ひきこもりだった彼女に
昔ひきこもりの友達がいた。彼女は、日本におけるひきこもりの数や、学校を不登校になるとその後の社会参加が難しくなる構造について話してくれた。頭の悪い人ではなかった、と思う。彼女が働かず勉強もせず家にいるのは、もったいない気がしていた。本人に就職の意志はあったものの、なかなかバイトの面接に受からないと言っていた。学歴が足りない、精神疾患を持ってる、そのあたりがネックになっていたらしい。
残念ながら疎遠になってしまったけど、いま彼女と話せるなら、いくつか話したいことがある。例えば「hiki.work」というサイトがある話。
運営している会社の人たちが、ひきこもり当事者ないし経験者らしい。だから、サイト内では完全在宅でできる仕事が紹介されている。もっとも、PCスキルがないとできない仕事も多いようだけれど、問題はそこじゃない。「ひきこもり」を可視化して、そこに特化した求人サイトがあるという、その事実を誰かに話したい。
友達だった彼女は、結局就職できたのだろうか。いつだったか「バイトに行く」という投稿をSNSで見た気がする。「スーツを着ると、ちょっと大人になった感じがするよね」と言い合ったのは、もう何年も前の話だ。今どうしているか、まったくわからない。
彼女は中学校からカウンセリングに通っていた。当時のスクールカウンセラーとの相性がよかったらしく、学校を卒業しても彼のところに行っていた。いまでも「カウンセリング」と聞くと「心の弱い人の行く、どこか忌まわしい場所」という反応をする人はいる。それでも、当時よりメンタルの問題に理解は進み、より身近なものになってきてもいる。
例えば、オンライン型のカウンセリングサービスができた。
「コトリー」、可愛らしい名前。
従来型のカウンセリングは、そもそも相談に至るまでのハードルが高かった。予約を取るのが難しかったり、取れても一か月以上、先だったり。人気のカウンセラーなら何か月も待たされることもある。本当に話を聞いてほしいときに、それだと間に合わない。それに、予約を取る段階で心折れてしまう人も一定数いる。そういう人のためにも、オンライン完結型のサービスができたのは単純にいいな、と思う。
いままでにもそういうサービスがなかったわけじゃない。「友人として相談に乗る」を掲げた「ココトモ」なんかもそう。こちらは話を聞いてほしいときに、無料でメール相談に乗ってもらえるサービス(有料の対面相談もあるようだけれど、これは遠方の人には難しいだろう)。
上に紹介したどれも、私たちがまだ友達だった頃にはなかった。あるいは、できたばかりだった。だから、彼女とこの話をしようにもできなかった。
ひきこもりって大変だよね、なんで一回ドロップアウトしちゃうと、社会に戻るのはこんなに難しいのかな。スキルがあっても、女性は結婚や出産で仕事を離れればブランクができちゃうし、うちのお母さんもそれだった。その間に出来の悪かった男性社員が出世していったって。面白くなかっただろうな。
そんな話をした記憶がある。
結婚後の就労については、注目している会社が出てきている。こんな風に、主婦or主夫に特化した求人サイトもあるくらいだ。結婚・出産は、昔ほど大きなブランクにはならない。
まだまだ解決すべきことは多いだろうけど、少なくとも、いままで見えないことにされていた人たちに光が当たり始めている。ひきこもりだったり、主婦/夫だったり、メンタルに不安があったり。彼らへの風当たりはいまだに強いけれど、それでも前より少し、でも確実に風通しはよくなっている。
友達だった彼女がどう思っているかは知らない。風の噂では元気に過ごしているそうだ。