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秋風の下の小さな表現者たち―アートプレイパークの思い出―

バケツを持って、壁一面に筆を思うままに走らせ、絵の具でいっぱいにする。
幼い頃、とある室内プレイパークで経験したアートの思い出は今も私の中に息づいているけれど、日々の中でなかなかそんなふうにめいっぱい表現できる場所はない。
けれど、絵の具と表現と、そしてその表現をあたたかく受けとめる心が満ちた場所に大人になった私は出会った。

「アートプレイパーク」の朝は早い。
小さな子どもたちが自由に絵の具をたくさん使えるように、施設の壁や床をシートで覆う必要があるのだ。
初めてスタッフとして加わった私も、養生テープやマスキングテープと格闘しながら保護をする。
スタッフみんなで手分けして保護しおわった部屋たちは、「さあ、いつでもおいで!」と子どもたちを歓迎する頼もしさがある。
この丁寧な準備が、おおらかに表現を受け止める場をつくっている。

準備万端、開場したアートプレイパークには、たくさんのあらゆる年齢の小さなひとたちが集まる。
まず最初の「表現」は、「選ぶ」こと。
好きな色の画用紙を選んで、好きな色の絵の具を選んで、道具を選ぶ。
絵の具はどんな量をパレットのどの位置に出してもらうかも選べる。
道具は、絵筆やハケ、スポンジにパフ、スタンプスポンジにフォークに歯ブラシにローラーにステンレスたわし(通称キラキラ)。
中には道具を使わずに、手で絵の具を塗るひともいる。
小さなひとたちは、頷いたり、首を振ったり、力強く指さしたりしながら、自分なりに「選ぶ」をやっていく。
もう「表現」ははじまっている。

「選ぶ」をしたあとは、中庭で画用紙の上に思い思いに絵の具を広げていく。
深めのスプーンでたっぷりの絵の具をすくって、こんもりと画用紙にのせるひと。
自分の指ごとに丁寧に別の色の絵の具を塗り分けて、カラフルな手型を描くひと。
ローラーをちょっとずつ転がしたり、スタンプスポンジをポンポンと押すひと。
「表現」は、画用紙に描くだけには留まらない。
綺麗な紫色を作りだして、塗ったり、しぶきを飛ばしたり、紫色になったバケツでパーカッションセッションが始まったり。
グレーの世界を作りだして、足でグレーの世界をどんどん広げたり。
道具をたくさん並べてみたり。
思うままに色が溢れていく、自由な場所。
私の中の幼かった思い出がウズウズと場を楽しんでいた。

小さいひとが思い思いに表現する隣で、大きいひとであるスタッフは、表現を楽しんでいる。
「それ可愛いね~!」
「ここはこんなふうに見えるよ!」
「面白いね~」
温かい受けとめあいが、表現を穏やかに見守っている。

描かれた「表現」たちは、洗濯紐のように張られたロープにつるされて、気持ちのいい秋風によって乾かされる。
表現のガーランドの奥には芝生と青空が広がって、眺めていると幸せな気持ちで胸が満たされる。

絵の具まみれになった小さなひとも、それを見守る大きなひとも、きっと最後の方にはよい充実感と疲れが身体に訪れている。
それは、頭だけではなくて、身体に表現の思い出が刻まれているということなのかもしれない。
そうして、私が幼い頃の思い出を懐かしむように、いつか身体が表現の思い出を思い出すかもしれない。
身体に根づいた小さな表現のかけらは、私たちが大きくなるのをちょっぴり支えてくれる。

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