世界の美しいサステナブル建築から学ぶ環境設計
球温暖化が進む中で、環境への影響を減らすことがますます重要になっています。持続可能な建物はエネルギーと水の消費を最小限に抑え、ヒートアイランドが進む都市の気候変動に対する具体的な対応策の1つです。以下では、巨大な高層ビルから斬新な美術館まで、美しさだけでなく機能面でも優れたユニークな特徴を有するサステナブル建築を紹介します。
サステナブル建築が求められる背景
これまで建築は見た目を重視した美しさが評価されてきました。しかし近年では、建物の評価が見た目のデザインだけでなく、サステナブルな観点で機能や性能も含めて総合的に評価される風潮が広がっています。
上述した背景として、都市の温暖化が挙げられます。国連(UN)の発表によると、2050年には人類の約68%が都市に住むことが予想されます。都市は地球の表面積のわずか3%しか占めていない一方で、エネルギー消費量の78%、温室効果ガス排出量の60%を占めています。このため、都市を構成する建物の持続可能性を高めることが求められています。
以下では、世界のサステナブル建築の紹介を通じて、具体的な取り組み内容を把握し、これからの建物のサステナブル化に向けた知識を深めることを目的とします。
サステナブル建築の事例紹介
台北市立図書館北投分館|台湾・台北市
台湾初のサステナブル図書館は台北の北投公園にあります。2階建ての建物で、建物全体に床まで届く大きな窓が使われており、自然光をふんだんに取り入れることで電気の消費量を削減できるように設計されています。屋根の一部は太陽光発電パネルで覆われており、エネルギーを生成するほか、雨水を集めてトイレ用水として再利用します。
ザ・クリスタル|イギリス・ロンドン
ザ・クリスタルは、BREEAMのOutstanding評価とLEEDのプラチナ評価の両方を獲得しています。建物の周囲には都会的な景観が広がる18,000㎡の敷地を有するイベント会場で展示や会議などのエキシビジョンが行われます。建物はオール電化で稼働しており、暖房は地中熱ヒートポンプで行われます。さらに、太陽光発電によるエネルギー供給で20%以上の自給率を確保しています。建物の独特な向きと角度は、ユニークな景観を作り出すだけでなく、昼光利用を最大化しながら日射取得の影響を最小化し、さらに自然換気の促進を図るなど、重要な役割を果たしています。これらの取り組みによって一般的な建物と比較して、温室効果ガス排出量を71%削減し、エネルギー消費量を42%削減しています。
カリフォルニア科学アカデミー|アメリカ・サンフランシスコ
この研究機関と自然史博物館は、レンゾ・ピアノの設計により 2008 年に全面改築されました。新しい建物は雨水をリサイクルし、太陽光発電パネルを使用し、自然光を最大限に活用し、カリフォルニア原産の何百万本もの植物が植えられた1haの緑の屋根を備えています。
ジ・エッジ|オランダ・アムステルダム
ジ・エッジは、アムステルダムにあり、サステナブルかつスマートなオフィスビルとして世界から大きな注目を集めています。BREEAMでは、それまでの新築オフィス部門で最高となる98.36%というスコアを獲得し、Outstandingの評価を獲得しています。ジ・エッジには、ヨーロッパのオフィスビルでは最大規模のソーラーパネルが設置されており、太陽の動きに基づいた建物の向きで、発電効率を最大化しています。また、蓄熱機能を有する冷暖房システムによって、夏に蓄積した温かい水を冬に、冬に蓄積した冷たい水を夏に利用することで、空調に必要なエネルギー消費量を大幅に削減しています。また、デスクの7割に自然光を取り入れる内部のレイアウトによって昼光利用を最大化しています。そして、天井に取り付けられた無数のセンサーによって、建物の利用状況を把握し、必要でない電気を消したり、清掃が必要なトイレの通知を自動化しています。これらの取り組みよって、ジ・エッジは一般的なビルと比べて電力消費量を70%程度削減し、管理コストも40%程度削減しています。
マルコポーロタワー|ドイツ・ハンブルク
2009年に建設されたマルコポーロタワーは、最優秀住宅プロジェクトに贈られる Mipim賞などを受賞し、集合住宅です。建物の各階は、軸を中心に数度回転しており、各階が上の階に張り出すことで直射日光を遮蔽しています。また、屋根には高効率な熱交換システムを搭載しており、熱を建物内で使用する冷却システムに変換しています。
上海タワー|中国・上海
上海の中心部にある128階建ての上海タワーは、2008年に建設され、当時世界で2番目に高い632mメートルの超高層ビルです。上海タワーでは、雨水を集め、廃水の一部を再利用しています。ファサードのデザインは風荷重を24%軽減し、建設に必要な資材の量を削減しました。さらに、ビル全体に風力タービンが設置されており、毎年約350,000kWhの電力を発電しています。
ワン・セントラル・パーク|オーストラリア・シドニー
ワン・セントラル・パークは、アトリエ・ジャン・ヌーベルとフォスター・アンド・パートナーズによって設計されました。中央の公園には、集水システム、緑の屋根、解体された材料のリサイクル、カーシェアリング、下水採掘など、さまざまな機能が施されています。さらに、建物の内部と外部には、バルコニーを中心に植物や緑が入った鉢が置かれており、高い緑被率を実現しています。
