「ワッピンギルド」が心理学的にスゴ過ぎる件について
「ワッピンギルド」というアプリをご存知でしょうか。ギルドというのは中世ヨーロッパにおいて商工業者の間で結成された職業組合のことで、「ワッピンギルド」はこのお仕事体型をモデルに、クリエイター自身が、自分の個性を活かしたプロジェクトや事業をクエストという形で発行し、そのクエストを達成することで報酬や経験値が手に入るという仕組みになっています。
これまでのクラウドソーシング事業は、依頼主(クライアント)がいて、スキルを持っているフリーランスが、クライアントのお仕事をこなしてお金をもらう、というのが主流ですしたが、ワッピンギルドはクリエイター自身がクエストを発行し、クリエイターの個性を最大限に活かした形で、サービスやプロダクトを提供できるのです。
ワッピンギルド誕生の背景
ワッピンギルド誕生までには、代表取締役の小林さんの壮絶な過去がきっかけとなっています。
彼の記事を読んで衝撃を受けました。多くの人にとっては、みんなと同じように学校で生活していくことは、さほど難しくなかったはず。しかし、彼の場合はそうではありませんでした。
私は小学校と中学校を合わせて6校ほど退学および自主退学になってしまい、学校にはもちろん、社会にも、そして家にも居場所はどこにもありませんでした。
個性をつぶされそうになりながらも過去を乗り越え、この世界を「ゲームの考え方」で拡張したい、誰もが幸う21世紀の未来をデザインしたいという想いで、6年間かけて実証実験をしながら、仲間たちとできたプロジェクトを進めてきたそうです。
個性を最大限に活かすことができる社会を目指して
人は新しいものを拒んだり、自分がコントロールできないものを排除しようとする習性があります。安定した生活、安心する環境を崩されるのが怖いからです。だから、いまの日本社会では、
「出る杭は打たれる」
誰かが新しいことを始めようとすると「それはやめた方がいい。余計なことはするな」「みんなと同じようにしなさい」と言われてきた経験がある人も少なくないでしょう。その反面、「みんなより良い成績を取りなさい」と言われたり「よそはよそ、うちはうちのルールがある」などと理不尽なことを言われたりもしたはずです。
Z世代(1996年以降に生まれた世代)はこの価値観とぶつかってきました。
そのため、Z世代(もしかするとミレニアル世代)は
とても努力して周囲の期待に応えつつ、その中で自分の興味のある道を見つけ、成し遂げてきたから、いまの自分があると思えている人
そして
「みんなと同じレールで生きるのはおもしろくない。これからの時代はみんなとは違う生き方をするんだ」ということを肌で感じ取って、自分で切り開いてきた人
に大きく分かれるのではないかと感じています。
それぞれの生き方があり、それぞれの人生の物語があります。どちらが正解でどちらが間違いという時代ではなくなりましたが、それでも
「個性を伸ばして生きていくのは難しい」
「世の中はそんなに甘くない」
「個性なんてもので成功できるのは、ごく限られた、一握りの幸運な人間だけだ」
と、多くの方がそう感じているのではないでしょうか。それでも諦めたくないと、必死に今にしがみついて生きている人もたくさんいると、私は信じています。
小林さんやワッピンギルドに携わっているメンバーの皆さんは、個人が持っている個性が尊重され、その個性を最大限に活かすことができる社会を目指しています。そして6年という長い年月をかけて、ワッピンギルドが誕生しました。
ワッピンギルドを心理学的に分析してみた
そんなワッピンギルドというサービスに感動し、ワッピンギルドがどれだけおもしろいか、ワッピンギルドがどれだけすごいか、心理学の視点から考察してみました。
ゲーミフィケーションの究極形態
ゲーミフィケーションとは、ゲームにおけるユーザー体験(UX)に用いられている技術を他の領域に活用することを指し、プレイヤーの内発的動機を刺激してくれる要素がたくさん詰まっています。
大きく分けると4つの要素があり、
①目的
②クエスト
③経験値/レベル
④報酬
これらが含まれていることで、プレイヤーは内発的にゲームをプレーすることができるのです。
例えば、私も大好きなポケモンにもゲーミフィケーションは用いられています。例えば、プレイヤーは最初にレベル5のポケモン(ゼニガメ・ヒトカゲ・フシギダネ)をもらいポケモン図鑑をコンプリートする旅(①目的)に出ます。草むらに入ると、それよりもレベルの小さな野生のポケモンが出てきたり、トレーナーと戦い、倒していくことでレベルを上げていきます(③経験値/レベル④報酬)。そして旅を進めていくとロケット団に出会ったり、ジム戦や伝説のポケモンと遭遇したり、様々なイベント(②クエスト)を経験し乗り越えていきます。
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ポケモンをやったことがない方のために、『あつまれ どうぶつの森』も例にあげてみましょう。こちらも、とーーーっても上手にゲーミフィケーションを用いています。
主人公が無人島で生活を始めるところからゲームはスタートします。無人島に降り立つと、島のスタッフによるオリエンテーションで、島での生活の説明を受けます。島には案内所があり、そこでは物品の買い取りや販売、DIYで島での生活のための道具を作ることもできます。
でも、無人島に降り立って何をして過ごせばいいの?
