『ドン・ジュアン』のドン・カルロについて
(ネタバレあり)
こんにちは、メメリットです。
先日、御園座で花組さん『ドン・ジュアン』を拝見しました。公演はすばらしかったし、大変楽しい時間を過ごしました。
一度全体的な公演感想書きたいんが、なんとなくマリアさんの「思いのままに、感じるままに」を思い出しました。それじゃやはり一番感じたことを書いた方が一番良いでしょう。希波らいとさまのドン・カルロについて話しましょう。
「世の中で一番の不幸は、自分の理解できない人への片思いだ。が、これよりの不幸は、あの人がもう死んだことだ。」
これからは、そう思っていた私が、幕開くから十分にも経たずにドン・カルロに涙もろくなった話しです。
(ネタバレあり)
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証人でありナレーターであり傍観者であり、ドン・カルロ
セルビアの貴族・ドン・カルロ。主人公ドン・ジュアンの友人と自称しているが、それが相手に認めることは、一度もありません。
彼はこの物語を語り始めました。ドン・ジュアンの数少ない「友人」として、切なさを言わんばかりの顔をして姿を表しました。舞台の一番高いどころで、見下ろして歌い続けました。セルビアの土地で平民や兵士やアンダルシアの人が歌っていて、踊っていました。その中ドン・ジュアンがいました。
短いイントロのあとでドン・カルロもセルビアの土地を踏まえました。しかし、あの酒場には、彼の居場所がありません。ドン・ジュアンの世界にも。きれいな服を着て、女や酒やタバコを一切触ることなく、そして信仰心の深い貴族の男でした。酒場の大騒ぎの中で彼はひとりで座って、ドン・ジュアンと自分が連れてきたエルヴィラ、そしてイザベル以外一切関連しません。
彼は物語を語り、そして物語の中にいたが、なんとなく私は彼が局外者の気がしました。
必死にドン・ジュアンを正しい道に連れ帰りたかった彼は、結局、ドン・ジュアンの愛や死のどちらにも影響を与えませんでした。
彼は、何もかも目の当たりにした証人であり、何もかも語ったナレーターであり、そして、悲しいことに、何もできなかった傍観者でありましょう。
ドン・カルロの愛
ドン・カルロはイザベルと愛についてのやりとりが2つの場面にあります。
一つがエルヴィラが酒場で踊って大騒ぎになったあと、そしてもう一つが決闘の前です。
女をたぶらかしているドン・ジュアンが、愛がわかっていないが、いつも清々しくて凛々しく生きているドン・カルロも、愛の意味がわかりませんでしょう。
天主教に信仰心の深い彼にとって、たぶん愛って言うものは神様からの愛と同然でありましょう。正しい道を辿れば、人は必ず神様からの愛をもらえると信じていましょう。そして、人々からの愛も。
そういえば、ずっとドン・ジュアンのそばにいるドン・カルロからみると、女たちの愛はどういうものでしょうか?
おそらくあれが本物の愛じゃないと考えていましょう。
エルヴィラの踊りを見ると、ドン・カルロははじめて正しくてもない、狂い愛を感じました。彼は、かつて認めなかった・もしくは気づかなった女たちの愛を認め、そして、自分も愛を選びたいと述べました。
愛というものは、美しい何でしょう。
美しいならば、どうして「祝福してくれない」でしょうか?ドン・ジュアンとマリアのまことの愛に。
なぜ、いつも苦しんでいる切ない顔をしていますか。
ってここでちょっと雪組さんの話をしましょう。
彩風さんのドン・カルロもドン・ジュアンを大切な親友として扱っていたが、ドン・ジュアンが死ぬ前に、こんな切ない表情をすることがあまりありません。苦しみより心配でした。
だって、人がまた生きているうちに、苦しむわけがないでしょう。
苦しみの原因はマリアを心配しているのですか?「彼女の人生を巻き込む」などとも言いました。
しかし第2幕を見るとたぶんドン・カルロはマリアに気配りもあまりしなかったっていう気がします。
じゃ、それはエルヴィラのせいですか?がと言って、決闘するときエルヴィラもいるが、ドン・カルロは彼女の存在さえ気づきませんらしい。
ドン・カルロが苦しめば苦しむほど、観客としての私が迷いました。
なぜそんなに切ない眼差しをしていますか。ドン・カルロが悩んでいることはなんですか。
答えはただ一つでしょう。ドン・ジュアンのためにこんな痛く切なく苦しくなったでしょう。
その苦しみは、友人が正しく道に連れ戻すことができないためですか?じゃなぜマリアと一緒になって、女遊びをしなくなるのドン・ジュアンに対して、ドン・カルロはより一層苦しくなりましたか?
