顧客理解に重要なJob思考 ~ビジネスプロモーターシリーズ②~
■今回のテーマ
<教授>
今回もビジネスコンセプトのベースとなる”ターゲット顧客の探究”というテーマを扱いますが、その中でもCustomer Jobにフォーカスをあてます。
※前回の内容
■フィットネスクラブのVPC(前回の宿題)
<教授>
まずは前回の宿題から議論しましょう。
「24時間フィットネスクラブをバリュープロポジションキャンバス(VPC)で整理してみる」
でしたね。
Aさんはどんな整理をしましたか?
<生徒A>
はい、こんな感じです。
まずCustomer Jobs=顧客の理想の状態ですので、これは「健康になる」ということかと思いました。
その上でPainは「忙しくてなかなか運動できない」、「お金に余裕がない」あたりかなと。
それを解決する要素としてのPain Relieverは「いつでも使用できるジム」「安い料金設定」で、サービスが「24時間フィットネスクラブ」という感じです。
<教授>
Aさんはご自身で整理してみてどんな感想を持ちましたか?
<生徒A>
なんか、単純すぎてこれでビジネスになるのかな・・・?という印象です。整理しているうちに、24時間フィットネスじゃなくてもいいような気はしました。
<生徒B>
健康になるっていうのがなすべきことっていうのは誰しも思いそうですが、それだとビジネス上のターゲットを絞り切れてない感もありますよね。
<教授>
VPCは一見シンプルで使いやすいツールですが、埋めるだけだと深みが出ないので効果は発揮できません。
特にCustomer Jobの設計が緩かったり、曖昧であったりすると、その他の箇所をどれだけ埋めても意味がなくなってしまいます。
今回Aさんにやってもらった内容がしっくりこないのは、まずCustomer Jobの設定が足りてないことが大きな原因です。
これから数回に分けて、VPCのブラッシュアップ方法を議論していこうと思いますが、今回はその中でもCustomer Jobsにフォーカスを当てて掘り下げて議論してみましょう。
■Customerを捉える
<教授>
Customer Jobsが一番のキモと言ってもいいくらい、重要でかつ難しいのです。今回は考えるにあたってのいくつかコツをお伝えしましょう。
まず意識すべきこととして、設定したCustomer Jobsにおいて具体的なイメージがわくか?ということです。
先ほどのフィットネスクラブの例では「健康になる」ということでしたが、どんな人が健康になりたいのでしょうか?
<生徒A>
それは平日働いているビジネスパーソンですよ。
<生徒B>
でも、健康になりたいって言うのはビジネスパーソンだけじゃないですよね。私も24時間フィットネスに通ってますが、高齢者の方もいますし。あと、そもそもビジネスパーソンというのがかなり広いですね。。。
どんな人なのかイメージしても、Aさんと私でも違うタイプの人を想像してしまいそうですね。
<教授>
そうなんです。日本人にとってCustomer Jobsというワードを理解するにはなかなか難しく、広くて粗い設定になりがちなんですね。
そこで、CustomerとJobsを一旦分けて考えてみるのがおすすめです。Customerは顧客が誰なのか?を具体的に、その人の顔や体型、振舞い、どんなことをしているのか、が思い浮かぶレベルで設定してみるとよいです。
ビジネスパーソンだと広すぎますが、例えば「都心で朝から晩までバリバリ働いている中堅マネージャー」としてみるとどうでしょう?
<生徒A>
確かに少し顔が見えてくる気がします。
中堅とすると30代中盤から40代中盤くらいですかね?
若かったころとは体の感じも変わってきて、お腹もちょっと出てきてしまっている…という感じなのかな。
<生徒B>
前日の疲れが取れにくくなってきて、仕事に支障が出始めた、みたいなところもあるのかしら。
<教授>
例えば・・・の設定ではありましたが、具体的に顔が見えるレベルで設定すると、こうした議論を経ていくことでよりイメージがわいてきますね。
あとは、客観性を意識することを心がけるとよいです。
今回のようにAさんとBさんが同じようなイメージを持てるレベルまで設定できると、このイメージ仮説を検証する際のプラン・アクションもスムーズになります。
■Jobとは?
<教授>
では、続いての質問です。
そのマネージャーは何を成し遂げたい、どんな状態が理想なのでしょうか?
<生徒A>
そうですね。。。
理想の状態って言われると、やっぱ「健康でいたい!」ですかね?
<生徒B>
でも、健康になりたいって多くの人が思ってることじゃない?
