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【コラム】乃紫の『バレンタイン決戦』が日本で3曲目のバレンタインアンセムになる理由【マーメイドはひとりで躍るvol.26】

バレンタインソングは今、
ブルーオーシャンを迎えている。

日本のバレンタインを
長らく彩ってきたのは、
おそらくこの2曲だ。

国生さゆりwithおニャン子クラブ
『バレンタイン・キッス』

(1986年、昭和61年リリース

Perfume『チョコレイト・ディスコ』
(2007年、平成19年リリース)

たしかに、
BABYMETAL『ギミチョコ!!
(2015年、平成27年リリース
)や、
家入レオ『チョコレート
(2014年、平成26年リリース)
も悪くない。
個人的には、
≠ME『チョコレートメランコリー
(2022年、令和4年リリース)

推したい気持ちはやまやまだが、

昭和後期から平成初期は
『バレンタイン・キッス』、
平成後期から現在までは
『チョコレイト・ディスコ』が
中心だったことは、
受け入れざるを得ない事象だろう。

つまり、
日本の2月14日近辺は
この2曲が40年近く、
牛耳ってきた。

そんな中、
2025年(令和7年)1月31日、
シンガーソングライター・乃紫がリリースした
バレンタイン決戦』は、
この勢力図を塗り替えるかもしれない。


乃紫は、2022年に
SNS上で音楽活動をスタート。

作詞・作曲・歌唱に加え、
編曲、アートワークに至るまで
全てをセルフプロデュースする
新世代のカリスマ的存在だ。

2024年1月にリリースした
全方向美少女』が、
TikTokで19億回以上の再生数を記録するなど、
バズりにバズり、
数多のアイドルやタレント、アスリートなどに
SNSで投稿されると、
その名を瞬く間に轟かせていった。