そこで、このゲームではたぬきマイレージというものがあり、これがこのゲームにおける②クエストになっています。たぬきち(島のオーナー)から出されるクエストをこなしていくことによって、マイル(④報酬)が溜まっていき、無人島生活での支払いや様々な景品と交換できるというものです。
このようなクエストをこなしていくことによって、できることが増えたり、ポイントをゲットできて欲しい道具と交換できたり、自分なりの楽しみ方(昆虫や魚図鑑をコンプリートする・島を開拓する・鬼滅の刃のキャラクターを作ってみるなど)を見つけていけるようになります。そうして、ゲームをプレーする自分なりの①目的が見つけられると、内発的動機が刺激され、ゲームを楽しく続けられるのです。
この自分で目的を見つけるということがとても重要となっています。自分で決めた感覚、自分でやりがいや目的を見つけたという感覚こそ、内発的動機を高める重要な要素なのです。
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ではこれをワッピンギルドに当てはめて見てみましょう。
ワッピンギルドの場合はクエストを発行(②クエストへの挑戦)、それを達成することで③経験値/④報酬が得られます。また、自分でクエストを発行するため、そこに①目的があると、より強い動機付けが形成されるでしょう。
例えば、あなたがWebデザインのスキルを持っていて、ホームページ制作や企業のロゴデザインをできるとしましょう。
そこでまずクエストを発行します。例えば、
「あなた専用のかっこよくて、かわいいホームページを作ります!」
などです。すると、そのクエストをTwitterやnoteで見つけた他の誰かが、「ぜひ作ってほしい!」と依頼をすると、あなたのクエストが始まり、クエスト達成することで、経験値(信用スコア)や報酬を受け取ることができます。
今までのクラウドソーシング事業では、記事を書ける人なら誰でもいいから、スキルを持っている人にお願いしたい、という形式でしたが、ワッピンギルドはクエストを発行する人(勇者)が、Love&Wow(愛と感動)を届けることができるようになっています。
つまりこれは、ワッピンギルドのシステム構成そのものにゲーミフィケーションが組み込まれており、内発的動機が刺激される仕組みになっているのです。
世の中のほとんどのお仕事は、この仕組みになっていません。自分が入りたいと思った企業に入社したは良いものの、自分で仕事を見つけるというより、与えられた仕事をこなすことが多かったり、その仕事にやりがいや、目的・意義を見つけられないことが多くあります。
これは仕事が楽しくないのではなく、根本的には仕事を楽しめる仕組みになっていない、ということが課題なのですが、そこにメスを入れることは難しいと判断され、これまでは諦められていました。しかしワッピンギルドでは、その根本的な概念を覆す仕組みになっているのです。
自己決定理論
自己決定理論とはDeciとRyanによって理論化された、内発的動機(お金や報酬のためでなく、本質的にその活動をしたいからするといった動機)を向上させるためのモデル(1)です。内発的動機づけが高い状態は、自分のモチベーションやパフォーマンス、行動力を高めてくれることがわかっています。
ゲーミフィケーションがゲームを楽しく続けてもらう仕組みであるのに対し、自己決定理論は、内発的に(自分から進んで)やりたい/関わりたい、という感情を引き起こすにはどうすればよいか、ということをまとめた理論体系で、内発的動機を高める3つの要素がまとめられています。
①自己決定感/自律性(Autonomy)
②関係性/関連性(Relevant)
③能力(Competence)
①自己決定感/自律性(Autonomy)
自己決定理論の中でも大きな割合を占めているのが自己決定感/自律性です。ゲーミフィケーションの説明の際にも含みましたが、自分で決めているという感覚、自分で目的を見つけるということは、私たちの内発的動機に強く影響します。
