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つくりての手もと|#1 プロダクトデザイナー・草桶開さんのつくる場所

不定期連載「つくりての手もと」。

ものづくりに携わる人たちって、どんなものを使って、どんな環境で、どんなことを考えているんだろう。 ふと抱いた好奇心から始めてみる、この企画。
様々な分野のクリエイターのアトリエにお邪魔し、実際に使っている道具、制作環境を見せていただき、つくることにまつわる色々なお話を伺います。

第一回は、プロダクトデザイナー/音楽作家の草桶開さん。後輩であり古い友人である彼の作業部屋にお邪魔し、よく使っているものや、デザインにあたっての考えなどを伺います。
実際にディレクションで携わったお店にも連れてってくださり、つくったものを手に取って見ながら、ものづくりについてのあれこれを聞かせてくれました。

*本記事は、YouTubeで公開中の↓の映像のテキストverです。映像には収められなかった内容も少しだけ盛り込んでいます。


ゲスト:草桶開さん(プロダクトデザイナー/音楽作家)

法政大学 デザイン工学部 建築学科、桑沢デザイン研究所 プロダクトデザイン専攻卒。
インテリアメーカーにて営業、コーディネーター、職人の経験を経たのちに、 株式会社COLOR.にてプロダクト、スペース、グラフィックデザイナーとして勤務。 2022年にOKE STUDIOを立ち上げ独立。 作曲家として4つのプロジェクト( yumegiwatone、suion、comnoam、the stations)で活動中。音楽クリエイティブレーベルmukmuk records運営の1人。 財団法人横浜企業経営支援財団 横浜ビジネスエキスパート デザイン事業専門家。 竹尾STOCK MEMBERS GALLERY2024参加。
【受賞歴】埼玉県新商品AWARD2023 金賞 / シールラベルコンテスト2023 (一社)日本印刷産業連合会会長賞 / GOOD DESIGN AWARD 2022,2021 / Next Eco Design展2017 最優秀賞
https://oke-s.com/




デザイナー・草桶開さんの手もと

草桶開(以下、KK):草桶開(くさおけ かい)です。デザイナーと音楽作家をやっています。デザイン領域としてはグラフィック・プロダクト・スペースと、領域をまたいで色々やっています。音楽はBGM制作がメインという感じです。

自分の専門領域は、プロダクトデザインという生活雑貨ではあるんですけど、3年前に独立をしてからはブランディングを始めとして、そこから始まるグラフィックデザインや、空間のディレクションなどの仕事が増えています。

KK:基本的にはパソコン作業が多いので、このデスクで仕事をしつつ、検討の途中で手もとのクロッキー帳にメモをとりながら、パソコンに戻りながら、みたいな流れで作業をしています。
パソコンのそばには色鉛筆やハサミを置いていて、手もとメモに色をつけたり、パソコン作業で印刷物が出てきたときには、この場でハサミで切って色々な細かい検討をする、みたいなこともしたりしています。

ハサミで切るのでは間に合わない作業とか、もう少ししっかり色々なものを確認する時は反対側のデスクに移って作業をします。

KK:ここであれば もっと精度が高くものが作れるので、印刷して上がってきた図面とか型紙とか、あとはリーフレットや名刺みたいの印刷物の、A4で出てきたものをこっちでパパッと切って並べて検討したりとか。
反対側のデスクでチェックしたら、またパソコン作業に戻って、検討を続けるという感じですね。2つのデスクを行き来して作業を進めています。


手もとにあるものたち

KK:スケッチを書いたり、自分の考えを言葉でまとめたりとか、全部僕はデジタル上でなくて、このクロッキー帳でやっています。
方向性が固まってきた段階や、ビジュアルに立ち上げなきゃいけない段階になってからパソコン作業になるので、情報整理とか、デザインの方向性を決めるとか、そういう基本的なことはここで全部やってます。

あと、紙の方が好きだな、アイデア出るなと何となく思っていて。イラストとか言葉とか、いろんなことが混ざり合ってる中で、ペラペラ手でめくってた方が自分の欲しい情報にすぐたどりつけたりするなと思うところもあるので、よく使っています。

ただ、クライアントに提案する時や、作業の中盤、ある程度の方向性が決まってからは、ほぼパソコン上で作業をしますね。
パソコンはMacBookPro、モニターはDELLの4Kモデルのものを使ってます。作業中に一番使うのやっぱりイラストレーターですね。デザイナーの中にはフォトショップでイメージ立ち上げる人も多いんですけど、僕はフォトショップは画像の編集だけでして。レイアウトとか全部イラストレーターでやるタイプです。イラストレーター命ですね。

