改めて特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)を読んで ー交流及び共同学習の時間とは何かー
はじめに 特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)を読んで
久しぶりの投稿です。
文部科学省の「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」で、
「特別支援学級に在籍している児童生徒については、原則として週の授業時数の半分以上を目安として特別支援学級において児童生徒の一人一人の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等に応じた授業を行うこと。」
というフレーズが話題になり、わたしもいやいやそれを制限するのはおかしいのでは?と思いました。WHOからも勧告があり、文部科学省には多くの問い合わせも来ているようです。ただ、この通知をよく読むと、文部科学省が本当に伝えたかったことがこの部分ではないのだろうな、とも思いました。
もちろん、どうして半分以上という基準なのか、インクルーシブ教育を考える上で特別支援学級をその場として用いるのは適切なのか、という疑問はありますが、それを一度横に置いて、そもそもこの通知で言及されているのは一体なんなのかについて、みていきたいと思います。
さて、この通知のタイトルは「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」ですが、言及されている内容は「交流及び共同学習の時間」が基本となっており、その運用が目的とは違う実施のされ方になっていること、その皺寄せとして本来の特別支援教育の実施が適切になされていないことに対する通知となっています。この「交流及び共同学習の時間」とは一体何なのでしょうか。これが特別支援教育の中でどういった位置付けで、何を目的に設定されているのか、またそればかり実施した時子供の学びにどういった影響があるのかを考えてみましょう。
「交流及び共同学習の時間」とはなんだろう
「交流及び共同学習の時間」がどういったものであるかは、それぞれの学習指導要領を読んでいく必要があります。ここでは主に小学校、そして特別支援学校の学習指導要領を見ていきたいと思います。
1.小学校の学習指導要領から
小学校の学習指導要領の解説を見てみると
この部分に交流及び共同学習の機会を設けると出てきます。これは、学校の教育課程、要は授業など学校での活動、を作ったり実際にしたりする中で、家庭や地域との連携が大切だよ、その地域の中にはここに挙げたそれぞれの学校や障害のある幼児児童生徒との交流や共同学習の機会を作って、お互いに尊重し、共に働き協力して生活する態度を育めるように、学校運営をしていこうね、という学校運営の注意事項になります。
ここで大切なことは、この部分は「学校運営の注意事項」であって、授業の中身ではない、ということですね。ですので、交流及び共同学習というのは、授業における一つの授業方法であって、その中で何を学ぶのかは教科等のねらいから、今日の授業では何を学習するのか、何をねらって授業をしていくのかを考えていかなければなりません。
さらに解説を詳しく読んでみると、
解説の中では、このような部分を小学生が学ぶ場と考えられており、特別支援学級の児童との交流及び共同学習は、同じ学校の中にいるので、より多くの場で活動を共にすることができ、効果的な活動にできるよね、ということが書かれています。
さて、ここまでの中で少し違和感を感じられた方もいるのではないでしょうか。小学校の学習指導要領だから、というのはありますが、学びになっているのは障害のない児童であって、障害のある児童がまるで教材のように扱われてしまっています。
2.特別支援学校の学習指導要領から
そこで今度は、特別支援学校の学習指導要領から見ていきたいと思います。特別支援学校の学習指導要領第一章第6節の2の(2)に「交流及び共同学習」の話が出てきます。
小学校の学習指導要領と同じく、お互いに尊重しながら協働して生活していく態度を育むこと、と書いてあります。障害の有無にかかわらず、お互いに尊重しあい、助け合いながら生活できる態度が育まれるように、学校運営の中で交流及び共同学習を取り入れていきましょう、ということですね。さらに解説を詳しく見ていきましょう。
解説の中では、交流及び共同学習は障害のある児童生徒にとっても、大きな意義があるとされています。そして、やはり交流及び共同学習には、「教科等のねらいを達成」していく側面があると明記されていますね。
交流及び共同学習とは、ここまで見てきたように、障害のある、もしくはない児童が一緒に学ぶ場を設定し、その中でお互いに尊重する態度を育んだり、授業での学びを達成したりするための学習形態(授業のやり方)ということです。つまり、交流及び共同学習を実施する場合、その中で何をして、何を子供たちに学ばせたいかを、今取り組んでいる教科学習などに応じて設定していく必要があるということです。交流及び共同学習の場を設定すればオッケーというわけではないのですね。
改めて、通知を読んでみよう
さて、交流及び共同学習が一体どんなものであるのか、を見てきたうえでもう一度冒頭の通知を見ていきたいと思います。通知でも、最初の部分では「交流及び共同学習」の大切さが訴えられています。
しかし、「令和3年度特別支援学級及び通級による指導の実態調査の結果」に基づくと、
とあります。これは、障害に応じた十分な指導が受けられていない、学校側になされていない、という実態があることがわかったということですね。さらに「交流」の側面のみに重点を置いて、と書かれているので、共同学習として学ぶべき教科等の学習もできていないのだろうと推測できます。
さらに、上記の引用のような実態も一部の自治体ではあったようです。自立活動は、障害による学習や日常生活の困難さを主体的に乗り越えていけるようにするための学びの場であり、障害のある児童にとって欠かすことのできない学習とされています。ですので、この時間が設定されていないのはとんでもなくまずい状態です。また、機械的、画一的な編成が行われている部分も、本来はそれぞれの子供達の学習のニーズに合わせて柔軟に対応すべきところが、児童のニーズに関係なく実施されている部分に問題があります。また、通級による指導にも言及されています。
これらは、いずれも障害のある児童(生徒)が、その学習のニーズに合わせてより細やかに、ていねいに学習できるように学校側が体制を整えなさい、ということです。
どうしても、「半分」という数字に目が行きがちな通知でしたが、この通知の真意は、もっと学校側が障害のある児童生徒に対して個別の実態を把握して、その実態に合わせて学習形態を考え、最も効果的な授業を行いなさい、というお叱りの通知でした。
最後にー余談ー
今回はよくよく原文を自分で読んで、それから考えなくちゃいけないなと思わされた通知になりました。一次ソースを確認して正しく理解していかなければと反省させられました・・・。