そのため、与えられる仕事が楽しくない、やる気がでないと感じるのは当然のことですが、社会人として働くならば、それは当然のこととして受け入れるしかありませんでした。しかし、それでは自己決定感は高まらないため、高いモチベーションを持って活動をすることは難しいのですね。
「やらなければならないからやる。お金を稼がないと生きていけないから」
これをRegulated motivation(義務感による動機づけ)といい、これは外発的動機づけの1つです。ワッピンギルドの場合は、自分自身でクエストを立てることができるため、自分から進んで、自分の意志で活動しているという感覚を持ちながらクエストに挑戦することができます。
②関係性/関連性(Relevant)
関係性/関連性は、ある活動を通して他者と出会い、それによって内発的な動機が高まることを指します。
例えば、私は「朝渋」というコミュニティに所属していたことがあるのですが、そのコミュニティでは、朝7:30から渋谷のブックカフェでイベントが開かれていました。朝起きるのが苦手な私にとって、7:30に渋谷に到着するためには6:30に家を出る必要があり、6:00には起床しなければなりませんでした。
それでも、朝渋のコミュニティには素敵な人たちが集まっていて、みんながいるから自分も行こう、みんな頑張ってるから自分も頑張って起きようという気持ちになり、参加していました。
これが関係性による動機付けです。ワッピンギルドでは今後実装予定のようですが、他者と一緒にクエストに取り組んでいくこともあるそうです。そうしたクエストで出会った人と友達になったり、一緒にひとつのプロダクトを生み出した、という達成感は強い動機付けになっていきます。
③能力/有能感(Competence)
内発的な動機は、罰を避けることや、お金をもらうために行う活動では得られません(これは外発的動機づけといいます)。
あくまでも、その活動を通して得られるものが重要であり、楽しみやワクワク感も内発的動機を高めますが、能力/有能感もその1つです。
ある活動を通して自分の能力(スキル/知識/運動による筋力UPなど)が高まったと感じられると、もっとやりたい、楽しい!という内発的な感情が生まれます。
ジムに通っている人だったら、3カ月前と現在の自分の姿を比較したときに、少しでも変化があったり、周りの友達から「最近痩せた?スタイル良くなった?」と言われたら、「やってよかった!そう言ってもらえて嬉しい!」という気持ちになるでしょう。これが能力/有能感による動機付けです。
ワッピンギルドではその人の個性を最大限に活かすことができるように設計されています。なので、自分の得意なことを活かして他者に貢献できたり、褒められたりすることは強い内発的動機付けになります。自分の個性を活かしてクエストに挑戦してみたい、勇者としてワッピンギルドに参加してみたいというクリエイターにはぴったりのサービスなのではないでしょうか。
教育や働くことの価値観を変えるサービス
ワッピンギルドはお仕事・働き方に関する価値観を大きく変える可能性を持っていると感じています。おそらくは教育といった領域までも変えるかもしれません。
もちろん、すべての業界、すべての職種に内発的動機やゲーミフィケーションを取り入れることは難しいでしょうし、「仕事は仕事、趣味は趣味。内発的動機がなくてもいい」と、お仕事に関しては外発的動機で働いて、お金が稼げれば十分、という人もいると思います。
それもまた個性です。ワッピンギルドはサービスを通じて、その個性を尊重し、誰もが自分らしく、自分になっていくことを受け入れられるような社会を目指している。私はそのように感じました。
この記事を書くにあたり、インタビューにご協力いただいた代表取締役、小林さん、COOのあずみさん、本当にありがとうございました!
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