友人の愛といえば、こんな苦しんでるものですか。
ドン・カルロ自分自身より、イザベルのほうがこの愛の正体もっとわかっているでしょう。
「私達が同じだ」って。
同じ、ドン・ジュアンを愛して、そして残され人でしょう。
友人っていう言い訳が唐揚げの衣というもの
見返すを求めないならどんな愛でも苦しみになるわけがありません。相手の見返すを求めているときだけ、愛は地獄になります。
って、ここはドン・カルロが意図的に「友人」の立場にいるという説をたてるつもりでもないんです。
ドン・カルロが、心優しく、謹んで正しい道を歩む人と、私もそう感じました。
しかし、心優しく正直な人といっても、下心がないとは限らないところか、当人にも気づかず下心なら、あってもあり得るではないでしょうか。
ドン・カルロが信仰心の深い中世ユーロッパの貴族であり、そのため彼はこの気持ちを友情として扱うしかあり得ません。
友情の名を乗るこの愛は、ドン・カルロがその正体がわかる日が来ないかもしれません。
ところで、面白いことに、イザベルならまだしも、ドン・ジュアンさえ、彼の気持ちを知っています。そうではなければドン・ジュアンの悪夢でドン・カルロはああいう姿で現すことがありません。女たちともに、ドン・カルロは、観客も、そしてドン・ジュアンも多分見たことない魅惑な姿を現して、さらにドン・ジュアンを求めました。そこで、ドン・ジュアンははっきりわかっています:あらゆる愛が必ず憎しみになる。ただ一つの例外は、マリアだ。
自分が「友人」としてドン・ジュアンのそばにいるかぎり、月並みの女たちとは違っていると、ドン・カルロはそう信じていましょう。好んでいて、心配していて、ずっとドン・ジュアンと構っていて、友人だから当たり前でしょう。
だがらイザベルが「同じだ」と言った際にそんなに大袈裟に反応しました。
友人だから特別な存在であり、しかし、「ドン・ジュアンは友人がいない」。
あれもこれも言い訳でした。ドン・カルロが真心に信じている、言い訳でした。
これこそ醍醐味でありましょう。唐揚げのように、衣があるこそうまくなるでしょう。
死んだ人に正解がない
最初のところで、私は「自分の理解できない人への片思いが世の中で一番不幸なことだ」と述べました。「片思い」についてもう説明しましたから、ここで「理解できない」についてちょっと話しましょう。
ドン・カルロが舞台に出ると、私はついそう思ってしまいました:この人が今までドン・ジュアンを理解できない。いくら愛していても、彼はわからない。
でも終幕はもう決まりました。ドン・ジュアンは死にます。そして、ドン・カルロはドン・ジュアンという謎を抱いて生きてゆけばなりません。
振り返り見れば、はじめてからドン・カルロはドン・ジュアンを理解できませんでした。こんな女遊びも、妻を置いて去るのも、神様の定める正しい道から離れたのも、彼はわかりません。
ドン・ジュアンとマリアの間にある愛というものも、彼はわかりません。
そして、ドン・ジュアンがなぜ死ぬのかも。
終幕で、マリアとドン・カルロがひとりずつ剣を拾って、舞台から降りました。拾ったから降りた間に、ドン・カルロは、ずっと剣を睨めっこしていました。その際には、一体何を考えているでしょうか。
この舞台では出ていないから、この正反対でも言える二人が一体どういう状況でこんな「友人」になるのかわかりません。二人の過去をあまりわからないうちに、私も、ドン・カルロの愛のわけ、そして彼の求めることを知ることができませんでしょう。
わかっているのはただその愛と苦しみだけです。
生きているときにわからない人が、死んだあとわかってゆくことが中々できませんでしょう。
死んだ人が話せません。死んだ人に答えを求めることができません。この永遠の問に正解がありません。
悲しいことに、人は生きてゆきます。
おわりに
なぜ、ドン・カルロの視点ばかりこの物語見ているのと友人に質問されました。
ドン・カルロ(もちろん希波さんも)大好きですから。
「いつもこんな勝手に不幸になる男が大好きだからね。」
って。友人は爆笑しました。
しかし、感想を書き始めると、それは勝手にとも言えないと気が付きました。愛っていうものがやはり自分で決められないことかなと気がします。愛のために誰もかも勝手に行動して、そして勝手に死にます。でもそれは勝手なのか、それとも愛に迫られるのかと、両方とも原因の一部でありましょう。
勝手かどうかにも関わらず、ドン・カルロの悲劇は、私からみると主人公にも負けない見事な悲劇でありましょう。このキャラクターの悲劇をこの風に観客である私に伝えた希波さん、うまいお芝居いただき誠にありがとうございます。ご馳走さまでした。🙏🙏
役作りとあまり関係ないだろうが、第2幕お互いの真心を語り合うドン・ジュアンとマリアの歌の最後、縞のとなりでコーラスを歌っていたドン・カルロ、爽やかな笑顔をしていますね…
ただ一つの晴れやかな笑顔ですね…
いつも笑ってくれませんかなドン・カルロさま…(希波さんがけっこう笑ってくれますけど)
待っていればえるものではないから、公演の思い出の一つにしましょう。
今回はここまでですから、けっこう長い感想になったが、読んでくれた皆様、ありがとうございます!
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