『バレンタイン決戦』を
ひとことで言うのならば、「令和歌謡」。

歌謡曲のような
懐かしく親しみやすいメロディーに
優しく丁寧に一音一音
歌い上げるボーカル。

このまま、
落ち着いた感じが続くのかと思ったら、
サビになると、
若干平成の初期のような薫りが。

そして、サビが終わると、
途端にキャッチーさに急ハンドルを切る。
平成後期~令和のキラキラさを
思わせるブリッジで、
聴くものを飽きさせない。

「歌謡曲」という軸をブラさずに、
各パートの雰囲気や、
ボーカルの歌い方、
「乃紫節」が光るリリシズムを
何層にも織りなしている。

わずか3分12秒で、
昭和から令和まで
時間旅行できるような作品なのだ。


もう少し具体的に見てみよう。
さきほど、「乃紫節」と称したが、
乃紫のリリックには、
細部にキラリと光るセンスがある。

たとえば、

運命なんて
生まれた日より
選んだ服で決まるもの

『全方向美少女』

私たち、死ぬのは怖くない
色褪せていくのが怖いだけ

ハニートラップ

真の愛など在るわけないじゃない
依存と恋の取り違い

A8番出口

高校生でキスを知るのは
重要なんだって
大学生でキスを知るのは
純情なんだって

接吻の手引き

などが挙げられる。

全体的に乃紫の歌詞は
SNSでのバズりや
Z世代をターゲットにした
エモさ満点の世界観を
意識しているような面がうかがえるのだが、

時折、核心を突くようなフレーズや
リスナーへの提言を
潜ませているのだ。

同作でも、

ロマンスの後味は寿命より長い

『バレンタイン決戦』

午前中までお友達
午後からは恋人かもね

『バレンタイン決戦』

聴く者をぐっと引きつけるような
キラーフレーズを散りばめている。

さらに、

ライバルを横目に
肩並べ歩く
令和を生きる女の子は
計算高くなきゃ

一年に一度運命を選べる日
令和を生きる女の子は
恐れ知らずであれ

『バレンタイン決戦』

乃紫を最も聴くであろう
「イマドキガール」宛てに
提言する部分も見られ、
やはり「乃紫節」が炸裂している。


そしてなにより、
『バレンタイン決戦』は
日本の音楽史を考えても、
非常に価値の高い作品だ。

いわゆるZ世代と呼ばれる
平成後期生まれの人たちにとって、
昭和歌謡や演歌はもはや、
遠い国の異文化のように
感じられよう。

曲調やテンポ、歌詞に至るまで
今を席巻する音楽とは
まるで異なるからだ。

ただ、昭和歌謡や演歌は
言うまでもなく、
れっきとした
日本特有の音楽文化である。

25歳、
音楽経験もないに等しい
小生の僕が言うのは、
おこがましいことは重々承知だが、
この素晴らしい文化を
受け継ぐのは、
日本に生まれ育った我々に与えられし
ひとつの使命ではないだろうか。

だからこそ、
令和に溺れる女の子たちの
リーダー・乃紫が
同作を世に出したことは、
大きな意味を持ってくる。


歌謡的でレトロな、
かつ、イマの人たちにも
取り扱いやすい同作をきっかけに、
YouTubeなどで
昭和歌謡や演歌を聴いてみる。

その奥深さに触れ、
さらに多くのアーティストを
味わってみようと思う。

そしてその良さを広めようと、
友人や恋人、家族に伝えてみたり、
SNSでも発信してみたりする。

すると、さらにより多くの人が
同作だけでなく、
日本の古き良き音楽文化を
享受するチャンスが得られる。

こうした好循環が生まれ、
令和を越えた次の世代へと
日本の音楽文化は
受け継がれていくのである。

2024年、
TikTokで最も消費された
アーティストのひとりと言っていい乃紫が、
「音楽」を文化的遺産として
受け継ぐ役割まで担ってくれているのだ。


乃紫はリリース時、
このようなコメントを残している。

「ロマンスの後味は寿命より長い。
 年に一度のバレンタインに
 心がざわつく感覚を令和歌謡で表現しました。
 来年も再来年もたくさん聴いてください!」

『バレンタイン決戦』が、
来年も再来年もこの国で親しまれ、
日本で3曲目のバレンタインアンセムに、
そして、
日本の音楽史に名を刻む
「令和歌謡」になることを
切に願っている。

文・マーメイド侍


【ちなみに】

同作ではほかにも、
考察したいところがありまして。

サビが、
Boys Town Gangが1981年にリリースした
『Can't Take My Eyes Off You』
日本名で言うと
『君の瞳に恋してる』にそっくりなんですよね。

どちらの作品も、
BPMは130でいっしょ。

先日、
TBSの「CDTV ライブ! ライブ!」で披露した際も、
乃紫がイントロとアウトロで
Boys Town Gangのバックダンサーと
同じような振り付けで踊っていました。

振り付け似てるよね
振り付け似てるよね
振り付け似てるよね

※動画で確認したい方用。乃紫の出番は【38:03】から。

これは、意識して
サンプリングしているのかなあと思います。

またイントロが
ゴタイゴの『銀河鉄道999』に
似てるという意見も結構見られます。

言われてみればたしかに…?
って感じですかね。

ちなみに
Perfume 『チョコレイト・ディスコ』を
連想させるフレーズも見られますね。

チャンスを探る女の子
浮ついている男の子

手が震えている女の子
受け取りなさい男の子

『バレンタイン決戦』

計算する女の子
期待してる男の子
ときめいてる女の子
気にしないふり男の子

『チョコレイト・ディスコ』

まあ、これはさすがに意識してやってるか(笑)

なんか、TikTokやYouTubeなど
一部のコメント欄では
「パクリ」なんて
叩かれているみたいですが…

個人的には
これらの作品をリスペクトし、
エッセンスを取り入れた上で、
自らのカラーを出しているので
何も問題ないのかなと思います。

コメント欄の方にこのニュアンスが
伝わるかはビミョーですが、
パクリとサンプリングは
全く別物なのでね。




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