曇りの朝のかぼちゃのスープ
目覚めると曇り空。すっきりしないまま、玉ねぎを薄く切る。鍋にオリーブオイルをひき、玉ねぎが透き通るまで炒める。皮をむいたかぼちゃ、洋風出汁を加えて煮る。鍋ごと水を張ったボウルに浸けて冷まし、まとめてミキサーに入れてなめらかにする。鍋に移そうとすれば、艷やかな帯のような姿でとろりと流れる。温め、器に盛り、オリーブオイル、黒胡椒、刻んだパセリを振る。すするうちにお腹が温まる。
よくお見かけするお客様。
出会ったとき、「寒くなってきましたね。お互い体に気をつけましょう」とおっしゃった。それ以来、晴れがもちましたね、今日は少し暖かいですねと、天気の話だけをするようになった。こちらが立て込んでいるときはお話もせず、笑顔だけ残してさっと出ていかれる。
オンライン読書会で「他者を通して自分を知る」と聞いた。思い出すのは、家にこもる時間が増え、世界との接点が減り、ぼんやりと過ごした日々。「何をしたかったんだっけ?」と、少し考えてしまう時間。一言二言のわずかな会話にも気持ちを変える、場面を変える力があることを、身に沁みて感じる。
お客様とのやり取り思い返してみると、そこには独特な空気がある。日が暮れたから道を少し照らすくらいの灯りを軒先に点けましょう。冷えてきたから羽織でもいかかですか。お名前も何をされている方かも知らないけれど、お顔を見れば自然とやわらかい気持ちになる。言葉にはされない、にじみ出るものをいつも纏っていらっしゃる。
「縁食論」(藤原辰史/ミシマ社)
朝焼け。夕暮れ。月の明るい夜。空の色との出会いは突然で、角をいくつか曲がる頃にはもう変わっている。ときには写真に留め損なうことさえある。俯いていた顔を上げたその一瞬で、場面はもう変わっている。