個人がするミスその5 伝達不良
「個人がするミス」シリーズの続きである。まず、「言葉の仕事」に関して「個人がする」5種類のミスから書いておく。
1. 学習不足(未知であるためのミス)
2. 記憶の想起不良(その場で正しく思い出せないためのミス)
3. 計画不良(計画の立て方に問題があるためのミス)
4. 注意不足(集中力不足等により起こるケアレスミス)
5. 伝達不良(情報が正しく伝わらないためのミス)
今日は、5の「計画不良」により、言葉の仕事においてどんなミスが生じるかを述べる。
日々起こりがちな「伝達不良」
伝達不良が起こると、仕様に従っていないファイルを納品してしまったり、ムダな作業が発生したりする。
しかも、伝達不良は発注側の指示があいまいなことから生じる場合が多い。
「言葉の仕事」の発注者は編集者やプロジェクトマネージャー、コーディネータである。とにかく忙しい人たちで、日々いくつものプロジェクトを同時に回し、何十人とやりとりしている。従って、プロジェクトの全体から細部まで言語化できていることは少ない。
フリーランス新法には「フリーランスに業務を委託した場合、直ちにその条件を書面やメールなどで明示しなければならない」とある。ギャランティや支払い条件などは、ふつう打診の段階で伝達されるが、上記の事情によって細かい指示までは来ないことが多い。
「伝達不良」の原因は1つだけ
そういうわけで、言葉の仕事における「伝達不良」の原因は1つに集約される。「(発注側の不明確な指示(書)を)受注側が言語化して確認できていない」ということである。
発注側が「ふわっと」投げてきたら、受注側のフリーランスは「きっちりと言語化して確認する」というキャッチボールが必要なのである。
メールのタイトルと本文は同じか
具体的にいうと、メールのタイトルと本文で締め切り日が違っていたりすることが多い。
メールの件名には「締め切りは6月26日(月)」とあり、本文には「6月26日(金)」と書いてあったりする。このように「曜日」が違っていることはとても多い。「6月26日(月)でよろしいですか?と」返信メールで必ず確認するとよい。
手段を変える
受注者側は、電話をとると作業が中断されて集中が途切れるため、メール連絡を望む人が多い。わたしもそうだ。
だが発注者には電話が好きな人がいる。何度言ってもメールではなく電話で連絡してくる担当者は、その習慣をくずすことはない。受注者としてはあきらめるしかない。
だが、伝達不良については、「電話で受けた情報をメールで確認」すれば防げる。これだけは必ずやろう。事後の「言った、言わない」によるトラブルも防ぐことになる。
指示を言い換えて全列挙
指示には、「対象箇所:A~J(除くB、F)」と書いてあることがある。全文ではなく一部が作業対象という場合だ。
こういうときは、「全列挙」で確認するのがよい。「A~J(除くB、F)」ならば「A、C、D、E、G、H、I、J」が対象ですねと返信メールに書く。こうしてすべて列挙することで、お互いに対象箇所を明確に把握できることになる。
ときどき、「A~J(除くB、F)」と指示に書いてあるのに「J」がないこともある。そうしたら、必ず「Jがありません」と返信しよう。先方が「あ、Jのファイルを送り忘れてました」と後から追加してくることもあり得る。あるいは「Jはありません、Iまででした」ということもあるだろう。この違いは大きい。
だからこそ、「対象箇所の全確認」「全列挙」での確認が必要となる。
翻訳支援ツールを使う場合でも、たとえばTradosを使ったバイリンガルファイル(Excel)でやりとりする場合、既訳が入っているセルがあることが多い。そのセルの語を変更する(ワードカウントの対象であり、料金が支払われる)べきなのか、それとも変更しないのか(カウント外の箇所であり、料金には入っていない)も必ず聞こう。
小さい(ワード数が少ない)仕事だとこういう確認は面倒になりがちだが、実は小さい仕事こそ、大きいプロジェクトとは異なる仕様が適用されており、発注者が伝え忘れていることが多いものなのだ。
解決策は「確認」につきる
というわけで、企業がフリーランスに言葉の仕事を発注してくる場合の「伝達不良」を防ぐには「確認」するしかない。
●すべての箇所に同じ情報が入っているかどうか
●手段と言葉を変えて全列挙する
この2つを確認すれば、大きな行き違いは起こらない。発注者にも「この人はちゃんと確認してくれる人だ」と印象づけることができるため「この人なら安心だからまた頼もう」になる可能性も高い。
従って、印象アップ、受注増のためにも、「いつもの担当者」から「ふわっと投げられたプロジェクト」であっても、「全ての箇所で同じ指示内容かどうか」を「全列挙」して確認しよう。
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