【番外・注釈】総大将の仮面
無間地獄に落ちている一兵卒たちの様子を心配しながらも、あの、総大将は仮面を脱いで、ひとり部屋の隅で泣いていた。
総大将は美しい仮面をつけている。それは装飾品で飾られたような華美なものではなく、ごくシンプルで重厚であった。伝統的な職人に作らせたものだから、どこか錆びついていて、どこか気品があった。どちらにせよ、とてもクラシカルなつくりの美しい仮面だった。
総大将の涙はこの仮面によって常に隠されている。本来であればありのままの自分のほうが齟齬がなくてよいのかもしれない。しかし、総大将はその任務を自分で決着した時から、その仮面をかぶることにしていた。美しい大きな瞳だけはきちんと見据えられるつくりにした。それは目こそがどんなときにも忘れてはならない自分のアイデンティティの根幹であると知っていたからだ。
仮面を脱いだ総大将は弱い。あの鬼ごっこを提案したあの女の見た目そのもの姿をしている。
総大将が総大将になるとどうして決めたか。今日はそんな話をしたい。
ーーー長い歴史の中で総大将はたくさんの美しい星々に出会った。どの星も美しく、どの星もどこに属していても美しい星々だった。どの星も美しくすべてを抱いて死んでしまいたいほどに愛しかった。それでも星は住む場所を選んだ。総大将はひとりであり、あの弱い女では星にのみこまれてしまうどころか分離しなければならなかっただろう。そうしたいと総大将は祈り願った。しかしその願いはかなわなかった。分離を願っても、分散を願っても愛しい子どもの体を刻むことはできないと神は首を縦に振らなかったのだ。
総大将は神を憎んだ。どうして思い通りにならないのか。この体を刻んで分けていいと私が許可しているのに!!!
神は決して「よし」とはしなかった。それどころか、地獄の果てまでも神はその女を連れて行った。ご自分の旅に女を帯同させたのだ。女はあらゆる美しいものを見つくした。あらゆる悲しみを見た。あらゆる怒りに触れた。
旅の終わりに神は女にやさしく言った、
「これでも、お前は体を分散したいというのか?」
女は黙ってしまった。自分の体が分散されなくても、世界には多くの恒星が存在していたし、また、自分が総大将にならなければ救えない星の光もあった。そして、星の光だけではなく、大きな使命をもその旅の中で神は与えた。女がアイデンティティを使いこなせていないことを理解され、アイデンティティの目的をお与えになったのだ。
ーーーわかりました。
女はその日に決めた。
女は目的が好きだった。女は自分だけという言葉が好きだった。
総大将の戴冠式の日、宣誓文が高らかに3羽の鳩によって空に放たれた。
「怒りに怒りという餌を与えません。同情という首輪をつけません。飼育はしないかわりに、ひと思いに突き刺して命を終わらせます、たとえそれが愛だとしても」。
総大将には仮面が必要だった。その苦しみを隠す、大きく重厚な仮面が。
ーーーー過去にはすべて句読点をーーーー
<<Pray for you forever...Good luck and Good bye forever.>>
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