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まよいマイマイ

アパートの玄関先とベランダの前には生垣がある

平日ではあるけれど、休日出勤が続き、ちょっとお疲れ気味だったので大事をとって今日は休みをとった

今日は、何もせずに寝ていよう

そんな考えもお昼前には修正せざるを得なくなった

外から聞こえるモーター音と人の声
アパートの1階に住んでいる僕は久しぶりに青空が見える空と繋がるように窓を全快にして横になりながらテレビを眺めていたが、小さめにしてあった音声が全てかき消され、外から青臭いにおいが漂ってきた

毎年この時期に生垣の雑草を一機に刈っているのは知っていたが、まさか僕がゆっくり休もうとしたこの日にそれがぶち当たるとは、なんともやりきれない思いだ

平日に休んでも、僕の携帯には直接クライアントから掛かってきたり、会社から問い合わせがあったりと、あまり落ち着けないことが多いが、ありがたいことに今日は一本もそれがなかったというのに

”なんて日だ”

仕方がなく怠惰に過ごすことを諦めて、台所に立ってあるもので料理をする

実はこの一月ほど、僕は期間限定で喫煙者になっている
15年ほど止めていたタバコをなんで今更吸いはじめたかといえば、それはそれで話せば長くなるのでまたの機会にするとして

さて、そんなわけで、僕は蛍族を堪能していたわけなのだけれども、だからこそ、生垣の雑草は、なんというか話し相手とは言わないまでも、家族に煙たがれながらタバコを吸うに当たっては、さながら街の片隅の喫煙所で、所在なさげに、或いはオアシスを見つけた旅人のように集まった喫煙者と顔を合わせるような、そんな間柄だったわけだけれども

一時間ほどで当たりは静かになり、ベランダから様子を見ると、まぁ、きれいさっぱりに雑草たちはいなくなり、本来そこに植えられいるいくつかの木々だけが、すっきりとした表情でたっていた

”やあ、髪切ったんだね”

そんな冗談を言える気分でもなかったが、そういえば昨日バーで一緒になったお姉さんに(彼女は僕と同郷の色白でおしゃれで美人の年上の人妻)

”男三人もいて、わたしが髪を切ったこと、だれも気づかないのね”

ああ、またやってしまった
しかし、彼女はそんなことで気分を損なったわけではなく、ふとした会話の間を埋める程度に話を振ったに過ぎず、逆に言えば、そんなネタを使わせる前に、”もっと気の利いた話題をお前らふれよ”というタイプの女性だ

さて、僕は玄関の様子も見に行く

高さ30センチほどのコンクリートで囲われた8畳ほどのスペースに土が盛られているのだが、そこに椿の木が植えてあったのは随分昔の話で、チャドクガの幼虫が大発生し、それ以来全て伐採され、土は厚手のシートに覆われてしまった

さて、雑草と言うのは強いもので、そんな人間の勝手な暴挙にも抵抗をしてみせる

いつしかそれなりの生態系が形成され、アシアガバチが巣を作るほどにのっぱらになっていたのだが

まぁ、きれいさっぱり

僕はここでもタバコを吸っていた
ここ一月の長雨

コンクリートにはでんでんむしが徘徊していて、僕は彼らを観察しながらタバコを吸うのを楽しみにしていた

観察と言ってもただ眺めて、ああ、大きくなったかなとか、数が増えたかなとかその程度である

”どうして僕の周りから、みんないなくなってしまうんだい”

そんなことをつぶやきたくなるくらい、どうにも寂しいものである

だがしかし、彼らはまた、帰ってくる

これは毎年繰り返される、一つのサイクルなのだから

でんでんむしむし かたつむり

迷いまよって、今はいずこに

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