私が言語聴覚士を目指し、そして辞めた今。(10)
「チーフ、、、お母さんをこっちに連れて来て後悔していたり、もっとやってあげたかったこととか、今ありますか?」
と私は聞いた。すると、上司は笑顔で
「ないよ。全部やってもらった。少しだったけど、あなたに食べさせてもらって、看取りケアに切り替えてからは美空ひばりの曲なんか流してもらって、アロマを焚いてもらったり、いろんな人に声をかけてもらって。私も一緒にいる時間が増えたし、最期も見送れたしね。こっちに連れて来てよかったし、感謝の気持ちしかないです。やるだけのことは、全てやってあげることができて私は何一つ後悔はないです。」
そう答えてくれた。
私は物凄く嬉しかった。そして、この時、私が言語聴覚士になって試行錯誤して来たこと、自問自答して来たこと、葛藤して来たこと、挫折した時のことすべてすべてが昇華された。
「ああ、私がやって来たことは間違いではなかったんだ。」
何が正しくて正しくないのか、何が良くて悪いのか、よく分からない世界だけれど、私がやって来たことで患者さんやご家族が笑顔になれたんだったら、それで良かったんだ。それが、私が1番やりたかったことだから…。
この日を境に、私の中で魂が落ち着きなく「動き出したい」と声を上げているようだった。そう、「私がやりたいこと、魂を震わせて生きるために、私がやりたいことって何だろう」とその答えを探し始めた。日常生活では、小さい子供を育てながら人間関係もスムーズになり、職場での信頼も得て発言力も持て仕事はかなりやりやすく、「ようやっと、ここまで来た。」と充実感を感じていた。
けれど、、、「何だろう、この感じ。私、ほかにやりたい事があるんだろうか。私が本当にやりたい事って一体なんなんだろう。魂が震えることって何なんだろう」と自問自答が繰り返された。そして、私は滝に打たれたようにある事に心を奪われるのだった。
(11)へと続く…