子はしばしば強い休眠に入っていることがあるため、発芽まで1ヶ月以上を要することもあるが、1週間ほどで発芽することもある。
9月下旬までに播種すると、1年で直径高さ共に5 mm程度に育つ(上の写真)。特に小型で根も繊細なため、発芽したばかりの根を乾かすと生育が止まり、それ以上大きくならなくなる。発芽から数ヶ月は培養土を絶対に乾かさないように注意し、夏の間も苗床を適当な湿度に保つことが重要だ。生育が遅いため開花までに5年以上かかると言われることがあるが、培養土を一年中乾ききらないように注意すれば3年ほどで開花株となる。
↑ 2020年9月播種の実生苗(2021年8月21日)
連日最高気温35℃を超える猛暑だが、60%程度の遮光下に置き、毎日〜1日おきに潅水して表土層の適度な湿度を維持する。鉢底まで乾かしてしまっては恐らく満足に生育しないだろう。培養土にもよるが、表土に少し苔が生えるくらいの土壌湿度が好みのように思う。