電車の中で書いた話【超短編】
あなたが首を吊った日の空はとてもきれいでした。首吊りっていうのは、うまくいくとほとんど痛みがないんですってね。ギュッとして意識がなくなって、そのまま。もっともあなたの場合どうだったかは確かめようがありません。
私はいま電車に乗っています。とっくの昔に亡くなった祖母にお線香をあげるため、実家に向かっています。昔と言っても三か月前ですけど、昨日になるまで知らなくて。
今日もよく晴れていますね。
雲ひとつない抜けるように青い空を見ると、魂はやっぱりああいうところに帰っていくんじゃないかと思います。体のほうは土に還って、それで一件落着というわけです。軽いものは上に、重いものは下に。死っていうのはいつも自然です。いつも落ち着いています。
落ち着きがないのは生きている人間のほうで、私たちは重いものも軽いものも一緒くたに持っている。時々それが、うっとうしくて仕方ありません。そう思いませんか。体を脱いで自由になって軽くなって、空に溶けたいとは感じませんか。
あなたが死んだ理由はごく個人的な絶望からで、ひょっとしたら私と同じようにただ体を土に還したくなっただけなのかもしれませんね。私はそのために首を吊ろうとは思いませんが。
今日は、うんざりするような、いい日です。
JR総武線、9:41中野発、9:48新宿着。
本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。