ミュージアム・オブ・トゥモロー|ブラジル・リオデジャネイロ
ミュージアム・オブ・トゥモローは、スペインの建築家サンティアゴ・カラトラバによって設計され、リオデジャネイロに建てられて2015年にオープンした科学博物館です。ミュージアム・オブ・トゥモローには、近くの湾を利用して温度を調節する冷却システムがあります。また、建物の背骨はソーラー パネルでできており、移動したり角度を変えたりしながら、一日の中の太陽の動きに応じて可能な限り多くの太陽光を収集することが捉えることができます。このような取り組みで、年間960万ℓの水と、2,400MWhの電力の節約が推計されています。
グーグル・ベイ・ビュー|アメリカ・カリフォルニア
グーグル・ベイ・ビューは、BIGとヘザウィック・スタジオの2大ビッグネームが手掛けたグーグルの新社屋です。2022年5月の竣工でLEED認証プラチナランクを取得し、オール電化の施設運営に加えて2030年までに24時間365日カーボンフリーエネルギーで稼働するという目標を掲げています。特徴は、ドラゴン・スケール・ソーラー・キャノピーと呼ばれる龍の鱗のようなソーラーパネルで、3棟の建物を合わせると5万枚におよぶプリズムガラス状のパネルが設置されており、合計で7MW近いエネルギーを発電しています。さらに、自然光は多く取り込みつつ、不必要なグレア(まぶしさ)は抑えるよう設計されています。電力だけでなく水利用に関しても、2030年までに消費する水の120%を供給するという目標を掲げています。そのために、冷却水やトイレ用水などの飲料目的以外の水需要を敷地内で生成した再生水によって全て補います。
ブリット・センター|アメリカ・シアトル
ブリット・センターは、米国で最もエネルギー効率の高いビルと言われる商業施設がです。インターナショナル・リビング・フューチャー・インスティチュートが開発し、水、エネルギー、健康と幸福、素材、公平性、美しさの7分野でサステナブルの基準を満たして得られるリビング・ビルディング・チャレンジの認証を取得しています。ビルから突き出た屋根に設置された575枚ものソーラーパネルによって、年間に必要な電力をまかないます。シアトルは曇りの日が多いですが、太陽光の恩恵をもっとも受ける夏の発電を最大化する設計に注力したほか、自然換気や地中熱を利用したヒートポンプや室内光の約82%を昼光利用するパッシブなデザインによって、自給自足を達成しています。そのほか、エントランス付近にガラス張りで景観が優れた階段を設置することで、エレベーターの利用を減らして節電と利用者の健康を促進するなどの工夫が凝らされています。さらに、雨水貯水タンクやバイオトイレなども取り入れています。
ピクセル ビルディング|オーストラリア・メルボルン
ピクセルビルディングは、Studio505 によって設計され、オーストラリア初のカーボンニュートラルなオフィスビルで2010年に竣工してLEED認証のプラチナを獲得しています。ピクセルビルディングには、廃棄物削減システム、集水施設、緑化屋根、再生可能エネルギー設備など、さまざまなサステナブルな機能が搭載されています。珍しい多色のファサードは、日射調整を行いながら、換気と自然光を活用してエネルギー消費を最小限に抑えることができます。また、ソーラーパネルと屋上の風力タービンでエネルギーを発電するほか、ビルの窓際に敷かれた葦のマットで雑排水をろ過すると同時に気化熱で空気を冷却することで空調負荷を大幅に削減します。また、トイレは航空機などで使われる真空式を採用することで、洗浄水を大幅に削減しています。これらの取り組みによって、小規模オフィスながら高い環境性能を実現しています。
コペンヒル|デンマーク・コペンハーゲン
デンマークの首都コペンハーゲンにあるコペンヒルは、ゴミを焼却することで電気と熱を生み出す廃棄エネルギープラントです。コペンヒルでは、1万㎡にも及ぶ屋上を人工スキー場として、都市緑化と市民のレクリエーションを両立しています。もともとデンマークには山がないため、これまでスキーをするには海外へ行く必要がありましたが、この施設の誕生で都心部にいてもスキーを気軽に楽しめるようになったそうです。周辺はハイキングやジョギングコースとしても活用され、広大な芝のスロープの周囲には、北欧の木々や植物が育ち、鳥や虫も生育する場所となっています。植物は四季に順応する種類が植えられているため、特別なメンテナンスも必要ありません。コペンヒルの設計は、数多くの世界で注目される建築を手掛けるビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)です。同グループを率いる建築家ビャルケ・インゲルスはコペンハーゲンの出身で、サステナブルな街づくりは環境への配慮だけでなく、人の楽しさや喜びがあってこそ持続可能だと考えられています。
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