KK:音楽制作環境としては、僕が使っているもので言うと、ほぼNOVATION Launchpad MiniというMIDIパッドで作曲をしちゃいます。
最近僕が作ってるのは、アンビエント、いわゆるBGM的な音楽を作っているわけですが、基本的にはこれだけで作ってしまえるので、このMIDIパッドと周辺音楽機器で作っています。


KK:
この人形は、MOMAに売ってるものだったかな、僕がデザイン事務所をやめる時に先輩から頂いたもので、すごい可愛いのでここに座らせてます。
その奥にあるガラスの置物は、イッタラとミナペルホネンのコラボの鳥でして、イッタラのものづくりの精神はとても尊敬できるところがあり、デザイナーとしての心持ちみたいなのを思い出すために、たまに眺めたりしています。

KK:反対側のデスクには、「竹尾」という紙の商社の紙サンプル、見本帳を置いてまして。色々な色の紙もあり、また色々な質感の紙もあります。
最近の仕事で、「Style of Lab」という万年筆とフレグランスのお店のブランディングをやってたんですけど、よく紙での提案をしていまして。そのときもこの見本帳をよく見てました。

例えばこのギフトボックス、実は竹尾の紙使ってまして。これ白い紙なんですけど、竹尾は白い紙だけでもたくさんの種類があります。今回のこのギフトボックスでは、モデラトーンという紙を使いました。
実際のその商品に当てながら、どの紙がいいですかねとか、話しながら決めていってですね、これがあることでですね、紙を使った提案が非常にしやすくなったので大変気に入って使っております。

「竹尾」の見本帳
「Stlye of Lab」のギフトボックス

KK:ギフトボックスの右側にある缶ですけど、これは「Tokyo Beer Lab」というブルワリー兼タップルームの商品になります。今年の6月にグランドオープンしまして。裏原宿にオープンしたのですが、これも僕がブランディング全般をやってます。
僕がディレクションはしてるんですけど、この缶パッケージ自体は蔭山大輔さんにデザインをしていただきました。
かなり思い入れのあるものですので、お部屋に飾ってます。

パッケージデザイン:蔭山大輔

KK:棚のそばには、ジュリアン・オピーという作家の展示に行った時に買ったパンフレットを飾ってます。
僕はピクトグラムとか、そういうものが好きで。ジュリアン・オピーの表現は、ピクト感がありつつも、表情がある。このバランス感が僕はすごいいいなと思っていて、僕の理想像に近いことをやっていらっしゃるなというのもあり、とても大好きで部屋に飾ってます。
僕の普段使うものの裏に置いてありますけど、ちらっと見えてるだけでもテンション上がるので置いてますね。

KK:棚の上に飾ってあるのは、僕が独立するきっかけになった「Teenage Brewing」というブルワリーのビールになりまして、僕がこの1年間、大量に入稿して作ってきたビールになります。

アートワークは、momoさんという作家さんにお願いしており、ラベルやブランド全体のディレクションは僕がやっております。新宿の伊勢丹さんとコラボさせていただいた際は、アートワークまで僕が実際やっていたり、トータルでデザインをやってたりするブランドになります。
僕にとっても大事な仕事で、かなり気に入っておりまして。これもドーンとお部屋に飾っております。

アートワーク:momo


"感情にフィットするデザイン" --- つくるときに考えること

KK:基本的にクリエイティブのアイデアの源は、クライアントの中にあると思っています。クライアントから溢れ出てくる言葉。作ったものではなくて、クライアントが自然に発した言葉、それを整理していけば、自然とそこにアイデアがあります。

ウェブサイトで、"感情にフィットするデザインと音楽"をモットーにしていると書いていますが、感情にフィットする要素、クライアントの言葉に対してアウトプットが感情にフィットしているか、というところを追い求めていけば、自然と形になっていきます。

プロダクトとかスペースとかグラフィック、その全てが心にフィットする、いいバランスのアウトプットを作っていく。今作っているものもそこを目指してやっていますね。
そして、それが僕の個性になっていくんじゃないか、という風に信じてデザインをしています。

KK:作業中はクライアントとどれだけ向き合えるかが大事なので、一つの作業をしているとき、そのクライアント以外のことは考えないように、環境を整えたり、自分の脳内を整理したりしています。
何案件もやっていると、ちょっとアイデアが似てきちゃうことが無意識下であるなと感じた時期があって。自分の心が自由な状態で仕事をしないと、いいアイデアに結びつかないなと思うので、普通に音楽を聴きながらとか、自分がリラックスした状態をつくるということは意識しています。

