20世紀の文化
⑴哲学・社会科学
【20世紀の文化 ⑴哲学・社会科学】
①精神分析学
フロイト(オーストリア) 『夢判断』・精神分析学を確立
②社会科学
マックス=ヴェーバー(独) 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
③実存哲学
サルトル(仏) 『嘔吐』『存在と無』 ☆人間の主体性や内面の自由を重んじた
④プラグマティズム
デューイ(米) 『民主主義と教育』☆プラグマティズムは実用主義と訳される
⑤修正資本主義
ケインズ(英) 『雇用・利子および貨幣の一般理論』
⑥構造主義
レヴィ=ストロース(仏) 『悲しき熱帯』
⑦ポスト=コロニアル研究
サイード(米) 『オリエンタリズム』 ☆植民地支配後も、文化的支配が続く
⑵文学
【20世紀の文化 ⑵文学】
①共通テストレベル
ロマン=ロラン(仏) 『ジャン=クリストフ』 ☆反ファシズムを貫く
トーマス=マン(独) 『魔の山』 ☆ナチスが政権を握るとスイスに亡命
ヘミングウェー(米) 『武器よさらば』→第一次世界大戦が題材 『誰がために鐘は鳴る』→スペイン内戦が題材
『老人と海』でノーベル文学賞を受賞
タゴール(インド) 『ギーターンジャリ』 ☆アジア人初のノーベル文学賞
魯迅(中国) 『狂人日記』『阿Q正伝』
②二次私大レベル
プルースト(仏) 『失われた時を求めて』
カミュ(仏) 『異邦人』『ペスト』
ジョイス(アイルランド) 『ユリシーズ』『ダブリン市民』
オーウェル(英) 『カタロニア讃歌』『動物農場』『1984年』
カフカ(チェコ) 『変身』『審判』『城』
スタインベック(米) 『怒りの葡萄』
ソルジェニーツィン(ソ) 『収容所群島』
ここで紹介した本はすべて大学入試で出題された本。読んでおくべき古典のリストでも、おすすめ本のリストでもありません。とはいえ、未来ある若者の人生を左右する「世界史」の入試問題で大学教授がわざわざ選んで出題した本だけあって、重要な本が並んでいるなとリストを作っていて感心させられます。
プルーストの『失われた時を求めて』は世界文学の最高峰として名高く、近年、岩波文庫訳が完結したので、文系の受験生はぜひ知っておいて欲しいです。大学生や社会人が読むべき古典を知る手がかりになりそうなイギリスの老舗出版社ペンギンブックスの「読むべき古典100」のリンクを貼っておきます。
19世紀なら、ジェーン・オースティンの『傲慢と偏見』、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』、アレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』。20世紀なら、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』、コンラッドの『闇の奥』。これらは上のリストには泣く泣く載せられなかった名作。しかし、このペンギンブックスのリストにはちゃんと入っています。
⑶絵画
【20世紀の文化 ⑶絵画】
①キュビズム(立体派)
ピカソ(スペイン) 「アヴィニョンの娘たち」「ゲルニカ」
②フォーヴィズム(野獣派)
マティス(仏) 「大きな赤い室内」
③シュールレアリスム
ダリ(スペイン) 「記憶の固執」
☆シケイロス(メキシコ) メキシコ革命に参加後、壁画運動を展開
①ピカソ 「アヴィニョンの娘たち」 ★キュビズム最初の作品
娼婦たちが題材。「その快楽もいつかは死の世界にとって代わられてしまう」
高階秀爾著『続 名画を見る眼』(岩波新書) p153
②マティス 「大きな赤い室内」
南仏ヴァンスのアトリエ。鮮やかな赤。マティスは色彩の表現力を大切にした。
③ダリ 「記憶の固執」
スペイン・カタルーニャ地方のクレウス岬が見える。故郷フィゲラスからの眺め。
④シャガール 「私と村」
憧れのパリに来て描いたのは故郷ロシアの寒村ヴィテブスク。緑がユダヤ系の私。
⑷大衆文化
⑷大衆文化
①映画
