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草彅さんの「メルカリしようよ!」はどうやって生まれたの?電通・東畑チームのクリエイティブ裏話【前編】

こんにちは。
メルカリ コピーライターの長嶋太陽です。

2018年11月から、メルカリは新しい広告キャンペーンをスタートしました。

草彅剛さんが投げかける「メルカリしようよ!」という投げかけにポジティブな反響をたくさんいただき、社員一同嬉しく思っています。

2019年1月からは、こんなキャンペーンを実施しました。ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

誰もが一度は目にしたことのある「CM」は、企業のブランディングの中心にあるもの。だからこそデザインとの関連も深く、その技術や発想法はデザイナーの視野をも大きく広げてくれます。

そこで今回は、「メルカリしようよ!」の広告クリエイティブを手がけた電通・東畑チームとメルカリマーケティングチームの座談会形式で、「CMの裏話」をお届けします。


どんな意図や思いがあるのか。どんな技術や知恵が込められているのか。これまで企業が語らなかった、「伝えることの裏側」について、みんなで考えるきっかけになれば幸いです。

目次
・メルカリ・マーケティングチームはめちゃくちゃ悩んでいた
・「みんなが集まる大通りのようなにぎわい」って?
・お互いに知恵を出し合って、文化をつくっていく。

電通・東畑チーム 左から:秋草拓哉(営業)、柳下祐介(ストラテジックプランナー)、小山真実(コピーライター/CMプランナー)、東畑幸多(クリエーティブディレクター)

メルカリ・マーケティングチーム 左:丹下恵里 右:南坊泰司

メルカリ・マーケティングチームはめちゃくちゃ悩んでいた

南坊:新CM、社内外からいい反響をいただいています。世の中が動くことはもちろん大切だけど、まず社員が喜んでくれてよかったなと。

東畑:サービスに向き合っている人たちが喜んでくれるのって、本当に嬉しいことですね。

長嶋:「メルカリしようよ!」って、なんか言っちゃうんですよね。

東畑:普通だけど、なんか言っちゃうためには、「よ」が大事なんです。「メルカリしよう」だと、ちょっと押し付けられているかんじがする。「桐島部活やめるってよ」みたいな温度感が大事なんです(笑)。

長嶋:このコピー、普通なようで普通じゃないんですよね。「伝わる」ということを最優先して、ストレートで体温のある投げかけになっている。どう決まったんですか?

東畑:今回の場合は、変化球ではなく直球でいこうと決めていたので、コピー自体はすぐに決まったんですよ。もともと認知率の高い「メルカリ」という単語をキャッチの中に入れることで、サービスをすぐに連想できてアクションにつながります。

人の体温が感じられる「よ」という問いかけの形になっていることも重要です。まっすぐシンプルに問いかけるバランスがちょうどいいというのは早い段階で決めていました。

難しかったのは、コピーを決める前段階、ストラテジックプランニング(戦略)の領域ですね。今のメルカリは、誰に、どんな風に、どんな言葉で語りかけるべきなのか。それを見つけるのに時間がかかりました。その辺りの話を、ストラテジック・プランナーの柳下からしてもらおうかな。

クリエイターオブザイヤー受賞者の東畑さん、とにかく柔和な物腰です

柳下:まず、メルカリはもう世の中の主流になっている、という前提に立って考えていたんです。
ひとつの企業のサービスから社会的なインフラへ変わりつつあるのかなと。
でも、メルカリのみなさんはいまひとつピンときていませんでした(笑)。不思議だったのですが、メルカリマーケの丹下さんと話すなかで、捉え方が変わっていきました。

丹下:長いお話に付き合ってもらいました。

柳下:丹下さん、めちゃめちゃ悩んでいたんですよ。本当にいろんなことを、いろんな角度から考えていて。

人も物も動いてるけど、新しくはじめる人が以前より減っている、とか。お客さまはみんなそれぞれの価値観を持って楽しく使ってくれていて、決めつけるのもおかしい、とか。お金の話、組織の変化なんかも含めて、ぶっちゃけ話をたくさんして、そこで解像度が上がりました。

東畑:それに加えて、丹下さんが示してくれた三つの方向がヒントになりましたね。

丹下:①とにかく使いたくなる。②とにかく好きになる。そして、③Go Boldの三つです(笑)

一同:笑

東畑:当たり前のようなことですが、重要なヒントになりました。
①は、ユーザーにとっての機能や利便性を伝えるということ。
②は、情緒的価値を伝えるということ。
③Go Boldに挑戦していい、ということ。

長嶋:①と②だけだと、小さく正解を狙うような作業になってしまうかもな、と。

柳下:この話を聞いて、東畑が言ったんです。「メルカリって、まだそこまで知られてるわけじゃないんだ!」って。

東畑:買いかぶりすぎてましたね(笑)

一同:笑

柳下:社会のプラットフォームになる、という方向はいいんです。でも、それがメッセージの中心になるタイミングじゃない。新しい消費行動を、当たり前に選択肢に変えていく長い物語のはじまりなんですよ。なんだよそれ〜難しいよ〜とか言いながら、考えていました(笑)

難しさについて話すストラテジックプランナー・柳下さん

東畑:そしてたどり着いた、今向き合うべき表現の鍵が、銀座中央通りのような「人がたくさん行き交うにぎわいを可視化する」ということでした。

「みんなが集まる大通りのようなにぎわい」って?