また、引き出しの多さがアウトプットの質につながるのは間違いないので、引き出しの多さは意識しています。そして、それを増やす手段というのは、ものを見るしかないと思っています。

プロダクトデザイナーは、やっぱり人が使うものを理解しなきゃいけない。それはグラフィックもそうだと思うんですけど、とにかく世の中にあるものを理解する。
使ってこれはいいなと思えるものを見つけていくことは、非常に大切だなと思っているので、そういう意味で、僕が使っているものは色々使ってきた中で、これはいいんだと思えるものをどんどん厳選して今に至っています。

今僕が愛用しているものは、僕が信じれるもの。
例えば、色鉛筆を入れているコップもイッタラのものを使っていて、ガラスの色とかがすごい綺麗で、形がなんともなくても色だけで魅力的な商品になる。いや、形もすごいですけどね。
そういう色々なことを、僕のこの作業環境から、日常的に僕自身が感じられるようにしている、というのはあるかなと思います。



せっかくの機会ということで、草桶さんが実際にディレクションで携わったお店に連れて行ってくれました。彼がつくったものを手に取り見ながら、つくることにまつわる色々な話を伺います。



つくったものを見にいく①:Style of Lab

空間設計:仲西沙保美

KK:今年の7月にオープンした、「Style of Lab」というお店です。僕はお店のディレクションで携わりました。仲西沙保美さんという方に空間を設計いただきまして、僕は空間面ではディレクションを行っています。中に置いてある商品のデザインについては、僕が諸々関わっているような形になります。

KK:Style of Labでは、万年筆と万年筆インク、そしてフレグランスを取り扱っていて、色々なスタイルの万年筆を取り揃えているので、自分にあったものを見つけることができるのでは、と思います。

お店の入り口には、"万年筆ビュッフェ"という商品を用意しており、これは自分で好きなパーツを選んで万年筆を作ることができるものになります。空間においてもかなり重要に捉えてまして、通りすがりの人にも興味を抱いてもらえるよう、こだわりの什器でバシッとアピールするような形で展開させていただいております。

KK:また、僕がデザインしたのが、プレゼントとして渡したり、自分へのご褒美として買った時に特別感を感じられるようなギフトボックスです。
この万年筆がボックスに入ることで、より使いたくなるというか、もらった瞬間から、ワクワク感やこれを愛して使っていこうという気持ちになれるような、そういうものを作れればいいなと思ってデザインしました。

KK:フレグランスにもですね、万年筆のギフトボックスと同じような世界観を表現しております。

そもそも、Style of Labのメインビジュアルは、万年筆インクで自分だけの色を追い求めて作っていくような、そういう世界観と、自分の好きな香りが混ざりあって、自分だけの香りになっていく、そういう思いも込めてデザインしています。

ブランドの全体のトーンを揃えながらデザインを構築しており、それぞれが調和して見えるようにディスプレイをしました。
ぜひ、お店に来ていただいて、Style of Labの世界観を感じていただけたらと思っています。

メインビジュアル

今回草桶さんにお仕事を依頼された、Style of Lab 店主・耒谷さんにもお話を伺うことができました。



関わった方の声:耒谷元さん(Style of Lab 店主)

KK:Style of Labの店主の耒谷元(きたに はじめ)さんになります。今回僕にデザインのご依頼をくださった方です。

耒谷元さん(以下、HK):こんにちは、耒谷です。
「Style of Lab」についてお話させていただきますと、昨年の末まで、私はセーラー万年筆という会社の役員をやってました。このお店をやろうと思ったのは、3年前に銀座にセーラー万年筆が「ancora」というお店を出しまして、そこで万年筆を売り始めたんですけども、訪ねて来られるお客さんの80%くらいは女性だったんですね。そこで、女性がすごく万年筆に興味を持っておられるということがわかりまして。女性向けにもっと万年筆を広げていけるようなお店をやりたいな、という風に思ったことがきっかけです。

また、女性の興味というのをさらに広げていくために、女性の方がすごく興味を持っている"香り"というもの、"万年筆"と"香り"という2つの要素を結びつけることができないかな、と考えたんですね。
万年筆を使った知的な生産活動、クリエティブな活動をする中で、香りというものがあればより活動を高めることができる。あるいはリフレッシュすることができる。
そういった相乗効果に気がついて、その二つを融合したお店をやりたい、ということで、このお店のコンセプトが出来上がりました。

