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モーニングルーティン
まだ夜は明けない、5時の静寂
目覚ましは鳴らない。鳴る前に起きる。
時刻は5時12分。
部屋のブラインド越しにはまだ薄暗い街の景色が広がっている。
俺も人間だ。
「もう少し寝たい」と思うことも、ある。でもここで負けるやつは雑魚だ。
ダラダラと二度寝をしてしまう方が気持ち悪い。そこで失うものを知っているから。
とりあえず、スッと起き上がればあとはなんとかなる。
何も考えずにキッチンへ行き、いつものようにサプリをグラスに溶かし、一気に流し込む。
次にバナナを一本とカステラ。素早くエネルギーを補給し、着替えを済ませると、EAAのドリンクを作り、そのまま足早に24時間営業のジムへ向かう。
街はまだ静かで、空気は澄んでいる。すれ違うのはコンビニ帰りの夜更かし組か、同じように意識高く朝活する社会の勝者たち。
「この時間に動けるかどうかで、一日の充実度が決まる」
メロスはジムの扉を開ける。
45分間の戦い
ルーティンは決まっている。
そんなことで悩むなんて時間の無駄だ。
月曜・木曜 → 胸と上腕三頭筋
火曜・金曜 → 背中と上腕二頭筋
水曜・土曜 → 下半身と腹筋
日曜 → 有酸素 or 休息
今日は火曜日。
背中を追い込む日だ。
ラットプルダウンから始まり、デッドリフト、ワンハンドローイング、フェイスプル。重量と回数を細かく記録しながら、45分間を淡々とこなす。
この時間にスマホを見ることはない。時間の無駄だ。
筋肉と対話し、フォームを確認し、狙った部位にしっかり負荷をかける。
「意識できない筋肉は育たない」
「まだまだ追い込めることをお前が一番分かってるだろ」
パーソナルトレーナーの言葉を思い出しながら、最後のセットを終える。
汗をかいたTシャツの襟元を引っ張りながら、帰路につく。
街には、ようやく朝の気配が漂い始めていた。
朝の時間=投資
自宅に戻ると、まずはプロテインをシェイクする。
「タンパク質が足りない男は魅力がない」と誰かが言っていた気がするが、言うまでもなく真理だ。でもタンパク質ばかり摂りまくってるやつは視野が狭い。ビタミン、ミネラル、全てのバランスが男の源だ。
シャワーを浴び、デパ地下で購入した高級化粧水をたっぷりと顔に馴染ませる。
「いいスキンケアは30代から」と美容部員に言われて以来、ケアには抜かりがない。
化粧水のあとには、美容液と乳液。
「独身男性のくせに手入れしすぎ」なんて言われることもあるが、他人の評価などどうでもいい。
大事なのは、自分が納得できるかどうかだ。
ストレッチをしながら、少しの間、ぼんやりとする。
この時間は無駄ではない。むしろ、ここでいかに自分のコンディションを整えられるかが、その日のパフォーマンスを決める。
ブレックファースト
キッチンに立つ。
トースターにパンを入れ、フライパンにオリーブオイルをしいてからオムレツを焼く。
添えるのはブロッコリーと、ギリシャヨーグルトにグラノーラをトッピングしたもの。
「男の一人暮らしにしては丁寧すぎるだろ」と思うかもしれないが、何もおかしいことはない。自分が納得しているかどうかが、何より大事なんだ。
栄養を考え、食事を楽しむ。いいものをとって俺は強くなっているんだ、と自己肯定感に浸る。
それが大人の余裕というものだ。
紅茶を淹れ、静かに朝食をとる。
スマホをいじることはない。ゆっくりと噛み、味わう。
この時間が、一日のリズムを作るのだ。
通勤で戦うな
身支度を整え、オーダーメイドのスーツに袖を通す。
ネクタイを締め、革靴の紐を結び、鏡の前に立つ。
「悪くない」
満員電車には乗らない。
人生の貴重な時間を、あの消耗戦に費やすわけにはいかない。
自宅から少し歩くと、深夜早朝でも流しのタクシーが必ず拾える大通りがある。
手を挙げてタクシーを呼び止め、後部座席に沈む。
窓の外を眺めながら、今日の予定を頭の中で整理する。
「意識高いと言われようが、快適さには代えられない」
スマホで日経電子版を読んでいると、15分ほどでオフィスの近くに着く。
そのままスタバに立ち寄り、カプチーノを注文。
朝のスタバ店内のある匂いと雰囲気はなんとも言えない落ち着きがある。
カウンターで受け取ると、熱すぎず、ぬるすぎない絶妙な温度のフォームミルクが、口元に心地よく広がる。
「完璧な朝だ」
そう思いながら、ゆっくりとビルのエントランスへ向かい、社員証をかざす。
「ポーン」
また今日も、メロスの一日が始まるのだった。