東畑:「なんだか不安」とか「面倒だ」とかっていうネガティブなイメージを、CMによってひとつひとつ取り払うことは、得策ではありません。

それよりも、みんなが集まる大通りのようなにぎわいを見せることができれば、風向きをいい方へ変えられる、と考えました。

長嶋:アプリならではの性質でもあると思うのですが、バーゲン会場みたいに「わー盛り上がってるなー」ということが、外から見えないんですよね。

東畑:実際、データを共有してもらって、1日の取引金額、物が動いている量を知って、「こんなに?」って(笑)。だから、盛り上がりを無理につくるのではなく、そこにある盛り上がりを可視化する、ということなんですよね。

柳下:その盛り上がり方も独特なんですよ。意外なカテゴリのものが売れていたりして。

小山:たとえば、「お中元でいただいた」ってキーワードが上位にくるのが印象的でした。消費する側が市場をつくっていて、売る側の理屈や常識、ルールに従って動いていないんですよね。
欲しいと思う人がいる。それを売りたいと思う人がいる。まさに市場の原理・原則が働いているんです。


CMプランナー・コピーライターの小山さん

東畑:生産者や流通の意図とは関係なく、生きている人がナマでやっていることに、人の生活が見えてくる。大きな発見でした。
広告のテクニックで言えば、賑わいが賑わいを生む、というのも重要です。「ベストセラーをつくるにはベストセラーだと言え」みたいな話もあって、これは感心できるものではないですが、ある種の真理ではある。

南坊:ここに至るまで、たくさん回り道をしましたが、何度もディスカッションの機会をつくってコミュニケーションしながら、僕らだけではたどり着けない表現になった、と思っています。

東畑:CMっていうのは、みんなでいっしょにつくるもの。あらゆることを共有しながら、アイデアや意見を重ねて、完成を目指す。だから、できあがったものが社内でいい反響だったということは、本当に大切なんです。

お互いに知恵を出し合って、文化をつくっていく。


丹下:お客さまのリアルって、もう「フリマ」じゃないんですよね。例えば、「アタックネオ」って検索ワードがたくさん使われていて。実際のフリマでアタックネオを探すことはないじゃないですか。

東畑:丹下さん、そういうところがすごい。数字と向き合って、それを使いこなしている。ロジカルにやらなくちゃいけない部分と、感覚的、身体的に判断しなくちゃいけない部分のバランスが絶妙なんだと思います。

丹下:ありがとうございます恐縮です…(笑)
にぎわいを可視化するというのは、メルカリ上で何が盛り上がっているのか都度調べたり、時流を深く理解しないといけないから、絶対めんどくさい企画なのに付き合ってくれるんだ!って感動したんです。

東畑:すみません、正直なところ、提案しているときは決まってからのことを考える余裕はなかったです(笑)

一同:笑

東畑:この企画って、わかりやすいものではないんですよね。コミュニケーション全体の設計図を理解していないと意思決定しにくい。わかりやすいキャラクターをつくるわけではないので。そういう提案をすぐに理解して実行まで持っていくにあたって、双方を橋渡しする共通言語を持っている南坊さんの存在は大きかったですね。

南坊:経営だったり上位の意志を握った上で、一枚岩でアウトプットに向き合わなければならない、と思っています。社内調整と言ってしまうと小さく聞こえますが、マーケティング活動において意志決定をスムーズに行うというのは、非常に重要なんですよね。

長嶋:メルカリの場合で言えば、ITの業界でバリバリやっている人たちに広告クリエイティブのことを理解してもらわなければならない。それは本当に難しい作業ですよね。

プレゼン資料は100P超。分厚いだけでなく、読みやすいように工夫が凝らされています。資料の中身は企業秘密。

丹下:私はメルカリに入って初めてCMをつくるということに携わったので、何が決まっているとわかりやすいのか、といったことも手探りでした。考えていることを全部ご相談していたかもしれません。

東畑:それはありがたいんですよ。情報がたくさんあれば、ヒントがたくさん見つかる。媚を売ろうとしてるわけじゃなくて、本当はこの対談もチームのメンバー全員で出た方がいいと思っています。
メルカリさんと電通で、座る位置さえ混ぜた方がいい。これからすごいスピードでCtoCを育てていかなくちゃいけない。まさに地図がない仕事だからこそ、お互いに知恵を出し合って、文化をつくっていく。これは本当におもしろいことでもあるんです。

長嶋:メルカリは、会社としても「社会に開かれていたい」という思いがあります。
CM制作の裏側を共有するというのは珍しいことだけど、それが社会的な資産になっていったらいいな、と考えていて。試みとしては小さいですが、CtoCと本質的に繋がっている考え方だとも思うんです。

東畑:これをnoteというプラットフォームで公開するんだからおもしろいですよね。たくさん読まれるといいですね。手の内を明かすことにならないか、ちょっとドキドキしています(笑)

 後編につづく

企画・編集・執筆:長嶋太陽