ChatGPT:どうやって「書く」か(考察)②「1.何を書くのか」_2306
以下の投稿では、過去のChatGPTによる論述作成の実験と検証を踏まえ、ChatGPTを使って、どうやって「書く」ことを、効率化していくかを、考察している。本投稿は、その続きとなります。
overview
「#AIの活かし方」というお題に合わせて、投稿が間に合うように、書き始めたが、時間切れになってしまった。
本投稿は、「1.何を書くのか: What to write」の内容となります。他の内容は、今後、順次投稿します。
STEM:論述のシナリオ構成(1. 何をかくのか)
前回の投稿で、XMind(マインドマップツール)で作成したROOT(論述の構造)をもとに、Workflowy(アウトライン・エディタ)で、STEM(論述のシナリオ構成)を以下、作成した。
ChatGPTによる校正
以下、ChatGPTにて、文章を校正させた。
考察1:何を書くのか
◆ 理系職は、何を書くのか?
理系の技術職が記述する文章は、あくまで「事実」をベースにした論述で展開します。
ChatGPTの機能では、さまざまな文章の生成が可能です。実際に、note.comの投稿でも、エンターテイメント的な使い方として、ChatGPTに事実と異なる文章を生成させ、それを楽しむという投稿が多くあります。
しかし、理系の立場としては、そのような誤った「事実」を書くことはできません。また、誤って書いてしまった場合には問題が生じます。エンターテイメントとして、ChatGPTが生成する文章を楽しむという使い方は想定されません。
ChatGPTを利用して、文章を生成した場合は、その内容を検証することが前提になります。ChatGPTを使って文章を書いたら、その文章が事実であることを検証することが、セットになります。つまり、検証可能であることが、重要です。
◆ 理系職の書く文章のタイプ
理系職としては、以下の2つのタイプの文章を書くことが多いです。
① 科学的な文章を書く
② 工学や技術に関する文章を書く
「① 科学的な文章を書く」とは、研究職が行う文章作成と言えます。得た事実に基づき、研究対象分野で新たなルール(法則など)を実験し検証した結果を報告する文章です。
このタイプの文章では、元々の事実(Fact)と一般的に正しいとされるルール(Rule)が存在し、その一般論に対する矛盾点を解決したり、解釈を拡大したりするための実験を計画し、その結果を検証し、伝えることが目的となります。以下の要素が論述の中で重視されます。
根拠:Evidence
論拠:Rule
仮説:Hypothesis
命題:Proposition
「② 工学や技術に関する文章を書く」とは、技術職が行う文章作成と言えます。技術職は、既に解き明かされた学術的な理論やルールを、実際のビジネス課題の解決に適用し、効果的な仕組みを構築し、理論を応用することがビジネスの目的です。技術職が作成する文章は、課題とその問題解決が主眼となります。
対象の事象に対して、以下の要素が論述の中で重視されます。
課題:Issue
問題解決:Problem-Solving
適用手順:Process
望まれる結果:Desired Outcome
実験と結果:Experiment and Result
検証:Validation
洞察:Insight
◆ 理系職が記述するべき対象の「知識」
理系の技術職として、書く文章は、実験、検証、理論適用、理論応用の中で得た「知識」を記述することになります。その記述する「知識」を、知識・情報の分類という視点から以下のように整理します。
分類1:形式知(explicit knowledge)と暗黙知(tacit knowledge)
野中郁次郎教授が提唱したモデルに基づき、知識を形式知と暗黙知に分類します。
形式知と暗黙知について詳細な説明は参照サイトをご覧ください。
理系の技術職がここで記述する内容は、組織やプロジェクトで暗黙知となっている知識・情報を形式知として「表出化」させることです。
分類2:一般知 Common sense と専門知 Domain Knowledge
知識は一般知(集合知)と専門知に分けることができます。
一部の一般知(集合知)は「常識」として表現されます。
ただし、この常識は文章中でしばしば無視されることがあります。
例えば、「土足で入る」という言葉です。
日本では住居の中を「土足で入らない」のが一般的な知識ですが、西欧では住居の中を「土足で入る」のが一般的です。
日本語の文章では、「玄関で靴を脱いで家に入った」と書かなくても、当然のように家の中では靴を履かないことが前提となります。そのため、家の中でガラスを踏んで怪我をしたり、家具の角で小指をぶつけたりしても違和感はありませんが、外国ではそうはいきません。
このように、ある集団で当たり前とされていることは文章として書かれないことが多く、それは、学問の分野でも同様です。
投稿者は、ChatGPTにケインズ理論を生成させました。ケインズ理論では、まず「金融政策」を無視して、有効需要の創出が語られます。それは、この部分の論述では、常識的な説明です。
ChatGPTにケインズ理論の延長として金融政策について語らせようとしましたが、うまくいきませんでした(私の知識不足もあります)。
おそらくニューケインジアン的な論理展開を指示しないと、ChatGPTに、論じさせるのは難しいと判断しています。
なお、専門知(Domain Knowledge)は拡張し続けます。
ケインズ派は、現在ではニューケインジアンやポストケインジアンなどに分かれています。これらの系統の学問分野を理解せずに、ケインズ経済学で一括りにして語らせようとしても、うまくいかないことが、実証によりわかりました。
知識は拡張されるため、過去に正しいとされたことが、後世で否定されることもあります。ChatGPTが使用する大規模言語モデルの学習データが、どのような知識分野を網羅しているかは想定しづらいです。が、ChatGPTが、過去の知識を学習しており、ChatGPTに立ち位置を提示しないと、うまく行かないです。