これからの時代、自分だけのオリジナリティというものを極めていきたいという方が、今非常に増えているのではないかなという風に思っています。自分だけの万年筆でその知的な活動をしたい。あるいは自分だけの香りに包まれてそして自分の気持ちを上げていきたい。そのようなことが、これからのキーワードになっていくのではないかなという風に思い、"私だけの"というコンセプトとともに、このお店を始めました。

KK:耒谷さんは、最初からかなり強い芯を持っておられ、目指しているところが明確にある方だなというのは、最初に打ち合わせをした時、耒谷さんの最初のコンセプト資料を拝見した時から思っていました。
耒谷さんの思いは僕もすぐに理解して、形に起こしていったという流れですね。

HK:このお店を作っていくにあたって、私としてはこういう風にやりたい、という考えは最初からあったわけなんですけども、草桶さんは、私が言葉で言ったこと、あるいは頭に思い描いていたことも、阿吽の呼吸で表現してくれたので、すごく助かりましたね。

私もずっと広告業界でマーケティング等をやってきましたが、こちらの考えを具現化するという作業は、時間が掛かるし難しいことですよね。意図と違うところを修正してもらったり、あるいは、その修正がどんどん悪い方向に行ったり、みたいなことを過去に何度も経験しています。
ですが草桶さんは、私が思ったことをすぐに、本当にスピード感を持って具現化してくれまして。私にとってはすごく助かりましたし、良いパートナーと、ビジネスの立ち上げに知り合うことができて良かったなと思ってます。

今回、このStyle of Labというお店は、本当にいろんな人たち、特に20代・30代の若い人たちが自分の力を出し切ってくれて、考えてくれてできあがったお店です。
これからそういうことを目指す人たちにもですね、ぜひ一度来てみていただいて、自分たちもこういうことができるんだということを感じていってもらえればな、という風に思います。


つくったものを見にいく②:Tokyo Beer Lab

KK:「Tokyo Beer Lab」というブランドのディレクションとデザインを担当しました。ディレクションでは、本当にブランド全体のディレクションをやっておりまして、デザインでは、ブランドのロゴやWEBサイトのデザインを行っています。

先ほども触れましたが、蔭山大輔さんというグラフィックデザイナーの方にアートワークを作っていただきました。缶のラベルなどを作っていくにあたって、インパクトの強いアートワークをどなたかにお願いしたいなと思い、蔭山さんに依頼をしたという流れになります。

ブランドロゴ
パッケージデザイン:蔭山大輔

またブルワリーの空間は、MONO-GRAPHさんという設計事務所にご協力いただいて、全体の世界観をつくり上げていきました。

空間設計:MONO-GRAPH

KK:Tokyo Beer Labのディレクション、またロゴのデザインをする時に意識したポイントとして、このブルワリーは、DJのライブを世界配信していくというのを一つの大きな要素と考えているところがありまして。それをデザインに取り込めないかと思い構築していきました。

また、DJ卓には音量の目盛りがあるんですけど、それがバーっと上がっていくと、ボリュームがピークレベルを超えたとき、赤くパパパッと反応していくんです。
ピークレベルを超えるくらいの勢い・ボルテージで、ビールと音楽を発信していこう。そんなことを思いとして込めて、このロゴもメーターがバババっと振り切れてしまうみたいな。そういうデザインをしています。

ブランドカラーを赤にしたのも、ピークを超えて、熱いボルテージでやっていくという思いも込めて色を決めたりと、DJの要素というのを非常に大事にしてブランドを構築していきました。


"デザインって生活を豊かにしてくれる" --- つくることの喜び

KK:自分が楽しめるものを作ることそのものが、僕の作るモチベーションですし、これからもデザイナーとしてやり続ける、根本的な原動力になると思っています。
作り手として、その思いは大事かなと思うので、初心を忘れずに、作ることそのものを楽しみ続ける人生でありたいと思っています。

デザインの一番の魅力は、生活を豊かにしてくれる、ということだと思っています。
それは使うものが便利だから豊かになるというのもありますし、もう少し情緒的な、これを触ってたり持っていることで、心が穏やかになるとか、嬉しい気持ちになるとか。
僕のデザインをきっかけに、デザインの面白さとか、デザインって生活を豊かにしてくれるんだなって、本質的に気づいてくださる方が一人でも増えたら、嬉しいなと思います。


映像制作・テキスト:岡元将志
タイトルロゴ:草桶開



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