知らない内に怪我をしていた <読み切り>
知らない内に怪我をしていた。
足首から血がだくだくと流れていて、ちょっと痛いなと思って見た時には、もう靴下が真っ赤に染まっていた。
母に言うと
「最初は何とも思わないのよね。徐々に傷口が広がっていくの。でもまあ、世の中そんなものよ。あっちのおばさんを見てごらんなさい。長く生きれば、ああやっておっきなかさぶたになるのよ」
指差すほうを見ると、小柄で太ったおばさんが、がさがさの大きなかさぶたを剥きだしにし、えっちらおっちらと歩いていた。ゾッとした。
次第に手からも血が出るようになった。
どこで切れたのかわからない、血管がパカアッと開いて、鮮烈な血が脈と一緒に波打ちながら流れていた。
父に言った。
「足首からも血が流れてるの。もう限界だよ」
父は言った。
「それくらいのことはお前がなんとかしろ。お父さんの若い頃なんかな、ケツからも血が出てたんだ。お前はまだ手足だろ。なあに、すぐによくなるさ」
手と足の出血が止まらないまま、今度は左の目玉が転げ落ちて、転がったまま、こっちを見ていた。転がった目玉は、それだけで意識があるようで、左目を失くした私を見て、何か感じている風だった。
私は両親に言った。
「ねえ、もうそろそろ本当にやばいよ」
母親は真っ青になり、父親は
「こんな奇形児は俺の娘じゃない。勘当だ」
と怒鳴った。
その時、残っていた右目で見ていた視界が、下から波が寄せてくるように赤く染まっていき、そして何も見えなくなった。父と母が喧嘩しているのが聞こえた。
私は人間としての形を失って、そのまま死んだ。
本を買ったり、勉強したりするのに使っています。最近、買ったのはフーコー『言葉と物』(仏語版)。