ショートショート 「To Doリスト」
「To Doリスト」
----------------------------------------------
「ユースケ、おはよう。今日はなにする?」
相棒が僕に問いかける。
「おはよう。なにするかだって?それを決めるのが君の役目だろう?」
僕は顔を洗われながら答えた。
「ハハ、そうだよね。今日のTo Doリストを今表示するよ。」
「ありがとう。随分と今日は余裕があるな。」
「君、最近疲れ気味だからな。夜にはサウナも入れておいた。」
「助かるよ。お、今日の朝食はお米か!嬉しいな!」
相棒が用意してくれた朝食を食べ始め、僕の一日が始まった。
<To Doリスト>
□朝食(ご飯セットB)
↓
■朝食(ご飯セットB)
僕ら人間が、各々のコンピューターと生活しはじめて随分と経った。
今じゃこのコンピューターなしの生活なんて想像することもできない。
こうしてやることなすことコンピューターなしで、To Doリストなしでどうやって決めていたのか?
そもそも記憶を自分の頭だけで管理するなんて非効率なことは、今や誰もしない。
昔は「家事」といって、
僕ら人間が食事の準備や掃除、洗濯までやっていたらしい。
To Doリストは手で書いていたのだろうか?
僕も昔、その様子を映像で見たことがあるけれど、すごく大変そうだった。
火や刀を扱う調理なんて怖くてできやしない。
<To Doリスト>
□家族で映画鑑賞
↓
■家族で映画鑑賞
「今日は随分古い映画だったね。じいちゃんのチョイスかな?」
「あぁ。昔の映画も悪くないだろう?もう人生長くないからな。」
「そっか。確かに面白かったよ。じいちゃん、あとどれくらいなの?」
「あと半年と表示されてる。今じゃこうして残りの時間がわかるから思い残すこともないわ。」
「あと半年か。なるべく僕のTo Doリストにじいちゃんの時間増やせるようにしてみるよ。」
「To Doリストに入っていれば安心だ。よろしく頼むよ。」
<To Doリスト>
□じいちゃんと話す
↓
■じいちゃんと話す
「ユースケ、おつかれさま。そろそろ寝る時間だ。」
「あぁ、今日も疲れたな。そうだ、あと半年、じいちゃんとの時間をなるべく増やしてくれ。」
「わかった。今日の記憶のダイジェストは残しておくか?」
「今日のはいいや。今月の容量、上限まで近いもんな。」
「そうだな、今月はあまり余裕がない。では、電気を消す。おやすみ。」
「おやすみ。」
<To Doリスト>
□今日の振り返り、記憶の整理
↓
■今日の振り返り、記憶の整理
今日も完璧にTo Doリストを終えた。
じいちゃんとのデータが残せないのは仕方ない。来月しっかり残せるようにしよう。
こうして僕らは自分でやること、なすことを考えなくて済んでいる。
本当にありがたいことだ。
記憶も自分で管理できるし、大切なものを忘れる心配もない。
To Doリストは絶対だし、これには逆らうことはできない。
まぁ、逆らう気もないけどね。
<To Doリスト>
□人生の振り返り、最期の薬を飲む
↓
■人生の振り返り、最期の薬を飲む
これが最期のタスク。
このタスクを終えれば、人生無事終了ってわけ。
下手に長生きしたり、変に病気で苦しむこともない。
少子高齢化と効率化が進んで、よく国もこんな名案考えてくれたもんだ。