天気の子と日活ロマンポルノ
毎週日曜夜9時30分より『めけラヂオ』というライブ配信番組を8年ほどやっておりますが、今週のトークテーマは『天気』ということで、やはり、新海誠監督の3年ぶりの新作『天気の子』は見なければと、昨日、レイトショーを見に行ってまいりました
その前にある意味違う意味で? 賛否両論の『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』を見て思ったことと、今回見て思ったことの共通点は、”百聞は一見にしかず”ですかね
今時、初日にはネタバレのレビューがガンガン出るし、ネタバレではなくてもSNSで大体の評判という物はいやでも目に、耳に入ってくる
僕はそれほど新海誠監督に思うところはなかったし、『君の名は』はいい映画だとは思いましたが、あれでは泣けないとか、まわりの盛り上がりに対してはむしろ否定的なくらいでした
だからこそ、今回はちょっと期待したというか、あれだけのヒットを図らずも飛ばした後というのは、本当に難しい一手になるだろうなという、結局はすこし意地悪な期待をしていたということになるでしょうか
今回は事前にある程度ネタバレで情報を集め、純粋に映画を観て感動したいという心持ではなく、かといってアラを探そうとか、誰かの批評や賛辞を否定しようという目で見たわけでもなく、できるかぎりフラットに見たつもりです
まず、楽しかった=退屈しなかった、面白かった=呆れるシーンは好くなかった、感動はしなかった=考えさせられることが、考えてしまうことが多かった
とこんな感想から始めましょう
まず、この映画が楽しめないはずがない
総合的に見て、エンターテイメントとしてよくできていたと思います
しかし、ターゲットはアニメーションを見ようと劇場に足を運ぶティーンエイジャーにがっつり絞っているので、僕のようなおじさん=酸いも甘いもしっているという意味でただ歳をくった、少なくとも童貞ではない大人であれば、正直、主人公とヒロインどちらにも感情移入は難しいでしょう
この映画には僕らおじさんがノスタルジーに浸るのを許しません
なぜなら、新海監督はあるセリフによってこの二つの層をはっきり切り分けているからです
”信じられない。気持ち悪い。最悪”
これは主人公、島から家出してきた童貞少年が、東京に出てきてボロボロになって唯一優しくしてくれた少女に罵倒されるシーンのセリフ
ヒロイン陽菜は毎日水だけ飲んでいる少年に野良猫にエサをあげるように店のハンバーガーを・・・しかもビッグなやつをこれ上げるといって差し出します
しかし陽菜はおそらく年齢詐称がばれてバイトをクビに(夜中働けない年齢ってことだと思う)
彼女は生活のために、実を売ることを覚悟して、ホテルに連れ込まれそうになるところを主人公帆高に助けられそこね、ああ、だめかというところで、童貞君がぶっぱなします
拾った銃を・・・つまりチートってことになりますかね
ふたりは廃墟になったビルに逃げ込み、さて、助けてくれてありがとうって言葉がでるのかなというこの場面でヒロインが言い放つ言葉が
”信じられない。気持ち悪い。最悪”
ぐっと来ましたね
言っちゃうんだ、それ
それがいえる君はきっと・・・
さて、このシーンは人によって受け取り方がすごく違うと思う
たぶん、この映画で最も重要なシーンであり、ここから先は見る人によっては恋愛ファンタジーにもロマンポルノにもなるわけです
ここでロマンポルノの言葉を定義する必要があると思うので簡単に
日活ロマンポルノ(にっかつロマンポルノ)とは、1971年(昭和46年)から1988年(昭和63年)にかけて日活(1978年(昭和53年)に社名変更し『にっかつ』)で映画制作された日本の成人映画のことである。
ジャンルとしてはピンク映画という言葉があって、これは今のアダルトビデオと同じカテゴリーでよいかと思います
多少のドラマとお約束のセックスシーン
ロマンポルノはジャンルとして定義するならば、若手の映画監督の育成となる物語や作家性重視のエロ作品とでもいいましょうか
つまりエロライトノベルと形状は近いと思います
さて、『天気の子』の恋愛物語を整理すると
童貞主人公が田舎から街に出る
そこで散々な目にあったが、うっかり銃を拾う
ある女の子に優しくされる
偶然しりあった大人についていったら、若い女性と同棲しているがそこに住み込む※1
女の子がホテルに連れ込まれそうになっているところを偶然見て助ける
しかしそれは勘違いだった
女の子も自分と同じわけ在りだと知りシンパシー
彼女の弟と彼女の能力を使った仕事を思いつきハッピーになる※2
いろいろバレて終われる身に
ラブホで告白※3
別れ※4
これは日活ロマンポルノ的なシナリオプロットに感じてしまう
※1は大人2人が血縁関係なので何もないが、ロマンポルノなら愛人で、童貞君を目覚めさせる役割をする
※2※3は弟がいるからストッパーになっているがいなければ※2のときに求めて失敗し、※3で結ばれるはず
さらに※2は、天気を晴れにする仕事だが、人を喜ばせてお金を得るということは擬似風俗(デートだけとか添い寝だけとか)仕事に置き換えることが可能
※4別れは、どちらかの死によって完結すべきであって、本作もヒロイン陽菜はある意味一度死んでいる。ラブホテルで結ばれた後、警察に追われ、ヤクザに追われて主人公が銃を使って陽菜を守ろうとするも、それに失敗するって流れが、ロマンポルノっぽいシナリオ
実際にそんなストーリーを見たわけではないけれども、僕のロマンポルノに対する印象はそんな感じ
さて、ここからは僕のまったくの仮定話なのですけれど
ヒロイン陽菜は
”信じられない。気持ち悪い。最悪”
のセリフを言い捨てて一度、主人公の前から姿を消すのですが、すぐにもどってきて、童貞少年に優しい声をかけます
まるでさっきとは別人のように
僕はこのシーンを境に現実から童貞少年の妄想世界に入ったのだという新海監督のしかけだと思うのです
現実の少女 陽菜は本当にここで去っていき、戻ってきたのは童貞少年の妄想の少女
彼女のキャラクターは人間として不完全で、実は弟 凪と二つで一つの人格ではなかったのかと
だから弟 凪はませていて、男の子のクセに女子っぽい
ラブホテルではしゃいでしまう子供っぽさも持っている
童貞少年の都合の悪い陽菜の部分はすべて凪に集約されている
これはかなり大胆な仮説かなとも思いますけど、しかし、あの陽菜という存在はどうにも人間らしくないのです
そして凪も、凪を先輩と呼ぶ帆高も・・・でも帆高は大人である雑誌ムーの仕事をしている須賀 圭介(小栗旬)や須賀の姪である夏美(本田翼)の前ではすごく人間っぽく、あの2人といる帆高はまるで家族のように溶け込んでいる
都会の中の自然が実はあの三人の生活のように思え、大人としては、そこは少しわくわくというか、昔欲しかった、秘密基地を大人でも持っている感覚に共感を得たのですけど
おそらく、あれは新海監督の憧れの大人像でもあり、故にそれを否定しながらも、圭介は少年のピュアさに汚れてしまった自分を恥じて、最後は童貞君に対して心を動かされ涙を流し、帆高を助けるように設定したのだと思います
正直に言いますけど
あれ、すごく格好悪かった
あれは、中途半端な大人です
でもね
現実の大人なんですよ
だから、僕はそこには共感というか感情移入を無理やりさせられましたね
年下の映画監督にそれをされる不愉快さ、わかりますか?
だから僕は抵抗して、彼のやろうとしていることを きっちり俯瞰でみてやろうって気になった
いやぁ、面白かったです