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ハートのラテ
12月。寒いのでお客さんは少ないし働いている人間の頭もすこぶる悪い。
手伝いの私がこんだけ滅入っているのだからマスターはもっと滅入っているだろう。
「全部やめてやろうか」
よくマスターは呟く。
私には「やめようか」とも「頑張ろうよ」とも言えない。
言えないのだ。
決定権があるほど重要な人間でなければ軽率な言葉をかけるほどどうでも良い関係でもないから。
私は作家になることを夢にしている。
脚本も好きだし小説も好き。noteの評判がよかったのは想定外だったけれど、こういうエッセイ的なコラム的なものを書くのも最近好きになってきた。
文章というものが生まれつき好きなのだろう。
意見を言うのが苦手だ。嘘つけと思われたとしても苦手なんだ。
理由は泣いてしまうから。私の育った環境では泣くことは負けだった。
文章は涙を流さない。流させることは出来ても。
書くことで感情を整理してきたし価値観を共有してきた。
書くは最大の自己表現だった。
ネガティブな感情はフィクションに落とし込み消化して、ポジティブな感情はどうしたらまっすぐに伝わるかなと試行しながら書き連ねてきた。
けれどどうしたわけだが、今は創作も実話も書きたくない。
作品にするほど苦しむ権利もなければ明るく楽しく何かを伝えることもできない。
コーヒーカードというカードを買った。
コーヒー占いが元になっている占い用のカード。
「私は何を書けばいいですか?」
文書を意味する「手紙」を私を意味する「淑女」は見つめていた。
希望を意味する「星」を挟んで彼を意味する「紳士」は
軽やかさを意味する「蝶」を見つめていた。
自分を読むよりも彼を読むほうがわかり易かった。
書きたいものを書けば良い。もっと気軽に書いてほしい。
そういうことなんだろう。
淑女と紳士が背中を任せている星は淑女にとっては「まだ見えぬ未来」で紳士にとっては「掴み取ってきた過去」だった。
書くことで希望を浮かび上がらせたい私と希望を私の文章でより羽ばたかせたいと思っている彼が居る。
書けないのではなくて見えないのかもしれない。
見えないから、書きたくない。
しかし、彼は書くことで見えるようになってほしい。
そう思われているのかもしれない。
そう思うことで気付いた。
私は「過去」を書いている。「未来」は書いたことがない。
思ったこと分かったこと感じたこと
全部自分の体験や目の前のことでしか文章を書いていない。
つまりは「感想文」「論文」なんだ。
自分の文章で未来をどう動かすのかは考えたことがなかった。
彼の店のことについて占うと大抵「尖れ」と出てくる。
「なんだよ尖れって」と彼は言う。
彼の技術をもっと知ってもらおう。
テクニックをお金にしていこうということなんだとおもうけど
初めてnoteに書いたときのとおり、彼は「わからない」という。
私ってそこが嫌だったんだと思った。
嫌というと感情論だからちゃんと言葉にすると
「本人がわからないことは書けるわけない」
と思っていた。いや、思っている。
わからないことを自己解釈で文章にすることに自信がないのだと思う。
それを「わからないですね」と言われることにうっすら傷ついてしまうのかもしれない。
「分かってもらえないなら意味がない」
と、拗ねているのかもしれない。
今までの文章は分かってもらいたくて書いてたのかもしれない。
「わからないなら間違っている」
「私の文章なんかではマスターに気持ちが伝わらない」
というレベルで卑屈になることだって出来る。
私は多分分かってほしかったんだと思う。お客さんではなくマスターに。
でもそれがそもそも難しいから私がnoteを書き始めたわけで。
認識を改めなければ凄く悲しい気持ちになっていくのかもしれないと。
思ったわけで。
ごちゃごちゃと考えて髪の毛を引っ張っていたらマスターがラテを淹れてくれた。
「ハート描けるようになったよ」
と。
でっぷりとした丸みのあるハートのラテと柔らかくて優しいエスプレッソの味を感じて思わず涙が出てきた。
「ブレンドの配合当ててみて」
と相変わらず面倒くさめの彼女みたいなこと言ってるこの人が一番努力してる。わからないのに。
ラテアートなんてずっとやらなかったのにちょっとずつ更に変化し続けてる。わからないのに。
彼も私もきっと一人で生きていくと思っていたのに、なんだか二人で生きることになった。
彼は技術で生きていこうとしている。わからないのに。
私も技術で生きたいと思っている。わからないけど。
なら、変えなきゃな。なんて思った。
そして「あ、土星回帰直前感があるなあ。」なんて思うわけだ。
わからないことを書いてみよう。
わからないと言われても書いてみよう。
ソレが出来て初めてマスターに「やめんな」って言えるのかもしれない。
ま、人の人生なんで口出しすることでもないんですけどね。
今年の営業は12月28日まで。
22日は4周年だそうです。
4周年どうするの?と聞いたら
「レギュラーのおやつ4種盛りとかにしようかなあ」
と言った5時間後くらいに
「いや仕込み何時間かかるんだよ!」
と自分で却下していました。マスターは何人居るんですかね。
あと、勝手にクリスマスに向けて私が居るときはいつでも占いが出来る状態にしてあります。
恋愛相談なんかしにきてください。ソレ以外でもぜんぜん良いのですが。