見出し画像

4ヶ月を経て

7月からシュタイナー教育について学び始め、早くも約4ヶ月が過ぎようとしています。ここで1度自分の歩みを振り返り、今いる場所を確認してみようと思います。あまりに広大なシュタイナーの思想を前に、その大きさゆえに一筋縄でいかない点も多々ありますが、4ヶ月を経て自分が少しずつ変化してきた実感があります。勉強した内容が自分にどう作用したのか、トピック別にまとめていきます。

1.私にとっての音楽とは…という長年の問いについて言語化することができた

感覚人間で言葉にすることが難しいと感じるタイプ(だから弾いているともいえる)だが、言葉にしにくい内的な感覚について言語化することができた。
一言で表すならば『音楽が楽しいのは意識をもった状態で霊的な世界に触れることができるから』と言うことになる。それが自分にとって音楽の醍醐味。そのことがはっきりしたので、自分の活動や仕事の方向性が明確になった。

2.教育について考えるならば、それは人間の本質を知ることとイコールであると学んだ
『人間観=教育の基盤』

何でも屋にプロはいないと思っていたが、あらゆる分野の共通点に目を向けることに意義があると思わされた。世界のあらゆることは一見バラバラに見えるが、ことある毎にそれらが高次の意味では互いに関係しあっている。
ex.自然↔️音楽 絵画↔️音楽 建築↔️音楽 哲学↔️音楽 歴史↔️音楽 数学↔️音楽 心理↔️音楽 精神↔️音楽 政治↔️音楽 etc...音楽だけでもこんなに!
様々な分野を研究し、有機的に結び付けたシュタイナーの考察は、ある1つの分野に特化した専門書よりも却って説得力があり、自分にとって信頼できる情報である。

3.教育の目的~自由への教育~

シュタイナー教育の目指す『自由』(やりたいこととやるべきことが一致している)に大いに共感した。
やはり、音楽教室でありながら音楽教育を超えたところを見据えなければならない。シュタイナー学校では数学であっても、それは計算力の育成に留まらない。どんな科目でも人間全体を育てるものとして、その方法や手順が作られている。ピアノが目的でなく手段となり、自己実現できる子ども(もちろん大人の生徒さんであっても!)の育成に繋がるように。公的教育や社会のシステムは頭も心も“固化”に向かわせがち。少なくともプライベートな習い事の中では“動”に向かうような働きかけを大切にしたい。

4.観察眼が冴えてきて、コミュニケーション力の向上に繋がった

人間の構成要素、7年周期説、気質論を知ったことにより、生徒さんの個性や発達段階が掴みやすくなった。いつ、どんな働きかけをするのか、時期尚早なのか、今がタイミングなのか、考えるための指針ができた。相手の気質に合わせた振る舞いを意識出来るようになってきた。

5.霊性についての理解~調和への道筋~

シュタイナー思想やシュタイナー教育には心理学の領域を超えた霊的な視点も含まれている。彼は神秘主義をベースにしながら教育、治療、農業、建築など広範囲に渡る研究をしたが、そのノウハウはどれも実用的かつ実践的であり、漠然とした神秘主義ではない。シュタイナー思想は、見えない世界を信じるが見えるわけではない私にとって受け入れ理解しやすい精神世界である。宗教のような信仰を前提としておらず、厳密な科学的態度を尊重し、自然科学に基づいた考え方をしている点も興味深い。彼の提示したアントロポゾフィーは人間の本質を理解し規定するために存在の根元を探求する総合知の1つの形であり、ひいてはそれらが近代社会の諸問題解決に向けた調和への道筋となりうるものである。

6.教育は芸術

知識を教える場合でも体や感覚を総動員する。
例えば文字を学ぶとき、導入期には正しく書くことが重要なのではない。シュタイナー教育ではその字が、絵や形といった芸術から生まれたことを知り、そこから文字になるプロセスの中で字を生み出したかった人間の最初の欲求や最初のエネルギーに触れることを大切にしている。プロセスをなるべく丁寧に経過させること。知的に早産させない。
決まりきったカリキュラムをこなすのでは不十分。用意は必要だが、それと同時に目の前にいる生徒をよく見ながらいつでも臨機応変に対応し、一瞬一瞬が創造的であることが大事。