チャップリン(英)『モダン・タイムス』『独裁者』
②ロック
ビートルズ(英) 1960年代後半のカウンター=カルチャー(対抗文化)を象徴
チャップリンの『独裁者』 演説シーン
ジョン・レノン 「イマジン」
⑸科学技術
①飛行機 ライト兄弟が発明 ☆第一次世界大戦で初めて戦闘で使用
②相対性理論 アインシュタインが発表 ☆ドイツ生まれのユダヤ系物理学者
③抗生物質 1928年、フレミングがペニシリンを発見 ☆イギリスの細菌学者
④核兵器 1945年、アメリカが広島・長崎に原子爆弾を投下
⑤人工衛星 1957年、ソ連がスプートニク1号の打ち上げに成功
⑹環境問題
☆1962年 アメリカのレイチェル=カーソンが『沈黙の春』を出版
→農薬が生物に与える否定的影響、化学物質の危険性に警鐘
①1972年 国連人間環境会議 ☆スウェーデンのストックホルム →国連環境計画(UNEP)が設置 ☆「かけがえのない地球」
②1992年 国連環境開発会議(地球サミット) ☆ブラジルのリオデジャネイロ
→「持続可能な発展」をめざす「リオ宣言」が採択
③1997年 京都議定書→先進国にのみ温室効果ガスの排出量削減の法的義務
☆大量排出国のアメリカは批准を拒否
④2015年 国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)
パリ協定→すべての参加国に温室効果ガスの排出量の削減を求める
☆21世紀後半に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることが目標
⑺原発事故
①1979年 アメリカ スリーマイル島原子力発電所で事故
②1986年 ソ連 チェルノブイリ原子力発電所で事故
→ゴルバチョフがグラスノスチ(情報公開)を推進
③2011年 日本 福島第一原子力発電所で事故 ☆東日本大震災
【2012年 京都大学 世界史 最後の問題】
1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故について、当時のソヴィエト連邦の最高指導者が打ち出した情報公開をすすめる政策の名称を記せ。
<答え> グラスノスチ
【早慶良問】
①スペインの画家ピカソは、アフリカの美術に触発された「アヴィニョンの娘たち」を描き、その後【 】と名づけられた革新的な美術運動を牽引していった。
②マティスは、実際に見える色にとらわれない自由な色彩を用い、【 】と呼ばれる作風を確立した。
③「記憶の固執」を描いたダリに代表される【 】は、【 】の相対性理論、フロイトの精神分析学の影響が指摘されている。
④アメリカでは、プラグマティズムがさまざまな分野に影響を与え、教育学者としても知られる【 】は『民主主義と教育』を著した。
⑤ヘミングウェーの『【 】』はスペイン内戦を題材とした作品である。
⑥1928年、世界初の抗生物質ペニシリンを発見した人物は誰か。
⑦深層心理という無意識の次元の中に、悪の解明をめざしていたのは誰か。
⑧ダブリン出身で、『ユリシーズ』『ダブリン市民』などの作品で知られる作家は誰か。
⑨1947年に小説『ペスト』を発表し、その評価を高めた人物は誰か。
⑩『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で、カルヴァン派の予定説が資本主義の発展に対して果たした役割を強調した人物は誰か。
<答え>
①キュビズム ②フォーヴィズム ③シュールレアリスム、アインシュタイン ④デューイ ⑤誰がために鐘は鳴る ⑥フレミング ⑦フロイト ⑧ジョイス ⑨カミュ ⑩マックス=ヴェーバー
おわりに ピカソの「ゲルニカ」
パブロ・ピカソはスペイン南部アンダルシア地方のマラガに生まれた。マラガはフェニキア人が建設した由緒ある港町で、ピカソの生家のそばには古代ローマ遺跡やアラブの城塞があり、地中海の向かい側のアフリカ大陸は近い。父親はバスク地方出身の画家で絵の教師だった。ピカソが幼い頃から、さまざまな文化に触れる環境で育ったことがわかる。
