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モンシロチョウ

 キャベツ畑にモンシロチョウがヒラヒラと舞う頃のことだ。

 クラスに蝶の標本を持って来た生徒がいた。
羽を広げてピンで留められ3列5段に並んでいた。
自分でもやってみたいと思い立ち、豚の貯金箱から出した
硬貨を握りしめ、 駄菓子屋に走った。
棚の高いところに、昆虫採集セットが並んでいるのを
覚えていたのだ。

 小さな青いブリキの箱には、
赤や黄色の液が入った小瓶と注射器と ピンセットが
形良く収まっていた。
緑色の虫かごと虫とり網も買い揃え、
早速、キャベツ畑に入って蝶を捕まえた。
手の中でパタパタと羽を動かしている。

 羽を摘まみ、注射器に黄色い液を吸い込ませて
蝶の腹にプスリと刺し込み、 液を注入した。
手足を盛んに動かしていたが、段々緩慢になって、
やがてピタリと止まった。
この時、手の上で命の終わりを目撃した。
この蝶の楽しみや家族への思いや
この世に生まれた歓びのことが、
次々と頭の中に湧き上がり、いっぱいになった。
この生き物の生死に自分が係わった事を思った。

 買ったばかりの昆虫採集の用具は全部物置に放り込んで
二度と取り出すことはなかった。
目覚めのベッドの上で、今、そんな遠い記憶を辿っている。

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