これも考えは始めると広く粗い感じになってしまいますね。。。
<教授>
はい、そうなのです。この”成し遂げたいこと”、”理想の状態”というのが非常に複雑でかつ奥行きのある概念なのです。
Jobは正確には”Jobs to be done”といって、クリステンセン教授が提唱している理論です。
「人々が商品やサービスを自らの生活に雇用するのは、そこに片付けるべきJobがあり、Jobを片付けることで進歩するためである」とクリステンセンは言います。
<生徒A>
分かるような、分からないような。。。
<教授>
日本人にとってこのJobというワードが理解しにくいのかなと思います。
シンプルに”成し遂げたいこと”や、”理想の状態”という捉え方をすると分かりやすくなるかなと思います。
<生徒A>
それでも「健康でいたい!」が理想の状態っていうのはおかしくはないですよね。。。
<教授>
そこで大事な視点が、Jobは”特定のコンテキスト・シーン”における成し遂げたいことや、理想の状態であるということです。
このコンテキスト・シーン設定がポイントになります。
<生徒B>
先ほどのマネージャーの例でいうと、マネージャーとしての責任や振舞いが求められているといったコンテキストがあって、「多くの顧客や部下を抱えている中で、マネージャーとして実績・成果を出し続ける」というのが理想の状態なのかな。
<生徒A>
確かに。。。
そうなると「健康になりたい」では、健康になったから何?って感じですよね。
<生徒B>
実績・成果を出すためには平日の日中は顧客対応や部下の相談に乗る時間でいっぱいで、また夜は会食等のお付き合いも多くなってくる立場ですよね。
気力・体力充実した状態で職務にあたりたいものの、年齢の衰えと共に連日の疲れが抜けにくくなって、集中力が途切れたり…と支障もでてくる。
より生々しいイメージを持つことができますね。
<教授>
一定のイメージがわいていた顧客にJobが設定されると、更にストーリーが見えてくるんですね。そのストーリーの中で、何か対策しなければいけないけどなかなか時間が取れない…などのPainポイントが見えてくるんですね。Painポイントの話はまた次回掘り下げましょう。
Jobは非常に奥深いテーマで、まだまだ一緒に考えたいテーマがありますが、これはまた上級編ということで、別の機会に議論をしましょう。
■Jobを考えることの意義
<教授>
プロダクトアウト思考という考え方がありますね。
特に日本企業はより高度な技術をベースに、より高機能な商品にブラッシュアップをし続け、顧客への価値を提供してきました。
そしてこのプロダクト基点での考え方がダメだと気付いた上司が、部下に対して「お客さんの声を聞いてこい!」という指示を出して改善に向かおうとします。
ここが今の日本企業のよくある状況なんですね。特に営業をやられている方からすれば、「お客さんとはよく話してますけど…」という腹落ちの無いことにもなってしまいがちです。
比較的先を行っている企業では、今回議論してきた「お客さんのジョブは何なのか?から考えよ」という指示が出るようになってきています。
このジョブ自体は顧客自身も言語化しておらず、無意識に設定されていることがむしろ多いので、「ジョブは何ですか?」と聞いても出てこないんですね。
顧客の立ち居振る舞い、普段の何気ない会話から出てくる話、本来の使い方でないモノを使って対処している…などをヒントに、仮説を織り交ぜながら考えていくものなのです。
百発百中でJobを当てる方法は無く、仮説構築と検証を繰り返す仮定の中で探り当てるものだと思ってください。
<生徒A>
なるほど、難しいテーマなものの、この考え方を用いると「顧客のなぜ?」に踏み込める気がしますね。
<生徒B>
あと、Jobベースで考えていくと、競合となる商品やサービスの捉え方も変わってきそうですね。
ドリルメーカーの競合は必ずしも他のドリルメーカーでは無いのかもしれない…。
<教授>
そうなんです。
Jobを押さえられると、その結果として競合が見えてくるんですね。
デジタルトランスフォーメーションが進む中で、いきなりやっていたプレーヤーに顧客を持ってかれてしまった…という話が最近多いですが、これはプロダクトアウトでの競合設定をしてしまっていることに起因します。
この競合の捉え方に関してはまた提供価値とは何なのか?を議論するときに掘り下げて考えましょう。
■次回までの宿題
次回までの宿題は「野菜ジュース」メーカーの担当者だとして、そのジュースの顧客とJobを考えてきてください。
フレームワークや思考法は
・まず使ってみる
・その後にレビューしてもらう
・自分なりの解釈論を加えていく
この繰り返しで習熟していきます。
次に行く前に、自分の手と頭を使ってチャレンジしてみてください!
■今回のサマリ
① 顧客を捉えるためにCustomer Jobを設定するところから始める
② CustomerとJobを分けて考え始めると、想起しやすい
③ Customerは顧客イメージが頭の中で具体的に思い浮かぶレベルにする
④ Jobは特定のコンテキスト・シーンにおいて成し遂げたい/理想の状態
⑤ その上でCustomerとJobをつなげてストーリーを作る
⑥ Jobは顧客自身も言語化できていない
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