『ボードレールの五つの詩』を訳してみた/4、瞑想
作曲:クロード・ドビュッシー(フランス 1862 - 1918)
詩:シャルル・ボードレール(フランス 1821 - 1867)
作曲年:1887 - 1889
4.Recueillement -瞑想-
Sois sage,ô ma douleur,et tiens-toi plus tranquille;
あぁ、苦しい時でさえ、賢い私よ、もう心配いらない。
Tu réclamais le soir: il descend,le voici !
太陽が沈んで、君が楽しみにしていた夕方が、もうすぐやって来る!
Une atmosphère obscure enveloppe la ville,
まち(社会)は、暗い空気に覆われて、
Aux uns portant la paix,aux autres le souci.
平和に過ごせる人と、不安な日々を過ごす人とに
分けられてしまったけれども。
Pendant que des mortels la multitude vile,
Sous le fouet du Plaisir,ce bourreau sans merci,
気晴らしに、卑怯なろくでなし共を叩いて、吊し上げてやろう。
情け無用の死刑執行人みたいにさ。
Va cueillir des remords dans la fête servile,
バカらしいパーティに参加している奴らも、
いずれ後悔させてやる。
Ma douleur,donne moi la main; viens par ici,
苦しそうな私、手を貸してくれ、こっちに来てくれよ。
Loin d'eux. Vois se pencher les défuntes Années,
Sur les balcons du ciel,en robes surannées.
いいえ、今はそれどころではありません。
着ているガウンはもはや古臭いし、心ははるか空の彼方のバルコニーの上にあっても、過ぎ去ってしまった日々を忘れないようにすることで精一杯です。
Surgir du fond des eaux le Regret souriant;
心の底から、後悔が微笑みを浮かべて、湧き水のようにどんどん溢れて来るのです。
Le soleil moribond s'endormir sous une arche;
太陽は、地平線の下に沈んで、永遠の眠りにつこうとしています。
Et,comme un long linceul traînant à l'Orient,
東の果てまで伸ばした光はまるで、長い死装束のよう。
Entends,ma chère,entends la douce nuit qui marche.
素直なあなた、耳をすまして。穏やかな夜の足音が、すぐそこに。
“Cinq Poèmes de Baudelaire” (1887 - 1889)
Composer:Claude Debussy (France 1862 - 1918)
Poems:Charles Baudelaire (France 1821 - 1867)
和訳:Megu-Mi
おもしろい!と思ったところ、個人的解釈
ma douleur「私の苦しみ」は、老い、もしくは病の苦しみ、ma chère「いとしい人」は、前向きな心、のことを言ってるのかな、ということは、この詩は主人公の中の、二つの対象的な心が対話しているんだろうか?
最終節の、「東まで伸びた光」は、自分の詩が、遠く離れた東の国まで伝わっていることのたとえなのかな?
まとめ
うん十年来の親友二人が、酒を飲み交わし、背中をさすって、お互いの歩んできた道を語り合っているような、そんな寂しい中でも、仲睦まじさを感じる詩でした。
仏教では、激しい欲望のいとなみのことを「渇愛」と呼び、これを捨て去ること、さらに、人間が生まれて、老いて、病気になって、死んでいくこと(生老病死)に対する執着も捨てて、はじめて悟りに至る道のスタートラインに立てる、といいます。この詩の主人公は、そのスタートラインにもうそろそろ立とうとしているように感じます。
最後の詩の翻訳が俄然楽しみになってきました。まるで、一人の詩人の人生を追っているようです。
では、今日はこの辺で。Au plaisir!