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【超短編小説】晩ごはん

うす気味悪い話が書きたくなる。ごくたまに。


 「今晩は珍味が届いた」と夫が言うので、箱を開けてみたらサソリだった。丸ごと1匹、大きいのが入っている。どう調理すればいいんだろう。とりあえず火にかけようか。

 スマホで調べたら、揚げ焼きにするとおいしいらしい。ならそうしよう。
 
 このあいだの珍味は熊だった。頭つきの死んだ熊が届いたから、風呂場で首を切り落とすのが大変だった。熊肉の味はどうだったか覚えていない。なんでもすごく精がつくようで、次の日の夫は踊るように出勤していった。
 
 マタギの知り合いいわく、熊の血をすすると疲れ知らずになるそうだ。私たちにとってはおどろおどろしいが、彼らにとっては元気薬なんだろう。
 
 サソリは赤黒い揚げ焼きになり、堂々と食卓に並ぶ。夫はバリィギシィという音を立てながら、無表情にサソリを片付けていく。わたしはいつも通りに、ご飯、納豆、みそ汁を食す。
 
 夫の動いている口を見ながら、この人が蛇になればいいと思った。
 そうしたらうちで放し飼いにしよう。
 
 小さい頃はきっと可愛い。子どもの蛇はやわらかくて、食べたらご利益のありそうな触感をしている。だけどわたしの趣味は夫を食べることではないから、そのまま育てよう。
 
 大きくなると蛇は、いろいろなものを呑み込むようになる。自分の体長より小さければ、なんでも胃に入る。夫がなにを欲しがるのかは知らない。蛇のエサはやっぱりカエルだろうか。生きていなくてもいいのだろうか。
 
 わたしは蛇の前に皿を置き、カエルの死体をのせる。蛇はチロチロと舌を出し、首をかしげてからカエルを丸呑みにする。いずれ成長すれば、150cmの私の身長を越すかもしれない。そうしたら蛇は、わたしが横たわって眠っているあいだに、獲物の大きさを測りにくるだろう。
 
 
 夫は夕食のサソリを食べ終えてから、ソファでパソコンをいじくり回したあとベッドに入った。彼の身長は、わたしより20cmほど高い。
 
 遅れて隣のベッドにもぐると、夫がスッと横に来て、体長を測るように体を横たえていた。

本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。