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消えゆく記憶と共に〜双極症の私と認知症の母の日記〜

私は双極性障害を抱え、母は認知症を患っている。病が進むにつれ、私たちは現実を見失い、自分が誰であるかもわからなくなる。そんな私たちは、まるで鏡に映る存在だ。全体と部分は見方の違い…
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#自己反省

【第16日】同じ朝、異なる喜び

母との朝食と思い出のカフェ 子供の頃、私は母にひどい言葉を投げかけた記憶がある。「毎朝同じごはんで飽きちゃうよ」と不満をぶつけたのだ。母は悲しそうな表情を浮かべたが、何も言わずに次の日も同じ朝食を用意してくれた。その頃の私は、自分の未熟さを母に押し付けていたのだと、今になって気づく。 大人になった今、私は近所のチェーン店のカフェで朝食をとることが多い。そこには三種類のモーニングセットがあり、すでにすべてを試した。やがて、同じメニューに飽きてしまい、そのカフェから足が遠のく

【第15日】言葉のバランスを求めて

今も昔も、母は話すことが大好きだ。私が子供の頃、家族の食卓では、ほとんど母が話していたと言っても過言ではない。父と弟と私が口を挟めるのは、わずかな時間だけだった。母の生き生きとした表情を眺めながら、私は静かに食事をしていた。 幼い私は、人前で話すのが苦手で、先生から発言を求められると頬が真っ赤になり、「りんご病」とあだ名された。何か素敵なことを言わなければと焦るあまり、言葉が出てこなかったのだ。母が楽しそうに話す姿を見て、自分もあのように話せたらと憧れていた。 しかし、一

【第14日】母に映る私、私に映る母

母と私の鏡 夕暮れの柔らかな光がリビングを包み、母はお気に入りの椅子に腰掛けていた。私はキッチンからお茶を淹れて、彼女の隣に座った。 「お母さん、最近どう?」と尋ねると、母は自信満々に微笑んだ。 「とても元気よ。私が認知症になるなんて、ありえないわ」と彼女は言う。その言葉に、胸の奥がざわついた。医師から中度の認知症と診断されているのに、母は頑なにそれを否定する。その確信はどこから来るのだろう。 数日後、母は「歯医者には絶対に行かない」と言い張った。理由を尋ねても、「必