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雑踏に潜むモノ
いつもの駅構内
行き交う、人、人、人
立ち止まる人なんていない
みんなそれぞれ次の場所へ、次の場所へと足を運ぶ
いつもの光景だ
でもいつもより、私の足は少し重かった
もうすぐ大学生になる
始めたバイトで叱責が続いた
落ち込んでいたが、ちょっと気づき始めた
私が悪いと言うより、不満をぶつけられているだけだな
理不尽な状況に足が重い
でも、こんなところでゆっくり歩くとよくない
「きみ」
声をかける人がいた
見向きもしないで歩く
よくあることだからだ
でも、いつもより追いかけてくる
しつこい
たまらず振り返ると
くたびれたスーツ、くたびれた顔のおじさん
父と同じくらいだろうか
「きみ、きみ、可愛いね。30分1万円あげるからお茶してくれないか」
は?
金額に数秒だけ固まる
お金が欲しいからではない
こんな私にそんな値段をつけたからだ
少しフリーズしてしまったが、踵を返し足早に立ち去る
まだ、しつこく追いかけて何かを言っている
もう少しお金を上げてくれるようだ
ついて行くわけないし
しばらくすると、いなくなった
彼らは地下街の人の見えにくい場所へと誘ってくる
あまり人目に付かないように
ため息が出た
おじさん
私にそのお金を使うならさ、家族のために何かしなよ
こんな寒い場所で
自分の子どもくらいの娘に何度も声をかけて
でも、気持ち悪いとかそういう感情よりも
かわいそうだった
おじさんは居場所はないのだろう
家に帰っても、居場所がない
あんなにくたびれた顔になるまで家族のために働いて、居場所がない
なんてかわいそうなのだろう
父とあのおじさんが重なる
家族って何だろう
何故、家族を作ったのに独りぼっちになってしまうのだろう
行き交う人の中で、少女に声をかけ、お金で気を引こうとすることは許されることではない
でもくたびれた大人を救うにはどうしたらいいのだろう
ため息が出た
とりあえず私は自分が結婚した人を孤独にしたいと思わない
家に居場所がないなんて状態に絶対したくない
暖かい家に早く帰ろうと思うようには出来ないのか
いや、出来る
出来るはずだ
そんな考えをぐるぐる頭でかき混ぜて家路についた
すべてを雑踏が飲み込む
自分を守るのは自分だけ
人に紛れ、切り裂くように同じ場所を何事もなく平然と歩く
飲み込まれないように
写真は「みんなのフォトギャラリー」から使わせていただいています。ありがとうございました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。