ケインズ経済学であれば、ニューケイジアンか、ポストケイジアンかで、発言は異なります。
次の章では、考察しますが、「百科事典的知識」がある程度のDomain知となっていると想定されます。つまり、「百科事典的知識」を意識してChatGPTを活用することになります。
また、専門知(Domain Knowledge)は他のDomain Knowledgeと統合されていくものです。学問の枠を超え、ビジネス(事業)の枠も超えて知識は融合していきます。業際知や学際知と呼ばれるものです。
企業のビジネスは専門知が形成するDomain Knowledgeを複数組み合わせることで、独自の知識を生み出し競争力を高めています。この投稿の考察も、「ChatGPTというDomain」と「Scientific writingというDomain」と「知識経営というDomain」を組み合わせ、論述を展開しています。
このように、業際や学際で知識を組み合わせると、新たな知識の組み合わせとなり、記述する「価値」がある文章となるとも言えます。
分類3:既知情報と新情報
科学や工学の文章は、過去の事実や理論に対して「新しい発見」を追加する役割を持ちます。つまり、先人の知識の基礎の上に、新たな発見が成されたことを報告するものです。
このような場合、「既知情報」がここまで分かっており、この文章では「新情報」として「新しい発見」を報告します、という展開となります。
◆ 理系職の記述する文章パターン
理系の技術職は、事実 Fact とルール Rule と仮説 Hypothesis を、最適に組み合わせて、命題 Proposition を提示し、その検証をする文章を作成します。
その文章形式は、論理構造が、明示的にわかる形式 pattern であるべきです。以下のパターンが推奨されます。
理系の文章形式
アブストラクト abstract
序論 overview
導入 introduction
方針 orientation
結果 results
考察 discussion
結論 conclusion
理系の文章は、他人がその文章を読んで、論理的に再現性があることが需要になります。なので、その内容には、読んだ他の方が、同じような実験(Action)をして、それを検証(Assessment)できるように、記述する必要があります。
文章を論述する際に、科学哲学者のトゥールミンが提案したロジック展開を参考にすると、論旨に説得力が増します
この論述形式、ロジック展開で、ChatGPTをどう使うかについては、あとの章で、考察します。
が、以下の「知識」を説明するのに活用可能と考えます。
Backing: 既知となっている法則、ルール
Evidence:既知となっているFact
ただ、命題 proposition の根幹となる部分で、書き手の意図する「結論」と対比されるべきRule、Evidenceは、書き手の提示する命題と、対比・関連して、記述することになると考えます。なので、そのような根幹となるSTEM(論述のシナリオ構成)は、ChatGPTでは記述できないと考えます。
■ 考察1:まとめ
本投稿では、ChatGPTで「何を書くのか」について、考えました。
理系の場合、事実をベースに論旨を展開します。この際、ChatGPTが、事実でないことを作成した場合、それを検証できることが必要です。別途、考察しますが、ChatGPTの書いた文章の検証には、少なくても、対象Domainの80%程度の知識を把握することが必要と判断します。
理系の書く文章を構成する要素は、決まっており、それを明確に記述することになります。
この要素は、以下であり、ChatGPTには記述できない要素が多いと言えます。
科学的文章:
根拠 Evidence, 論拠 Rule, 仮説 hypothesis, 命題 proposition
工学、技術的文章:
課題 Issue, 問題解決:Problem-Solving, 適用手順:process, 望まれる結果:Desired Outcome, 実験と結果:Experiment and Result, 検証:validation, 洞察:insight
とはいえ、記述する内容は、先人の研究や先人の技術などをベースに、その既知情報に対して、新情報を提示することを、目的とした文章になります。より、既知情報を、主張にあわせて、論旨が通るように、記述する必要があります。
これは、組織や研究分野において、暗黙知を明示的に、形式知として「表出化」させることです。これは、ChatGPTが、大規模言語モデルを構築する際に、学習対象とした知識、つまりは「形式知」として、インターネット上に表現されている知とは、異なった「新たな知識」を提示するということです。
このような「新たな知識」は、まだ、一般的に「形式知」として、表出化されていないわけで、ChatGPTでは、文章として生成はできないと、想定されます。
ChatGPT4では、推論による知識の獲得ができたとの記述が、ニュース(新情報)として、ありますが、スーツケースとお土産の大きさの比較レベルの問題であり、科学・技術の場で論じられる推論が可能とは、思われません。
次回の投稿では、ChatGPTで「考察2:何が書けるのか」について、考えたいと思います。
以上
Appendix
以下、論述における形式知のレベルを図にしたものです。
形式知として、表出化されているのは、Axiom, Principle, Law, Ruleと考えます。Customは、一部、表出化されています。
集団知 Pattern、個人の経験・認知 Intent を如何に、一般化し、形式知として、表出化するかが、理系の書く文章のポイントと考えます。
以下、参考書籍。波頭亮氏の「論理的思考のコアスキル」は、良い本ですよ。
System Development業界、Software Engineering、Scriptingについて、発信してます。サポートありがとうございます。