7.自分の在り方

今までは自分のコンセプトを持つのではなく、生徒さんの要望に合わせてきた。それはそれで良かったが、ここからは“ピアノ講師”という肩書きの中で自分が何を伝えていくのか専門領域をある程度絞った上で、深めていきたいという思いに至った。ピアニストを育てることは他の先生に任せればいいし、受験のハウツーもエキスパートはいるのでお任せ。ピアノが得意な子も、ちょっと不器用な子も、“音楽”によって内的な成長が出来るようにサポートできたらと思う。
ピアニストになれなかったのではなく、実績のある先生になれていないのでもなく、適職として街のピアノの先生に出来ることを極めていく心構えが出来てきた。それは自分のやっていることに誇りを持てるようになることにも繋がるような気がしている。
生徒に“自己実現”を促したいのであればまずは自分から始めなくてはならない。少なくともそうあろうとしている姿を見せていくこと。
どんなことを教えるかよりも教師がどんな人であるかが生徒に作用する。生徒のレベルに関わらず、教師自身が芸術的に冴えた状態でいること。自己教育や研鑽を続け、演奏し続けている人がかもし出す説得力がある。

8.どんな教室にしたいか

アントロポゾフィーを基盤に発達段階や気質に合わせた働きかけをしながら、楽器技術の向上だけでなくその先にある広域な音楽の世界に触れることができるレッスンをしていきたい。私が音楽の精神性に触れてきた経験から、楽器の技術レベルに関わらず、皆が音楽を通して内面の世界を広げられるような時間を作っていきたい。
風の時代、アフターコロナの時代に沿っていくこと。物質的な価値より見えない世界や精神性に価値が出てくる時代に合った内容にしていくこと。それは時代に合わせようと考えた結果ではなく、私自身が元々の持っている価値観にフィットした方向性だとも言える。

9.できるようになったことと、これからの課題

自分が学びを得ている手応えがあり、自信が増した。そうすると、レッスンにおいても安心してどっしり構える余裕がでてきた。初対面でも緊張しない。自分の安定感が生徒さんと保護者の方の安心感に繋がっていると思えた場面が多々あった。生徒さんの様子が変わったり、うまくいかないことがあっても、一呼吸おいてアントロポゾフィー的に分析することを試みた。そうすると、生徒さん動向で動揺することが少なくなり、心のザワつきも減った。
生徒さんの良い面がよりよくわかるようになった。一方で、何がその生徒さんのブロックとなっているのか、何が課題なのかが見えやすくなった。その課題は、技術面というよりは精神面であることが多い。ex.自信のなさ、怒りっぽい、集中できない、不注意、すぐあきらめる、極度に慎重になるetc...技術面で苦労する子には、音楽の歴史、背景などの話を積極的にしている。ピアノだけにとらわれず音楽を深く知る方向へもっていくようになった。

これからの課題としては、生徒さんを引き続きよく観察しつつ、それぞれに適した働きかけ方をしていくこと。観察や理解ができるようになってきても、レッスンの中で具体策を講じるには、もう少し勉強が必要だと思っている。勉強を続けて自信がつけば、もっと知識を現場で活用できるようになるだろう。その為には勇気も必要だと感じている。
それと同時にシュタイナー教育をどの程度取り入れるのか、自分なりの線引きが出来るようになる必要がありそうだ。目の前の生徒に、シュタイナーの手法が100%マッチするとは限らない。メソッドを見て、生徒を見ていないといったことにならないようにすること。
教師が知識として教えたことの大部分は忘れ去られる運命にある。知識がすっかり忘れ去られた後になお残りうるものに向かって教育していくという視点を持つことが重要。そのことを心に留めた上でどんなレッスンを提供するか考えた時、今までとは全く違う方法や手順でレッスンを組み立てる可能性や必要性があると感じ始めている。その具体的な内容を考えるのが、次のステップとなりそうだ。

10.おまけ

4ヶ月、生徒さんの教育に役立てよう!との思いで取り組んだ勉強は、結局のところ、私が私のことをよりよく理解するという自己教育が大部分を占めることとなった。子どもたちを理解したければ、まずは自分のことをよく知らなくては。きっと自分のことがわかってくると、相手に対する理解や洞察力が深まっていくのだろう。
シュタイナーの残した、
“自己を深く理解したければ世界を広く見なさい”
“世界を理解したければ自分の中を深く見つめなさい”
という言葉が、始めはよくわからなかったけれど、4ヶ月たった今、妙にしっくりきている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?