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パトリック・メルローズ、を知っているか(読前感想文)
架空の人物。
しかし、もしかしたらいるかもしれない、そういう人物。
アルコールとドラッグに溺れ、父親が死んでも彼の呪縛から逃れられない退廃的な男が生き直していくお話。
海外ドラマ(演じたのはベネディクト・カンバーバッチ)で日本未公開、小説の翻訳版は今秋発売。
熱心なベネ様オタクでも海外ドラマ通でもない私がこのお話をどこで知ったのかというと、シンガポールから帰ってくる飛行機の中だった。
深夜のフライトで『坂道のアポロン』で清々しい感動を迎えたばかりの私の次のチョイスはこのまま寝るかこのドラマを観るかの二択だった。
結果、(好意的な意味で)観るんじゃなかった。
リスニングは苦手でなんとなく画から察するしかないのだが、男がすごく刹那的で絶望的でセクシーなのは伝わる。
(そこは役者の立振る舞いの部分が大きいけれど)
それからというもの続きは気になるわ、翻訳本が待ち遠しいわ、で心がざわざわ。
身内にそんな男がいたら大変だし、近寄っただけでも幸薄そうな香りしかしない。
だけど、どうしても気になってしまうどうしようもないそんな人。
ちょっと語ります。
30も近くなると、恋や愛なんてどうでもいい。
浮気や不倫も興味の欠片すらない、ちょっと前の昼ドラによくあった気怠い主婦が主人公の寝取り寝取られ憎しみ合いとか欲求不満の視聴者のための疑似AVも関係ない。
そうは言っても、真夜中のショートケーキのような甘美な毒を煽りたい、と思うときもある。
ハロー&グッバイな、ワンナイトカーニバルな、そういうもの。
心は欲しいと思わないし、くれてやらない。
大事なのは名前がないことと背骨が痺れるほどの行為、と一夜を越えるだけの持久力です。
そんな阿婆擦れた頭を許してくれそうじゃないですか、パトリック。
うっとりした顔で呟く愛にまつわる一切の言葉が介在しなくても良さそう。
ほらね、妄想のサンドバックとしてはとっても優秀。
シチュエーションを変えていくらでも書けそうな安っぽさに耐えうる人間性。
謎に包まれた人物には相応の香りがある。
『パトリック・メルローズ』を、あるときは仄暗い画面から、あるときは文字と文字の隙間から、胸いっぱいに吸い込みたいと思う。
それくらいの遊びは必要、だ。
追記。
翻訳版がハヤカワから10月18日に発売予定だそうです。
全5巻、スリリングな読書の秋になりそう。