銀河の行軍【東西南北の総大将と敵】
軍は一切の説明を受けずして、行軍を開始した。錦の御旗は最後尾に、総大将と共に。しんがりをつとめるはあの亮である。先鋒は甚吾が志願した。女の総大将はそれを良しとした。それぞれがそれぞれの役割を理解し、自ら志願することに意味がある、そんなのふうにほほ笑んだ。
南の敵は「喜び」である。決して侮るべき敵ではない。この喜びというものは自分を必ず飲み込んでいく。それも良い気分で、時に酒のように麻薬のように本質を見せなくしてしまう。それが、「喜び」である。
私たちの生活におよそ、多くのポジティブな面を見せているこの喜び、そこにも敵が隠されていることを総大将はよく知っていた。
先鋒の甚吾は智将でもある。亮は文武に秀でているわけではない、。そのふたりが、しっかりと役割を理解して行軍している。この力強さを総大将は仮面と同化した顔の中心に輝く瞳をまた大きく輝かせた。総大将の目は恒星だ。この恒星はいまだかつて銀河に存在していなかった、全く新種の光だと教えたのは、実はレイである。まさしく新星を意味するレイは今この行軍には加わっていない。
アナザーストーリーがある。レイと総大将の恋を含めたアナザーストーリーだ。
総大将は自らレイを行軍に参加させなかった。それは総大将の気持ちが振幅し正しい判断が行えないからだとレイは察していた。いつもレイがいた。鬼ごっこをけしかけたのもレイだった。だからこそ、総大将はレイを遠ざけた。それは不信ではないし、別離でもない。とらわれているわけでもないし、何者でもない。レイ、その名はあの日に朽ち果てた。そして、この銀河の行軍の第三の目的地である西の「悲しみ」にはレイがいる。なぜなら、レイは西の総大将であるからだ。
東にはまた別の女の総大将がいる。そして、南にはあの背の高い大将がいる。南はまさしく星だ。恒星でもなければ、新星でもない、ただただ星だ。この行軍には4つの道標がある。東西南北それぞれの大将こそ、行軍が目指す敵である。もちろん、北の敵とはこの女の総大将である。
軍はそのことをしらない。もちろん、しんがりを務める亮でさえ知らない。だ唯一甚吾だけは感づいている。それは知っているわけではなく、第六感を使った確信の持てない夢だ。この夢を自分のものとすることも甚吾の課題であると総大将は知っていた。だからこそあえて明確なことは言わない。このこともまた西の総大将のレイが教えてくれた。
総大将は笑う
ーーーレイは私の顔が仮面と同化したことなど知る由もなかろう。
東の総大将には長らく会っていない。南の総大将にはそういえば、行軍を始める前のあの夜に会ったような気がする。それも夢だったのだろう、きっと。そう、信じないことを信じる夜も時には必要だ。
進め、全軍前進あるのみ!
総大将の恒星なる目はまた輝いた。視線の走らせる先にあるのは、南の敵である。100万光年。その道のりは果てしない。まだまだ旅ははじまったばかりである。
行軍の最中、ある者が大将の恒星なる目がさし示す方角に何かを見た、
「総大将!」
これは、「ではない」と総大将は判断した。進言や報告を総大将は求めていない。ゆえに、目を真っ黒に閉じた。
ーーーお前は一兵卒であることを忘れたのか!!
その者は口を真一文字に結んで、一瞬の沈黙を総大将に献上した。そして、また告げた、
「総大将!あそこに見えるを私は知っています!ご説明が必要でしょうか?」
総大将は納得した。
ーーーそのようにすべきである。私はその道には疎い。
その者は頷いた。総大将もうなずき、全軍はその者の指示するように行軍の方向を転換させた。
一兵卒はプロである。だれにも通れない道を歩んんで練り上げ極めた。だれひとりとして文句を言うものはいなかった。
昨日よりも今日が育っているように、きっと明日も。
総大将は希望を持った。そして、南の総大将との対峙を楽しみにした。まだまだ続いていく。長い時間がかかっても私はやり遂げる。
総大将はまた涙を流した。仮面と同化してもなお、総大将の気性だけは塗り替えられなかった。
まだまだ南への行軍は続く。きっと南の総大将は待ち構えている。北の大将とは正反対の者だ、対峙を、戦いを、一騎打ちを待ち望んでいる。
軍が進む、今日もまた。昨日よりもより鮮明な足取りで。
軍が進む、今日もまた、昨日のように。
軍が進む、行進曲は一兵卒たちの歩み、錦の御旗はひとりひとりの胸に。
そしてまとめるあの旗には蛇と鳩が。
<<to be continued/.............>>
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