ホラーの文脈~配達は日没後に
エブリスタという投稿サイトにちょこちょこ短編を書いている。主にホラー系だ。僕が何故、ホラーばかりを書くかといえば、それが面白いからであると同時に僕が怖がりだからだ。
小学生のころ住んでいた四回建ての社宅はエレベーターがなく、住んでいた四回の部屋に行くには階段を上っていかなければならない。それがとても怖かった。階段を上るにしても降りるにしても、いくつもの曲がり角を通らなければならない。コンクリート製の階段は常に死角が目の前と背後にあり、そこから何かが出できやしないかと、ビビりながら上り下りをしていた。どんな場所でも階段はそうなのだが、この社宅の階段が怖かったのは別の理由がある。
この社宅、いったい誰が住んでいるのかわからなかった。父と母、弟の4人で暮らしていたのだが、そうした家族構成の家はほかになく、空き室も多かった。つまり他の人の生活感がまるで感じられないのだ。
友達の住んでいるアパートや集合住宅の階段はそれほど怖いと思ったことがない。僕の住んでいた社宅はほかに人の住居はほとんどなく周りは工場ばかりだった。
子供の想像力の豊かさは、そういうところにこそ何か人ではないものがいるのではないかと考え、かってのお化けを作り出してしまうのだ。建物のすぐ隣にはほぼ廃墟と化したアパートが隣接している。そとから部屋の中が見えるほど荒れていた。その一階部分は工場の倉庫のような役割をしていたようなのだが、こどもにとっては、何か良からぬことがあって人が住まなくなったのだとしか考えが及ばない。
今回書き下ろしたホラー作品は具体的な魔物ようのうな存在は出てこないし、主人公が勝手に怖いことを想像してしまっているという話になっているのだが、大人でも余計な想像をしてしまうような特殊な環境や条件をそろえることで、なんでもない荷物の配達が恐ろしい出来事の片りんであるかのように見えてしまう。これがホラーの文脈と僕が呼ぶものなのだ。
今回は「届けたい〇〇」という投稿企画で、それは別にラブレターでも恩人への贈り物でもなんでもよかったのだが、僕としてはなんだかわからないものをなんだか不気味なところに届けるというシチュエーションは十分にホラーになるなどと考えてしまう。
ここにひとつのギミックがある。それはユウガオという植物だ。アサガオは朝花を咲かせ、夜にはしぼんでしまう。逆にユウガオは夕方から夜にかけて花を咲かせ、朝にはしぼんでしまう。植物の分類的にはユウガオはウリ科なのでヘチマのような実を生らす。
子どもの頃に夜に咲く白い花を不気味に思ったしあのヘチマを夜に観るとなんだか妖怪のように見えてしまう。そんなものが並んでいる洋館となれば、それだけでも不気味なのにそこに必ず日没をごを指定した荷物が届く。人の気配はあまりない。
いったいどんな荷物が届けられているのだろうか。大人は大人なりに経験と知識からその状況を分析し、いくつかの可能性を引き出す。その中には合理的な結論に至る者もあれば非現実的な異世界のある可能性を見出してしまうこともある。
荷物の配達という仕事は、ものを人に手渡す仕事である。一つには配達員を装った強盗や詐欺に使われることもある。そして届け先の人が常識から少し外れているというシチュエーションも想像できる。そして封印された荷物の中身はとても人には見せられないようなおぞましい物の可能性もある。
この物語はそうしたシチュエーションを作り出し、その中で人が不要な恐怖心からありもしない気配や、声を聴いてしまうという展開に持っていくことで、十分怖い話は成立する。
そしてそこにはちゃんとサインを残している。ヒルガオの花と熟した実が同時にあることは稀であり、それが一つ二つでないというのは、それはもう異世界でしかないのである。
その場所だけ時間が歪んでいる。危ない場所であると警告をしている。だからそういう場所ではやってはいけないことがいくつかある。それがこの物語のホラーの文脈に他ならない。
これを読んで少しでも体温が下がってくれたらうれしい限りです。
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