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沈黙の行が明らかにすること

しかし、ほどなく私はこの力をしっかり律することができるようになった。誰かに話したいという衝動を、愛するライオンのように徹底して注意深く手なずけるすべを憶えたのだ。たゆみない自己観察によって内側に耳をかたむける習慣が徐々に身につき、何かを話すときにはそれを言うだけの威信をもって口にするようになった。そうすると、自分の中には二つの存在がいることに気づいた。個人としての私のエゴはすぐおしゃべりしたがって抑制がきかず、それは単に誰かと親しくなって自分に注目を惹きつけたいだけだった。だが私の意識の奥にある高次の自己は、この個人としてのエゴを牽制し、いつ何を言うべきか、いつ黙して聞き手に徹すればいいかを教えてくれる。重要なのはこの高次の自己によく注意を払い、その道理に従うことだ。誰もがしているように、単にいうことを聞けばいいというものではない。
エリザベス・ハイチ『イニシエーション』25章 イニシエーションへの長い道のり

ようやくイニシエーションのための訓練に取り掛かることを許された過去生での主人公(著者)は、指導者から「沈黙を守る」行を言い渡されます。現代社会で生活する人間にとっては、こうした行は実践するのが難しいところです。ヴィパッサナー瞑想のセミナーなどでは10日間沈黙を続けるといったことをしたりするらしいですが、試してみたい人はそういうものに参加してみたらよいでしょう。

この行におけるポイントは「誰が話したがっているのか?」ということです。ラマナ・マハルシは探求者の質問に対してよく「それを知りたがっているのは誰ですか?」というような問い返しをしていました。答えは「わたしのエゴ」なのですが、つまりそれは、「エゴとしての自己は幻想である」という理解に至るための質問です。ラマナ・マハルシの教えの核心はアートマ・ヴィチャーラ(真我の探求)というもので、それは「このわたしなるものは、なんなのか?(わたしという概念とはいったいなんなのだろうか?)を問いなさい」というものです。邦訳書では「わたしとは誰か? を問いなさい」と言ったと書かれていますが、直接教えを聞いていたラメッシ・バルセカールがそれは違うと否定しています。

なぜこの話をしているのかというと、正しいアートマヴィチャーラを行うと最終的に「わたしなどいなかった」という答えにいたるエゴが幻想であり、わたしたちは行為者ではないという理解にいたる)のですが、「わたしとは誰か?」と問う限りにおいては、その答えは必ず「誰か」となってしまうということをまず明確にしたいからです。

この場合の「誰か」とは、自己中心的なエゴをとり去ったあとに残る、本来の自分、純粋な自己のエッセンスでもいうべきものであるところの誰か、というものに行きつくしかありません。けれども非二元とは「全体から独立して存在する分離した個人という概念は幻想である」と教えるものですし、仏教におけるブッダの教えでも、このような誰かは完全に否定されるところです。ですから、ラマナ・マハルシもそのような答えを導くような問いをするはずがないのです・・・・・・。ですが、一方でラマナ・マハルシはこの探求方法を「真我」探求と自ら呼んでいます。真我はヒンズー教でアートマ、あるいはアートマンと呼ばれる概念ですが、これは実は先に述べた「自己中心的なエゴをとり去ったあとに、本来の自分、純粋な自己とでもいうべきもののエッセンス」であるとされているのです。

あくまでわたしが読み聞きして知る限りにおいていうなら、この部分はラマナ・マハルシの曖昧な点です。

この問題、つまりエゴとしての自己とは別に、より本質的な自己というべきものがあるのかどうか? 言い換えると『魂というものはあるのか?』という問題について、非二元の教師は程度の違いこそあれ、明確に語ることを避けているように、私には感じられます。ラメッシ・バルセカールは基本的に真我のような概念は持ち出しませんが、魂などないとまでは言い切っていませんし、「高次の」という言葉もときどき用いているので、非二元論で説明できることだけがすべてではないという考えは持っていたかもしれません。

一方、「パワーか、フォースか」の著者であるホーキンズ博士は著書の中で明確に人間の死後の行き先や、アストラルや天界といったこの物質次元とは異なる世界について言及しています。

話が長くなりましたが、わたしはというと、非二元論はあくまでこの物質次元の世界における根本法則のようなものであり、それはより大きな真理の一部でしかないと考えています。つまり、この引用文にあるような「高次の自己(じっさいにコンタクトがあります)」や「魂」といった概念を肯定しています。

以前blogに輪廻転生について書きましたが、その時に書いたのはいわば非二元論と整合性のある輪廻転生論でした。いずれ、高次元や魂という概念を踏まえた輪廻転生論 2.0とでもいうものを書く予定ですが、正直いうとまだわたしにもうまく文章化できません。そのため、いま読んでいるこの『イニシエーション』も含めて、自分が直接得た理解をどのようにまとめるか、書籍からの知識を得ながら考えているところです。

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