未来という船
20年閉めていたカフェを再開した。20年間ずっと守っていたこと、それは食べ物の味を感じ続けることだった。有機質に富んだ土で作られた米や野菜、国産小麦粉、平飼い卵、グラスフェッドの牛乳やバターなどは、素材そのものが「美味しい」ので、化学調味料を使わず、薄味で料理を作ることができる。
私には子供はいない。子どもがいたら、人参やピーマンをどんなふうに工夫して食べさせるだろうか?私もそれらの野菜が嫌いな子どもだったが、大人になって自分で料理を作るうちに食べられるようになった。
私の実家は、両親が教員で共稼ぎだった。特に母は優秀な数学教師で、生徒指導にも熱心だったが、自分の家庭や料理には熱心ではなかった。父が代わりに弁当や夕食を作ってくれたが、私の苦手なものばかり。人参は、大きく切って茹でただけ。父はマヨネーズをつけて食べていたが、子供の私にはハードルが高かった。
シングルファーザーの中にも料理上手な方々はいらっしゃるだろうが、仕事と家事、育児の両立はさぞ大変だろうと思う。シングルマザーの方々は、それに加えて経済的な困難もあるだろう。「高級なティッシュは甘い味がする」と、シングルマザーの子供さんが言っていたのを新聞の特集記事で読んだ。彼女はお腹が空いて、ティッシュを「食べた」のだ。
現代社会を生きる子供たちには、高度経済成長期の私の子供時代とは別の苦難がある。その一因は、離婚率の高さから来ている。そういう私も離婚経験者ではあるが、子供がいなかったのは不幸中の幸いだった。とはいえ、おひとり様の老後をエンジョイできるほどの体力、財力、ポジティブ力も持ち合わせていない。
幸い、50歳の時に今の夫と再婚し、裕福ではないが安定した生活ができている。しかし、私自身の健康寿命もあと10年。預金も養老資金目標の2000万円にも程遠く、何をもって安定か、という疑問が湧いてくる。まず、自分たちの未来のためにできることは何か?
お金以上に健康も大切。せっせと身体に良い美味しいものを食べて、エクササイズに勤しみ、夫と共に日々喜びの種を見つけて、花咲かそう。おひとり様も気楽でいいが、これから結婚する若い人たち、私のように再婚する熟年の人たちが、どうかそれぞれの船の上で幸せを見つけて、それを見失わないようにと祈るばかり。船が安泰なら、その乗組員である子供たちもきっと幸せなはずだ。