「ゲルニカ」を見るとき、私はまず3枚の絵が頭に浮かぶ。
図1 ゴヤの「1808年5月3日」
図2 ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」
図3 ギュスターヴ・モローの「ケンタウロスに運ばれる死せる詩人」
図1のゴヤの「1808年5月3日」を見てみよう。ナポレオン軍がスペインの市民に銃を突きつけている。そこに立ちはだかる白い服の男。手のひらには赤い傷あと。十字架に架けられたイエスが時空を超えてマドリード市民を助けに来ている。「ゲルニカ」の左下に倒れている男の手のひらにも傷あとがある。ゴヤが心の目で見たイエスが、ピカソの絵の物語では死んでいる。今度の敵はナポレオン軍より手強いと、ヒトラーの残虐性を警告する。
図2のドラクロワの「民衆を導く自由の女神」は、1830年の七月革命を讃えている。女神が持つ三色旗を頂点とする三角形の構図が安定感を与え、画面下には犠牲者が横たわる。「ゲルニカ」も女性が持つ灯火を頂点に同じような三角形の構図で、下には死体が横たわる。自由をあきらめずに立ち上がったパリ市民の勇気をいま、忘れてはならないと言っているかのよう。
図3はギュスターヴ・モローの「ケンタウロスに運ばれる死せる詩人」。ケンタウロスは、ギリシア神話に登場する上半身が人間で下半身が馬の怪物。モローは19世紀末の象徴主義の画家で、フランスの国立美術学校の教授。モローは世界大戦が迫る世紀末のヨーロッパで、ギリシア神話と聖書を題材とする絵を描き続けた。ピカソに影響を与えたマティスはモローの教え子。ピカソもモローを意識していたはずだ。「ゲルニカ」の画面左の牡牛はギリシア神話のミノタウロス。牛の頭をした人間。なぜか私はミノタウロスからこのモローの絵を連想する。古代ギリシア以来の人類の自由が危ういとの警鐘を鳴らしているのではないだろうか。
1936年、スペインで左派のアサーニャを首班とする人民戦線内閣が成立すると、右派のフランコ将軍が地主など保守派の支持を得て反乱を起こし、スペイン内戦が始まった。ドイツのヒトラーとイタリアのムッソリーニはフランコ将軍の反乱軍を公然と支援する。しかし、イギリスとフランスは不干渉政策をとって、欧米の知識人による国際義勇軍やソ連が支援するアサーニャの政府軍を見殺しにした。結局、1939年にフランコ将軍が内戦に勝利し、独裁体制を樹立した。このスペイン内戦を機に、ナチス=ドイツとイタリアが接近する。1936年にベルリン=ローマ枢軸を結成し、これに日独防共協定の日本が参加して1937年には日独伊三国防共協定に拡大し、ファシズムが暴走していく。こうして第二次世界大戦が引き起こされた。スペイン内戦は第二次世界大戦を止める最後のチャンスだった。
「牡牛は野蛮を、馬は民衆を表している」というだけで、ピカソはそれ以上、この絵について説明しようとはしなかった。スペイン内戦に便乗してヒトラーが行った1937年4月26日のゲルニカ空爆は史上初の一般市民を対象にした無差別都市空爆。ドイツ空軍による3時間にわたる攻撃で、バスク地方の古都でバスク文化の中心だったゲルニカの町は全滅し、死者は2000人にのぼった。卑劣にもヒトラーはスペインで少数派のバスク人を標的にした。ここから戦略爆撃が始まり、1938年からの日本軍による重慶空爆、1945年2月のドレスデン空爆、1945年3月の東京大空襲、1945年8月の広島・長崎への原爆投下へと繋がっていく。
なぜ、ピカソは「ゲルニカ」を描いたのか。それは、ヒトラーの残虐性、ファシズムの危険性を全世界に訴えることで、人類史上最悪の悲劇である第二次世界大戦を止めようとしたからではないか。ピカソは数千万人の命を救おうとした。だからこそピカソは、20世紀最大のアーティストなのだと私は思う。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
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